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写真④
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「あらー!ごめんねえー」
あっけらかんとした声が病室に響いた。
「驚きました、階段から落ちたって聞いて。これ、少しですけど」
健司は見舞いの果物籠を台に置いた。
「こんなにたくさん?嬉しいわ~。ほんとびっくりしたわよ、あっと思ったら天井が見えて1階まですってんころりん。まさかこんな大事になるなんてねえ」
曽根は活気ある声で笑った。
「たっくんには悪いんだけど、おばさんこんなだから当分お料理教えてあげられなくなっちゃった」
「ううん大丈夫。曽根さん、両手出して」
「両手?」
「うん」
曽根がふっくらした手を広げて拓人へ差し出した。拓人はパーカーの前ポケットに入れていたものを隠すように取り出して曽根の両手に置いた。
「これ、僕からお見舞い」
色とりどりの折り鶴が溢れんばかりに広がった。
「え~すごいじゃない。たっくんが折ったの?」
「うん。千羽じゃないけど」
「たくさんいるわねえ、千羽じゃなくても元気になれそう。来てくれてありがとね」
「曽根さんにはいつもお世話になってますから、今こそ手伝える事があれば何でも言って下さい」
健司がそう言うと拓人も曽根に頷いて見せた。
「気持ちだけで充分。主人も定年で家の事は自分で出来るから。腰は痛めたけど、なんだか休暇でももらった気分よ」
曽根の明るい笑い声を聞いて原親子は目を合わせ安堵した。
病院からの帰り道、健司と拓人は商店街を歩きながら冬の終わりに近付く寒さに身を縮ませた。
「風、冷たいな」
健司はコートの襟を立てた。
「拓人、夕飯は何がいい?」
「……う~ん」
無言が続いた後、拓人は突然立ち止まった。視線の先で中年の店主がコロッケを揚げている。
「今夜は久しぶりに家でコロッケでも作ろうか」
「えっ、いいの?」
「お父さん明日まで休みだからな。揚げたてのコロッケ食べたいだろ?ほら、お母さんが作ってくれてたコーン入りのやつ」
「うん!僕も作るの手伝う」
「じゃあスーパーで買い物して帰ろうか」
拓人は目を輝かせた。軽快な足取りで少し前を歩く息子の背中を見ながら健司は胸がほぐれるような感情を抱いた。
家に着くと拓人はスーパーで買った食材を袋から取り出して冷蔵庫に入れた。その間健司はジャガイモを茹でながらコロッケに混ぜる具材を炒めた。
「ジャガイモはお父さんが潰しとくから拓人は洗濯物取り込んでくれるか?」
「うん、わかった」
2階のベランダに上がり20分程して拓人は台所に戻って来た。
「ジャガイモのいい匂いがする」
「手、洗ってきなさい」
「はーい」
ジャガイモにミンチ肉、玉ねぎ、缶詰のコーンを混ぜてコンソメ粉で味を付ける。それがめぐみの作る“特製コロッケ“だ。
「僕知ってるよ、こうやるんでしょ?」
拓人はコロッケの形を作ると健司に見せた。
「お、うまいじゃないか」
パン粉をつけて大方出来てきた頃に健司は油を入れておいた天ぷら鍋に火をつけた。
「あとは揚げるだけだな」
「楽しみ!ほら、こんなにたくさん」
油の温度が上がりそろそろというところでインターホンが鳴った。
「誰だろう」
健司は拓人のパン粉だらけの両手を見てインターホンに出る事にした。
「はい… ああ、はい、今行きます」
「誰が来たの?」
「宅急便だってさ」
「ふーん」
健司はガスコンロの火を止めて玄関へ向かった。
あっけらかんとした声が病室に響いた。
「驚きました、階段から落ちたって聞いて。これ、少しですけど」
健司は見舞いの果物籠を台に置いた。
「こんなにたくさん?嬉しいわ~。ほんとびっくりしたわよ、あっと思ったら天井が見えて1階まですってんころりん。まさかこんな大事になるなんてねえ」
曽根は活気ある声で笑った。
「たっくんには悪いんだけど、おばさんこんなだから当分お料理教えてあげられなくなっちゃった」
「ううん大丈夫。曽根さん、両手出して」
「両手?」
「うん」
曽根がふっくらした手を広げて拓人へ差し出した。拓人はパーカーの前ポケットに入れていたものを隠すように取り出して曽根の両手に置いた。
「これ、僕からお見舞い」
色とりどりの折り鶴が溢れんばかりに広がった。
「え~すごいじゃない。たっくんが折ったの?」
「うん。千羽じゃないけど」
「たくさんいるわねえ、千羽じゃなくても元気になれそう。来てくれてありがとね」
「曽根さんにはいつもお世話になってますから、今こそ手伝える事があれば何でも言って下さい」
健司がそう言うと拓人も曽根に頷いて見せた。
「気持ちだけで充分。主人も定年で家の事は自分で出来るから。腰は痛めたけど、なんだか休暇でももらった気分よ」
曽根の明るい笑い声を聞いて原親子は目を合わせ安堵した。
病院からの帰り道、健司と拓人は商店街を歩きながら冬の終わりに近付く寒さに身を縮ませた。
「風、冷たいな」
健司はコートの襟を立てた。
「拓人、夕飯は何がいい?」
「……う~ん」
無言が続いた後、拓人は突然立ち止まった。視線の先で中年の店主がコロッケを揚げている。
「今夜は久しぶりに家でコロッケでも作ろうか」
「えっ、いいの?」
「お父さん明日まで休みだからな。揚げたてのコロッケ食べたいだろ?ほら、お母さんが作ってくれてたコーン入りのやつ」
「うん!僕も作るの手伝う」
「じゃあスーパーで買い物して帰ろうか」
拓人は目を輝かせた。軽快な足取りで少し前を歩く息子の背中を見ながら健司は胸がほぐれるような感情を抱いた。
家に着くと拓人はスーパーで買った食材を袋から取り出して冷蔵庫に入れた。その間健司はジャガイモを茹でながらコロッケに混ぜる具材を炒めた。
「ジャガイモはお父さんが潰しとくから拓人は洗濯物取り込んでくれるか?」
「うん、わかった」
2階のベランダに上がり20分程して拓人は台所に戻って来た。
「ジャガイモのいい匂いがする」
「手、洗ってきなさい」
「はーい」
ジャガイモにミンチ肉、玉ねぎ、缶詰のコーンを混ぜてコンソメ粉で味を付ける。それがめぐみの作る“特製コロッケ“だ。
「僕知ってるよ、こうやるんでしょ?」
拓人はコロッケの形を作ると健司に見せた。
「お、うまいじゃないか」
パン粉をつけて大方出来てきた頃に健司は油を入れておいた天ぷら鍋に火をつけた。
「あとは揚げるだけだな」
「楽しみ!ほら、こんなにたくさん」
油の温度が上がりそろそろというところでインターホンが鳴った。
「誰だろう」
健司は拓人のパン粉だらけの両手を見てインターホンに出る事にした。
「はい… ああ、はい、今行きます」
「誰が来たの?」
「宅急便だってさ」
「ふーん」
健司はガスコンロの火を止めて玄関へ向かった。
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