ゴールドレイン

小夏 つきひ

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東京

東京⑦

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17時00分、腕時計の針がぴったりとその時刻を指した。拓人は遅番の者に声を掛け、着替えのために上の階へ移動した。
ビルを出ると曇り空からぽつぽつと雨粒が落ちてきた。指定された店への行き方をネットの地図で検索した。この辺りは仕事で通っているものの、私用で来ることはなく、もちろん店の名前は聞いたことがない。周辺の建物を目印にルートを辿っていくとやがてガイドの写真にあった通りの赤い看板のイタリアンレストランが見つかった。
ドアを開けると待ちかねた瑠香が手を振り拓人を席へと招いた。
「やっと来たー」
「すいません」
「早く注文しよっ」
瑠香は機嫌良さそうにメニュー表をテーブルに広げた。
「あたしはここに来たらいつも注文するパスタがあるんだー。アシスタントさんはどれにする?」
「今日のおすすめのやつにします」
「決めるの早いね」
「はい」
店員を呼んでパスタとドリンクを注文をした。店員が去っていくと瑠香は早速拓人に話しかけた。
「アシスタントさんって名前何ていうの?」
「原です」
「ちーがーう、下の名前」
「…タクトです」
「タクトね」
「瑠香さんは本名ですか?」
「うん、本名。年いくつなの?」
「23です」
「じゃあ2個下だ」
「そうなんですね」
瑠香は拓人の瞳を観察するようにじっと見た。
「どうしたんですか?」
「んー、あんまり女に興味ない感じ?」
「え?」
「彼女いないの?」
「いません」
「いつから?」
「…できたことないです」
「は!?」
テーブルに勢いよく置かれたお冷のグラスが大きな音を立て周囲の注目を集めた。視線も気にせず瑠香は質問を続けた。
「学生のときモテなかったの?」
拓人は苦い顔をした。
「あっごめん、その顔で彼女できなかったとか信じられなくて。合コンとか行かないの?」
「行かないですね」
「友達は?」
「……」
「なんか、地味だね」
瑠香がそう言うと拓人はお冷を口にして次の言葉を待った。
「ここデザートはさ、ブリュレが美味しいんだー。あとで一緒の注文する?」
「ブリュレって何ですか?」
「ほら、これ」
瑠香がメニューを拓人に向けて写真を見せた、しかし拓人はぴんと来ないようだ。
「え、わかんない?」
「はい」
拓人は会話が続かないことに痺れを切らされるかと少し懸念したが、瑠香は意外に興味を持ったような顔をしている。
「ねえ、タクトって呼んでいい?」
「はい」
「タクトはカメラの仕事してないの?」
「時々個人でやってます」
「何撮るの?」
「料理とか、商品とか」
「モデルの撮影じゃないの?」
「はい。まだそんな大きい仕事は」
「どうやって仕事取ってるの?」
「SNSで写真載せてて、それでDMとかから依頼あってって感じです」
「そうなんだ。そのアカウント教えてよ」
「あ…はい」
拓人は携帯電話を鞄から取り出した。操作している間も瑠香は拓人のことを隅々観察した。
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