おもいでにかわるまで

名波美奈

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第四章

第二百三十話

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水樹も7月は大会に向けての朝練があり後輩中心で練習しているのだが気持ちが忙しい。

そして夏休みに入る前に明人から内定の第一報を聞かされると水樹は本当に喜んだ。明人の就職活動は一社目は落ちてしまい、なかなかゆっくり遊べる日もなかったが、全部済んでしまえばもうすぐ夏休みで明人との時間を取り戻せる。去年の夏は信じられないくらい一緒にいて、水樹はあの最高にドキドキした夏が忘れられなくて、それがまた今年も訪れるのだからと待ち遠しくて胸が膨らんだ。

1年経っても水樹は変わらない。益々強く明人に惹かれている。本当に大好きで、明人の恋人になれたおかげで自信も力も無限に湧き沢山笑顔になれた。

水樹はおめでとうと直接伝えたくて勢いのまま明人に会い、ところが今度は一瞬で悲しみを抱えてしまった。明人は春から地元を出て会社の寮に入るというのだ。春から一緒に暮らす夢を描いていた水樹は予期していなかった報告に混乱し、少し強めの口調で詰め寄った。

「私も明人君と同じ街に行きたい。そこで働いて一緒に暮らしたい。」

「うん・・・。仕事は?」

「そこでまた新しく探す。別にいいよね?」

「わかった・・・。」

いつも同じくらいに思い合っていて、同じくらいに必要とし合っていると信じて疑わなかった水樹は、愛し方の形が変形していっている今日に追い付けていないのだ。そしてそんな不安定な状態の中、今年の明人の誕生日がハンドボールの全国大会の日と重なってしまい更に胸を痛めた。

2人を惹かれ合わす為に、嘘みたいな偶然が重なった去年とは真逆に、今年はこんなにも噛み合わなくてすれ違う。せっかくプレゼントしてくれた指輪も失くして、それをずっと報告できずにいる事を棚に上げ、明人ならまたいつかプレゼントするから気にしないで、と優しく言ってくれるだろうと都合良く思う。

去年の明人の笑顔だけを見ていて、今の明人の表情を見る事が出来ていない事に、水樹は早く気付かなければならなかった。
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