おもいでにかわるまで

名波美奈

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第四章

第二百話

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こんな場面では明人は無駄に意地を張らない。

「言いたい事があるなら言っていいよ。」

「そうだね。呼び出したのは私なのにね。」

「うん。」

「あのね・・・。無理なら正直に言うって約束して欲しいの。」

水樹の声は極度に小さく、明人はどう返事をしようか身構えた。

「何・・・?」

「月末の3連休、二人で旅行に行きませんか。」

わかった別れよう・・・。明人はそう返事をしかけて、ん?と首を傾けた。

旅行?旅行って旅行?そしてはーっ!?と取り乱す。

「旅行って何か知ってる?」

「あ、や、い、一応。そうだよね。でもそんな、深い意味は、あ、何言ってんの私、でも無理なら友達と行こうかな。ごめんねっ。」

明人を何に誘っているのか本当にわかっているんだろうかと危なっかしい水樹の純朴さが心配だ。でもそれは建前で、本音はどうしようもなく気が動転していた。

「いいよ。楽しみだね。で、どこ行くの?」

水樹は事の経緯を説明した。車で3時間も掛からないな、と明人は動転しているくせに瞬く間に見積もった。

それにしても急にどうしたの?どういう事かわかってる?ましてや過去に男いたんなら何も知らないわけないよね。しかも俺が男だって忘れてる?水樹ならありえるよね。とうーんとうなる。

純粋なそのままの水樹が好きだったから、二人でいる時はなんとかギリギリ理性を保っていたのに、人の気も知らないで無神経に刺激してくる水樹に翻弄され腹が立つ。もう嫌だ。計算なのか天然なのか、明人は自分の純情をもてあそぶ彼女が許せない。だから耳元で囁いた。

「ひゃっ。」

水樹は瞬間沸騰した。

「やっぱり学校に戻りますっ。そうだ。皆にドーナツ差し入れしますねっ。」

面白い。大成功。と明人は得意げに笑い、水樹はドーナツを沢山トレーに乗せて会計を待った。明らかに買い過ぎだけれどもそんな所もかわいくてたまらない。

「これ、俺からクラスの皆に差し入れって渡しておいてよ。」

明人は1万円を差し出して去ろうとした。

「おつりがっ。」

「旅の軍資金。」

そして妙にかっこつけてから先に帰った。でも少しも平常心などではなかった。

やばい、やばい、俺らしくない、赤面してる、血が集まる、脈が速い、落ち着け俺。ただいつもより長い時間遊ぶだけだよなんも変わらない。

‘本当の愛の意味を俺に教えて・・・。’

正気とは思えない台詞を、あの時意地悪してふざけて水樹の耳元で囁いた。
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