ゴールドレイン

小夏 つきひ

文字の大きさ
上 下
55 / 77
東京

東京⑬

しおりを挟む
「え、なんでその服で来たの?」
瑠香は不満そうに言った。 拓人は予想通りだと思った。
「あんなにいっぱい送ったのに、 ありえない!」
「すいません」
「なんで着ないの?」
「全部ブランドっぽかったんで、気になって」
「あげるんだから別に汚したっていいのに。 次はちゃんと着てきてよね」
拓人は気まずそうに目を逸らした。 瑠香は返事をしないことに苛立ちサングラスの下で目を細めた。やがて歩きだしたその背中を追いかけて腕を組んだ。
「何やってるんですか」
「いーじゃん別に、 早く行こっ」
2人は新宿区内にあるビルへ向かった。
歩いて10分ほどの場所にそのビルはあった。5階へ上がるためエレベーターが着くのを待っていると瑠香が聞いた。
「緊張してる?」
「ちょっとだけ」
「・・・かわいいっ」
瑠香が組んでいる腕に力を入れた。 拓人は “かわいい” という言葉に違和感を持ったが、それよりもさっきから注意してもやめない密着に嫌気がさした。
「それ、やめてもらっていいですか?」
「なんで? さすがに事務所入るときはやめるよ?」
「・・・そうじゃなくて、仕事の話で来てるのにこんなだと」
「もー。 わかった」
瑠香は腕を話した。 気が付くと後ろに男が1人立っていた。ようやくエレベーターが到着し3人とも乗った。男は行先のボタンを押さなかった。
沈黙のあと5階でエレベーターのドアが開き、 拓人は男が降りるのを待ちながらボタンを押した。
さほど広くない廊下を歩き瑠香に続いて歩いた。 先に降りていた男が奥の方の部屋に入るのが見えた。 まさかと思っていると瑠香は同じ部屋に入っていった。
事務所には男ばかりで6人ほどいる。先程の男は差座してパソコンの電源を入れている。
瑠香が上席らしき男のもとへ向かった。
「やっほ、北見さん」
軽い口調で声を掛けると北見は無表情で「おう」と言い少々面倒そうに立ち上がった。拓人は早速挨拶した。
「初めまして、原です。今日はお忙しい中お時間取っていただいて」
話しきらないうちに北見は歩き出した。 瑠香は何も気にしない様子でついていく。
ある部屋のドアを開けると長テーブルがあり右側に北見が座り瑠香が反対側に座った。北見が何も言わないのを見て拓人はひとこと言い瑠香の席から2つ離れて座った。
「よろしくお願いします。 これ、履歴書です」
北見は置かれた履歴書を手にとり首を斜めにしたまま書いてある内容に目を通した。
「カメラ歴は?」
「本格的なカメラだと、趣味も入れて4年くらいです」
「仕事はどんな?」
「今は警備員の仕事をしながら知り合いのカメラマンの人に時々教わってます」
「そうじゃなくて、 スタジオで働いたやつを聞いてる」
「スタジオ経験は、ありません」
「・・・じゃあ何の経験ならあんの?」
静かに唸るような北見の声に拓人は焦りを感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...