おもいでにかわるまで

名波美奈

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第四章

第百九十一話

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夏休みも後わずかとなっていた。水樹はこの夏に経験した沢山の奇跡と、そして透き通った思い出を決して忘れない。来年も、またその次も。想いは募るばかりだった。

そして今日は明人とゆっくり遊べる夏休み最後の夜であり、夏の夜はやっぱりどこか特別で、夏に開放的な恋の歌が多いのもわかる気がする。

水樹は今日は駅まで歩いて電車に乗り待ち合わせの駅まで向かった。

変じゃないかな?明人は何か言ってくれるかな?ちょっと頑張り過ぎたかな?と沢山気にしながら恥ずかしさと緊張を抱え約束の時間を少しだけ過ぎた明人を待っていた。

あっ・・・。と思うと手を振って明人の方に近寄った。

「ふはっ。尻尾振ってる犬みたい。」

「えっ!?そんな喜んでたかなっ。だって花火楽しみすぎて・・・。」

「ふふ。ところでさ、あの、その、まあ、その、浴衣かわいいですっ。なんか今日のみいちゃん全部最高。」

‘みいちゃん’ とは実は男性にあまり呼ばれた事がなくて、水樹はイチイチと反応してしまう。それに明人はなぜか水樹を沢山の呼び方で呼ぶ。どれもこれも何て呼ばれても気恥ずかしくてでもなんて呼ばれても結果は幸せなんだという事だ。

「は、長谷川さんもいつもかっこいいです・・・。ゴニョゴニョゴニョ・・・。」

「え。最後らへん全く聞こえなかったよ。ふはっ。立花さん面白すぎ。」

心が和む。ちょっと暑いけれど、お姉ちゃんに浴衣を貸してもらって良かったな、と水樹は満足だった。それよりも一発目の花火が上がるまでにはまだ1時間半以上あり、二人は一緒に食べ物を買ってからそれなりの人混みの中何も意識せず自然に手を繋いで河川敷の方にゆっくり歩き始めた。

「歩きにくくない?」

「うん。平気・・・。」

到着してなんとかスペースを見付けシートを敷くと、その後は話したり無言でほのぼのしたりし、ただどんなに長い待ち時間でも一緒にいられる貴重な瞬間だから、お互いに何の苦にもならなかった。
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