おもいでにかわるまで

名波美奈

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第四章

第二百一話

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‘今から行く’

明人はアクセルを踏む前に水樹に送信した。ドーナツショップで突然旅行に誘われてから3週間が経過し、その間には文化祭と期末テストもあった。明人と水樹はテストが終わると教科書を即座に旅行雑誌に持ち替え、今日の日を胸膨らませて待ちわびた。

また、明人が留年してから半年以上が経過した。それに関しては学校が大好きになったという都合の良い話にはならず、今も学校を休む時もあれば起きられない朝もある。でも明らかに去年よりは落ち着いた学生生活を送れている事を明人自身もひねくれずに認めてはいるのだった。

横に水樹がいればそれだけで良い。そんな時間が幸せだった。15歳で入学した当初から中途半端でやる気のなかった明人だけれど、この先は卒業をして就職をしてお金もしっかりと稼ぎたいと思える。そしてガソリンは満タン。待ち合わせの場所に到着すると明人は車から降りた。

「おはよ。」

「おはよう。」

「寝癖付いてるよ。」

「えっ。」

挨拶に付属するくだらない嘘なのに髪を整えながら水樹が言う。

「二人の財布持ってきた?」

「うん。大丈夫。お金出し合って財布一つにするなんてテレビみたいだね。」

軽く会話をして車に乗り込み発進した。

「いつも運転してくれてありがとうね。」

「ううん。俺さ、運転超好きなんだ。だから長距離運転出来て逆に楽しいよ。立花さんは免許取るの?」

「多分。春休みとかかな?あのね、旅で迷惑かけてはいけないから、旅のしおりみたいなの作ってきたの。大ざっぱなタイムスケジュールと、もしする事がなくなったら困るからクイズとか考えてきたんだ。」

水樹は相変わらず時々おかしな事を思い付く。そしてそんなほんの少しずれた彼女を愛しく思わない彼氏がいるはずがなかった。

「へー。1問出してくれる?」

「もう?うん、待ってね。えっと、第1問。SI単位ではジュールパーケルビンと表され、熱力学・・・。」

「待って待ってストップストップ。テスト終わったばっかじゃん。酔うから止めてよ。」

「あはは。ごめん。他のクイズにする?えっと第2問。RNAの糖で・・・。」

「リボース・・・。」

「あーごめんね。簡単過ぎた?」

いや、そういう話じゃなくて。と明人は失笑した。

「音楽でも聴こうか。」

「うん・・・。なんか変に緊張しちゃって。私空回りしてるよね。」

それ以降水樹は大人しくなった。もしかしてシュンとしてるの?かわいいな。と明人は普通で贅沢な幸せを噛み締めた。

集合してからいつもより1.5倍よく喋った水樹と、1.5倍機嫌が良い明人の順調なドライブの中、水樹が作ってきた旅のしおりの中で二人の極近い未来が、どんな風に何が描かれているのかと明人は気になった。
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