おもいでにかわるまで

名波美奈

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第四章

第二百五十二話

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「あ、それ・・・俺・・・。」

「あ、やっぱり長谷川君関係あるの?良かったあ。ついでにちょっと磨いておいたよ。」

あの時彼女が笑ってくれるといつも安心した。でも泣き顔ばかりが印象に残っている。だから都合良く良い思い出行きになんて出来ないし、もう会う事もなくて、また処分に困るものを今更手に入れても仕方がない。

そして明人は彼女が失くした指輪を手に入れる必要はないと判断して‘知らない’と伝えようとした。

「はい。確かに返したよ。」

「あ・・・違うって・・・。」

うまく言えずにもたもたしていたから明人の掌に小さな石が一つ付いたシルバーリングが返ってきた。

「そんな気持ちのこもった物を私に捨てさせる程長谷川君は非道じゃないもんね。」

汗が大量に出た。だから眼鏡を外し吹き出る汗をハンカチで拭うと、その場にいた全員が釘付けになった。

「なななななな!」

「明人、お前、顔・・・。」

「え?」

「長谷川君なんで今までコンタクトにしなかったの?」

「眼鏡の方が似合っていて良いって言われた事があってそうなのかなって思ってたから。それにコンタクト面倒だし。」

「それその時の女に言われたでしょ。馬鹿じゃん。そんなの長谷川君に悪い虫がつかない様に騙されたんだよ。」

「まさか。そんなの深読み。」

明人は笑い飛ばした。

「そろそろ堀田の所にビールつぎに行こうぜー。」

席を立って、ゾロゾロと新郎新婦に祝いの言葉を掛けに行った。それから二次会は終わり、まだ夜の7時前だった為に更に飲みに行く話が出た。

「俺家近くないしさあ、チビに手が掛かって奥さん大変だから帰るわ。」

「えー、残念。長谷川君は来るよね?昔はそこまで話さなかったし、今日は楽しかったからアタシもっと喋りたいな。」

「皆ごめん。俺も今日は帰る。」

明人はまた勇利と二人で歩く事になった。

「残んなくて良かったの?超ロックオンされてたじゃん。お前超優良物件だもんね。」

「はは。まさか。それに今日だけで情報が多過ぎてちょっと胃酸過多気味。疲れた。」

「はは。明人らしいや。でも堀田幸せそうだったね。俺はいつまでも堀田が堀田な感じで嬉しいよ。」

「うん。引き出物もやたら重いしね。」

「ごっつい皿とどでかいバームクーヘンだな。」

「間違いなく。」

ぷっあははと二人で声を揃えて笑った。

「お前だって素朴でピュアな所全然変わってないよ。」

「は!?言われた事ないし。」

「んで女は?実際女の方がほっとかないでしょ?」

「勉強ついていくのがやっとだったから・・・それに・・・。」

勇利は明人の続きを待った。
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