ゴールドレイン

小夏 つきひ

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咲⑳

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「たっくん、今まで寂しい思いもたくさんしたと思うけど、これからはおばあちゃんに甘えさせてもらいなさいね」
曽根は母親のいない拓人にとって女性である多重子の存在は大きいはずだと考えている。
拓人は曽根に宮田の姿を重ねた。皆、多重子の本性を知らず自分のことを優しい祖母に引き取られた可哀想な子供だと思っている。そんな絶望が胸に絡んだ。
「学校の方はどう?友達はできた?」
「…うん」
「良かった。こっちは空気もいいし、暫くはゆっくり過ごしてね。おばさんまたたっくんの顔見に来るわ」
「はい」
拓人は障子にある影を横目で見ながら小さく返事をした。
玄関からチャイムの音が鳴った。障子の影が消え、少しすると子供の声が遠くに聞こえた。
「あら、たっくんの友達が来たんじゃない?」
曽根は声を弾ませた。拓人は浮かない顔をしている。
「おばさんのことはいいから、行ってきたら?」
返事に困っていると多重子が玄関の方から拓人を呼んだ。
「ほら、行っておいで」
「うん」
障子を開けて玄関へ向かうと手にファイルを持った多重子がこちらへ歩いてきた。何を言われるのかと思い構えたが多重子は無言で通りすぎて行った。
顔を出すと同じクラスの生徒が3人、玄関に立っていた。
「あ、原君。肘大丈夫?」
「…うん」
「その白い布、なんかかっこええな」
「…」
「あたしらプリント持って来たんよ。さっきおばあちゃんに渡したよ」
「ありがとう」
「待っといてって言われたんやけど、何かな?」
何も思いつかず僅かに首を傾げると多重子が後ろから甲高い声を出した。
「みんな、今年はちょっと早いけど、これもらってちょうだい」
手に持っているビニールの袋にはカラフルなパッケージが透けて見えている。中身は菓子のようだ。
「あ!これ去年も盆にくれたやつ」
多重子は1人ずつにそれを手渡すと曲がりくねった声で言った。
「もうすぐ夏休みでしょ?またうちの孝太が帰ってくるから、遊んであげてね」
子供たちは互いに顔を見合わせた、手に持たされた菓子を見て返事せざるを得なくなった。
「はい」
「ありがとう、みんな良い子やねえ」
「お菓子ありがとう」
「またお菓子用意しておくから、夏休みになったらうちに遊びに来てね」
「はい」
「原君おだいじに!」
子供たちは手を振り玄関を出た。拓人は右手を振り返した。ドアが閉まると多重子は拓人の存在を無視するようにさっさと歩いていった。
多重子と拓人が部屋に入ると曽根は鞄を持って立ち上がった。
「そろそろ帰ります」
「まあ。もうちょっとゆっくりしていってください」
「いえいえ、お忙しいと思いますので」
「そうですか、ぜひまた会いに来てやってください」
「多重子さん、他人の私が言うのも変ですが、どうかたっくんを宜しくお願いします」
多重子は淑やかに振る舞った。
玄関で曽根を見送った。ドアが閉まったあとの静けさが拓人に更なる孤独を感じさせた。


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