おもいでにかわるまで

名波美奈

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第四章

第二百三十六話

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「怪我してないよね?」

「怪我してるのは水樹ちゃんでしょ?」

「あっ・・・。そうだね・・・。はは・・・。」

明人と別れたと友達に報告しないのは、まだ認めたくなかったからだ。でも礼にはきちんと報告しようと思う。

「あのね、明人君に・・・。」

声が詰まって涙が出る。でもこうやって報告する事は水樹にとって大義があった。

「振られた・・・。」

「嘘・・・別れたの?」

水樹はコクっと頷き、結局泣いた。振られてから3週間が過ぎても、何も前に進んでいない。でもそれは違う。前になんて進まない。水樹はあの頃に戻りたいのだ。

「ごめん。もう少ししたら泣き止むから。ごめんね。」

苦しくて、苦しくて、明人が大好きだった。

「あっ・・・。」

水樹は体に大きな礼の両腕の温もりを感じた。

「泣いたっていいじゃん。気にする事ないよ。一人分の涙くらい僕が吸収するよ。だって人にはあえて表情があるんだもの。涙はね、水樹ちゃんの悲しみを僕に知らせる為にあるんだ。」

泣いてもいいの?ほんとに?とうっ、うっ、と礼の温もりの中で泣いた。

「僕、大きくなったでしょ?手もこんなに長い。水樹ちゃん頑張れ。大丈夫だよ。努力すれば不安は期待に変わるよ。そして希望になる。希望はね、心の一番深い所にあるんだよ。」

返事は出来ずにもっと泣き続けたが、初めて他人に吐き出したおかげで、少しだけ気持ちがスッキリしていくのを感じていた。

「僕達が30歳になった時、もし二人とも独身だったら結婚しようか。」

「あはは。凄いプロポーズだね。わかった。そうする。」

礼のおかげで涙が減っていき、ありがとうと伝えた。そしてそう励ました前田礼は、大学卒業後に起業し、23歳でクラスで一番に結婚する事になる。

水樹はまだ明人の事をどうやって受け入れれば良いかのかわからないけれど、なんとか頑張ろうとおまじないのように唱えた。そして次の日、担任の先生に呼び出され、以前に見学に行った博物館から再び連絡があったと教えて貰った。他の人を探したけれど、良い人が見つからず、働いている外国人のスタッフが水樹を覚えてくれていて指名してくれたと先生が教えてくれた。

「その話、お受けします。未熟者ですがよろしくお願いしますとお伝え下さい。」

水樹は思った。自分は周りに生かされている。だから無理せずに少しだけ歩こう。と。

それでも明人には卒業までにもう一度だけ気持ちを伝えたい。そしてそれで終わりにしようと決心した。
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