おもいでにかわるまで

名波美奈

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第四章

第二百四十話

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「えっ・・・。」

耳を疑った。

「1月になってほんとすぐ内定辞退するって親御さんから電話があったんだよ。長谷川体調が優れなくて12月に開催された内定者懇親会も欠席してさ、そのまま内定も辞退するって・・・。」

「そんなっ・・・。」

大変な事になっているようで水樹も緊張した。

「秋の内定式は参加してたんだけど、この冬に何かあったのかなあ。企業にもこれからの後輩にも迷惑掛けるし、どうしたもんか。はあ。」

「迷惑掛けてすみません。先生。」

「なんで立花が謝るの?まあね、こんな多様化してる時代だから、あんまり本人を責める気もないしね。それも就活の内だと思っとくよ。ただこのまま休みが続くと卒業も難しいだろうね。何の為に留年してまで通ってたんだかなあ。」

そうだった。特に4年生の頃は明人は穏やかで笑顔も多くて忘れがちだったけれど、元々は欠席が多くて留年しているのだ。

明人はとても感受性が豊かで敏感な人で、それを思いやらずに自分の感情を優先して会いたいと言ってしまった。もうすぐ卒業なのに明人がまた留年してしかも退学したら自分のせいだ。水樹は今すぐにでも連絡したかったけれど、明人も望んでいないだろうしする事は叶わない。

明人の提出物や出席日数、卒論そして期末テストと心配な事はいくらでもあったが、2月になっても明人は休み続け、水樹は心配でとうとう日曜日に明人の家に行った。途中で買い物をしてからマンションに向かい、チャイムを鳴らし、そしてお母さんが明人はアルバイトでいないと教えてくれた。その時にバレンタイン用に差し入れを持ってきたと伝えると、半年前のように下まで会いに来てくれた。

「こんにちは。あの、これ、チョコとバナナのアイスクリームなんです。冬ですけど、よかったら皆さんで召し上がって下さい。」

「ありがとう。ごめんね。明人が学校行かないから立花さんも心配だよね。昔から親の言う事は聞く子じゃなくてね、今も全く喋らないし、もう大人だしほっとくしかないんだけど・・・。」

少し話して、知らないようだったので別れた事を伝え、アイスは水樹からだと黙っておいてもらう事にした。

明人の両親は、明人が留年した時に退学を覚悟したけれど、もし明人の様子が落ち着いたらまたスムーズに人生をやり直せるように、卒業はして欲しいのだとその思いを水樹に伝えたのだった。
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