ゴールドレイン

小夏 つきひ

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咲③

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「俺、原君が住んでるとこ知っとるよ」
その言葉に周りは反応した。
「どこ?なんで知っとるん?」
「いつも盆になったらお菓子くれるおばちゃんおるやろ?」
「あ、知ってる!」
「原君、あそこの家やんな?」
拓人には菓子のことがわからなかった。しかし、代わりにどう言えばいいかも思いつかない。
「おじいちゃんと、おばあちゃんの家に住んでる」
「え、お母さんとかは?」
「…お母さんはいない。お父さんは、一緒に住めないから」
騒いでいた生徒達は空気を察した。
「そうなんや。なあ、今日帰り遊ぼうや?」
「今日は帰る」
「わかった、また遊ぼうな」
「うん」
「みんな、鬼ごっこしに行かん?」
「行くー!」
「原君もおいでよ」
「…お腹痛いから、やめとく」
「そうなん?ひどかったら保健室もあるよ」
「大丈夫」
「わかった。またね」
話しかけてきた生徒は皆教室を出て行った。


学校からの帰り道、2人の大人とすれ違った。どちらも拓人の顔をじろじろと見ていた。
家に着くと玄関で多重子と話す老人の姿があった。
「ただいま」
「ああ、拓人。今あんたの話してたところだよ。挨拶しなさい」
多重子に言われ、こんにちは、と言って頭を下げた。
「こんにちは。可愛らしい子やね」
拓人はただ俯いて立った。
「おばちゃん猪又っていうんやけど、この近くに住んでるからなんかあったら言うてね」
「…はい」
もう一度頭を下げてから部屋へ向かった。
ここ最近は人が度々家にやってくる。多重子はどの人にも同じように淑やかに振る舞う。家ではほとんど話しているのを見ない。曽根明美の賑やかさを知っているだけに、家によってこんなに違うものなのかと思った。
部屋で宿題を取り出して始めた。少しして、玄関の方から声が聞こえなくなった。静かになると宿が手につかなくなってきた。
拓人は部屋の中を眺めた。本棚ひとつなく、まるで物置小屋だ。そして、どことなく重い空気が漂う妙な暗さにずっと違和感を覚えている。
まだ岡山にいたとき、ケースワーカーへ父親に会いたいと言った。しかし、まだ合わせることはできないと説明された。そして、健司から一度も聞かされたことのない祖父母が現れた。何もかもわからず、これからどうなってしまうのか、この薄暗い部屋でひとり涙を流しながら考える日々が続いている。

深夜、目が覚めた拓人はトイレに行った。喉が渇いて台所へ向かった。電気をつけて茶の入ったやかんを探した。
茶を飲んで部屋に戻ろうと真っ暗な廊下を歩いた。廊下の電気をつければ多重子達の部屋にまで明かりが届いてしまう。そのため壁をつたいながら歩いた。襖の開くような音が僅かに聞こえて拓人は足を止めた。
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