おもいでにかわるまで

名波美奈

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第四章

第二百二十二話

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「おいーこらっ。主役が泣いてないのに先に泣くなよっ。もう。全く。キャプテン、瞬介、このマネージャーなんとかしろ。」

「ゔぇー勇利ざーん。うっ、うっ、うっ・・・。」

「出たあ。なんなのお前らっ。もー俺の方が冷めるわっ。ふっ。よしよしありがとな。俺また遊びに来るから。それでお前らが二十歳になったらすぐ飲み行こうぜ。それから瞬介。お前キャプテンだろ。今年は絶対行けよな全国。ま、俺が言えたもんじゃないけどさっ!」

「ぞうでずよー。」

5年生は午後は各々パーティーがあり解散した。それには明人も以前のクラスメートのよしみで参加する。近頃明人は5年生達と頻繁に飲みに行き、そして意外な所卒業旅行も参加すると水樹は聞いている。

卒業してもまた会えるし何も変わらない。でも皆わかっている。本当はもう今までのようには会えない。それが卒業なんだという事を。

勇利がいたから入部したのは間違いのない事実だけれども、ここは部員皆にとってかけがえのない帰ってくる最後の場所なのだ。水樹は勇利に4年間ありがとうと心から感謝し、そして、卒業してバラバラになる時期があってもいつまでも繋がっている友達だからとちゃんと笑い直した。

「水樹ちゃん。今日は旦那いないんでしょ。俺達もご飯行こ。」

「うん。でも一回教室に戻るね。スミレちゃんもご飯行こ。」

「はい。あれ?立花さん今日は自慢の指輪どうしたんですか?」

「え?」

後輩マネージャーのスミレに言われるまで意識がいかなかった。ここに来る前にトイレでクリームを塗って、その時外して鏡の前に置きそのまま忘れた事を思い出す。ドクッとして血の気が引くとドクンドクンと鼓動が大きくなった。

大丈夫、きっとある。とひたすら走ってトイレに戻って探したけれど、明人に貰った大切な指輪は見当たらなかった。

急いで女友達に携帯電話でメッセージを送り情報を集めたが駄目だった。

それから忘れ物で届いていないか事務室に行っても届いていなかった。

そしてトイレを使う可能性のある通りすがりの後輩にも尋ねたけれども良い返事はなかった。

どうしよう。明人君っ。ばか。何してるの。ばか。ばか。最低。目の前の勇利に浮かれて気が付くのが遅れたからだと自分を責めた。次の日もその次の月も毎日必死に探したけれども結局指輪は見付からない。

水樹は明人になくした事を言えなくて、でも明人も水樹が指輪をしていなくても気付かないのか興味がないのか何も言ってはこなくて、それからそのままの状態で新学期を迎え、とうとう最終学年の5年生になった。
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