ゴールドレイン

小夏 つきひ

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咲 23

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夏休みが始まる頃には拓人の腕から三角巾が外された。そして多重子は例の掃除を再開するよう言いつけた。
拓人の部屋には扇風機やエアコンがなく窓すらない。唇が白くなっている拓人の顔を見て多重子は団扇をひとつ部屋に投げ入れた。
掃除にきりがつくと拓人は外へ出掛ける。真昼間は日差しがきつくなり肌が痛くなる、それでも家にいるよりずっといいと冷たい川の水に足先をつけながら思った。
盆になる少し前、やはりあの家族がやってきた。一家は拓人の存在に気が付いたが声を掛けることもなく荷物を玄関に下ろし家の中へ入って行った。
夕食時、拓人は1人部屋で食事を摂った。トイレに向かうと居間から珍しく多重子の楽し気な声が聞こえてきた。
食器を洗いに台所へ行くと孝太は決まって真後ろで騒ぐ。剣のおもちゃを振り回し、至るところで大きな音を立てた。
昼は昼で拓人が廊下の雑巾がけをしているところへうろつき邪魔をする。多重子の気に障ることがあれば拓人は自分の部屋で正座をさせられた。
さぼることがないようにと襖を開けたままにしておくよう言われ、そこに孝太が度々顔を覗かせて嘲笑を浮かべるのだった。
拓人にとって長い5日間だった。既に慣れていたはずの孤独や疎外感もこの時ばかりは胸に堪えた。
孝太らが荷物をまとめて家を発つと好奇の視線から解放されたことで心の内はすっかりもぬけの殻となってしまった。


夏休みも残り僅かとなった。拓人はいつものように掃除を終わらせると外へ出掛けた。たったひとつの拠り所だったあの場所も今は花も枯れて青々とした草が茂っているだけになった。拓人は草の地面に寝ころび高い空を見上げた。もうあの笛を聞くことはないのだろうか、そう考えて目を瞑った―――――
「こんなところで寝転んで、暑くないのか?」
突然の声に驚き目を開けると見知らぬ男が1人、爽やかな笑みを見せて立っていた。
「…はい」
上半身を起こし咄嗟に適当な返事をすると男は風で吹き飛びそうになったバケット帽を手で押さえながら遠くの空を見た。
「やっぱりこっちの方は自然が綺麗だな」
独り言か話しかけているのかわからない言葉を聞いて拓人は返事に戸惑った。男は首から下げていたカメラを構えると山の方に向けてシャッターを切った。顔からカメラを離すと拓人に訊いた。
「この辺で景色のいい場所ってどこかな?」
拓人は僅かに警戒したが、男が持つ少し特別に見えるカメラに興味があった。
「色々あるよ」
「よかったら案内してくれない?」
「……うん」
拓人は立ち上がり服に付いた草を払った。男は空を見上げ、吸い込まれそうな青さに目を細めている。


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