おもいでにかわるまで

名波美奈

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第三章

第百五十七話

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体育館の横では明人と仁美の攻防が始まり、ためらう事なく先陣を切ったのは仁美だった。

「明人君お疲れー。ごめんね。急に呼び出して。」

「そう思うならもう帰る。」

「あは。相変わらずだね。でも最近は結構明るくなったっていうか、超話しやすくなったって噂なんだよ。」

「だよね。それでさあ、単刀直入に聞くけど長谷川君て好きな子いる?なんかそっちのクラスにいるうちの後輩に聞いたんだけどさー、立花さんに懐かれてるってほんとなの?あの子男には超色目使うから長谷川君もまじ気を付けた方がいいよ。」

「は?関係ないだろ。何?そんな事言う為にわざわざ呼び出したの?ああわかった親切な忠告聞いておくよ。だからもういいだろ。」

明人はこの雌の固まりに改めてうんざりした。それに言われなくてももう水樹の事は済んだと思っているのだ。

「あ、違うんだよ、ね、仁美。」

「うん・・・。あのね、なんかね、最近明人君優しくなったっていうか、とっつきやすくなったっていうか、かっこよくなったっていうか・・・。」

明人は相槌すらさぼった。

「これって好きになったのかなーって。だからあたし達付き合えないかな?」

「は?」

何言ってんだ?聴こえない聴きたくない気持ち悪い。だから迷う事なく拒否する。

「俺・・・面食いだから。」

「じゃあありじゃない!?だって仁美は学年一かわいいでしょ。」

そんなわけないだろ?もう帰れよ。と明人はやはり不快だった。

「俺、最初から間宮とは会話するのも嫌だよ。それからさ、面食いってそういう意味じゃないから。」

「どういう意味?」

「わけわかんない。」

明人は3人に冷静に目を向けた。

「間宮・・・お前さ、勇利、井川、その後もクラスの何人巻き込んだか数えた事ある?頼むからもう卒業まで大人しくしてろよ。お前の事は嫌いだけど、お前はほんとに勇利とお似合いだったよ。あんな良い奴傷付けて、まじで馬鹿だよお前。」

ゲームのように告られて嬉しくもなんともなく、明人は余計にフラストレーションが溜まった。それに一体何の呼び出しだったのかもイマイチわからなかった。

くそっ、疲れたな・・・。帰ろう・・・。と明人が時刻を確認すると7時15分だった。まだ暗闇ではないけれど、一度空を見上げて何かを想い、それから明人は駐輪場まで自転車を取りに行った。
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