おもいでにかわるまで

名波美奈

文字の大きさ
上 下
175 / 267
番外編_失恋エクスプレス

第百七十四話

しおりを挟む
新幹線は瞬介の地元の方面を通り過ぎる。でも窓の向こうは曇り空で、運良く右窓側の座席を購入できたのに、楽しみにしていた富士山も拝めそうになかった。それから目を閉じて後悔を唱え、冷静に分析した。

自分のタイミングと、他人のタイミングと、同じなわけはないのに、どうして昨日と同じ今日が来るなんて都合良く思っていたんだろう。

自分の明日も明後日もどうせ今日と同じでどんより冴えない曇り空なのだから、もう明日なんて来なくていい。出会う順番なんて関係なかった。だけど自分の方がずっと先に出会っていて、彼女の良い所も悪い所もいっぱい知っていたのに、本当に馬鹿だ。

実は瞬介は地方大会が終わりクラブがオフになった後、用があって帰省していた。だからすぐに水樹へ行動出来なかったのだ。でも勝手にルールを決めて今まで逃げて延ばしてきたのは自分自身で、その結果がこれだった。

俺のばか。言い訳ばっかりしてきたからこうなるんだ。そして水樹ちゃんの・・・ばか。

好きな人に好きになって貰えないのは、自分を全否定された気分になり、生きている価値もないとさえ思わされる。ただそれでも新幹線は瞬介を乗せて走る。そして瞬介はどうして新幹線にいるのだろうか。

それからひとしきり憂鬱を満喫した後、社内では旅の疲れを癒やす為のメロディが流れ始めた。

‘まもなく、京都です・・・。’

瞬介は小さなリュックを下ろし下車の準備をし、遅れないように到着の手前からドアに並んで立った。そしてドアが開いてから順番に下車すると、わざわざ迎えに来てくれていた。

「よお。こっちは暑いだろ。」

「かなりやばいですね。ホームまで来てくれてありがとうございます。」

「後で入場券の代金請求すっから。」

瞬介が失恋した時に顔が浮かんだのは親友の礼ではなく聖也であり、そして瞬介がたまらずに電話を掛けたそのままの勢いと流れで今この京都に辿り着いていた。

「一旦俺んち帰るわ。」

瞬介はもちろん右も左もわからず、印象としては東京駅よりも広くはなくてごちゃごちゃとしていて、皆の早口の京都弁やら関西弁が怒っているように聞こえてこの蒸し暑さの中冷や汗が出た。

それから瞬介は聖也の後ろを黙ってついて行き、そしてヘルメットを渡されバイクの後ろに乗ると、地面から来る不愉快な熱気を受けながら知らない街を聖也と走り出した。

暑さの中、聖也が京都に来て何年になるんだろうと瞬介は考えた。そして、交通量の多い街の中をスイスイと無言で走り抜ける聖也の姿がカッコよくて、だから余計に自分の何も持っていない姿にまた辟易した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

帝華大学物語

風城国子智
青春
大学を舞台にした少しSF風物語。 都会の街中に建つ帝華大学理工科学部の建物には秘密があった。その秘密を識る者達の、物語。 ※小説家になろう、セルバンテス掲載済。

とあるプリンスの七転八起 〜唯一の皇位継承者は試練を乗り越え、幸せを掴む〜

田吾作
青春
 21世紀「礼和」の日本。皇室に残された次世代の皇位継承資格者は当代の天皇から血縁の遠い傍系宮家の「王」唯一人。  彼はマスコミやネットの逆風にさらされながらも、仲間や家族と力を合わせ、次々と立ちはだかる試練に立ち向かっていく。その中で一人の女性と想いを通わせていく。やがて訪れる最大の試練。そして迫られる重大な決断。  公と私の間で彼は何を思うのか?  ※この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件とは関係ありません。  しかし、現実からインスパイアを受けることはあります。  Nolaノベルでも掲載しています。

処理中です...