157 / 267
第三章
第百五十六話
しおりを挟む
そして水樹もまた、悲しみを引きずったままクラブへ行った。
「じゃ日にち決まったら連絡するね。」
地方大会が近い事もあり練習時間を超えて終了し、瞬介や仲間とグランドから途中まで一緒に歩いた。勇利は欠席で5年生になってからよく休む。勉強が大変なのだろうけれど、水樹には逐一知らされはしない。
瞬介達と試合用のシューズを買いに行く約束をしてから駐輪場に向かい、その時はずっと明人の事が頭から離れないでいた。
今朝、水樹が朝練を終えギリギリの時間に教室に入った時に明人と目が合わず、最近は穏やかな顔ばかりだったのでスンと血の気が引いた。それから席に着きもう既に朝の日課となっている事、自分の机の中を手探りで確認したのだった。
あれ・・・あ・・・あ・・・ない・・・。と水樹は大きな音も大きな動作も抑えながら何度か机の中を全部確認してみたけれど、やっぱり探している物はなかった。
明人が忘れたのか。振り向いて聞いてみようか。ただ、もし仮に朝一番で目が合って笑顔を見せてくれていたのならそれが出来たかもしれないけれど、つまりは勇気がなかった。所詮席が偶然前後になっただけの関係だった。
それでも水樹は十分意識しすぎて1日ずっと下を向いて放課後まで過ごし、それから二度目の奇跡も起こらずに席替えの結果あっけなく離れ離れとなった。水樹は帰り支度をしている明人に気付かれないようにそっと姿を確認すると、前によく見たとても無表情な冷たい顔をしていて、そして明人は誰よりも早く出ていった。
水樹は明人の冷たい顔が苦手で、もっと良くない事をあれこれと過敏に想像して萎縮した。そして事実と被害妄想の境界線を見つける為の積極的な行動も取らずに、何も語らないで消えていく背中を見送った。
それは、中途半端で曖昧な2つの気持ちを未だに共存させているのに、身勝手に悲しみだけを感じている事に対しての罪悪感のせいだ。過去3年分の勇利への大好きという思いは強過ぎて、過去を含めての自分を否定するようで簡単には切り捨てられないのに、それなのに明人との毎日の言葉の交換が楽しくてやめられなかった。
水樹には明人に理由を聞く資格ももっと近付きたいと望む資格もない。何もせずに黙って受け入れる。毎日とても楽しかった。ありがとう。と感謝の気持ちを持った。
遅くなったな・・・。
水樹が確認すると、時刻は午後7時10分だった。
「じゃ日にち決まったら連絡するね。」
地方大会が近い事もあり練習時間を超えて終了し、瞬介や仲間とグランドから途中まで一緒に歩いた。勇利は欠席で5年生になってからよく休む。勉強が大変なのだろうけれど、水樹には逐一知らされはしない。
瞬介達と試合用のシューズを買いに行く約束をしてから駐輪場に向かい、その時はずっと明人の事が頭から離れないでいた。
今朝、水樹が朝練を終えギリギリの時間に教室に入った時に明人と目が合わず、最近は穏やかな顔ばかりだったのでスンと血の気が引いた。それから席に着きもう既に朝の日課となっている事、自分の机の中を手探りで確認したのだった。
あれ・・・あ・・・あ・・・ない・・・。と水樹は大きな音も大きな動作も抑えながら何度か机の中を全部確認してみたけれど、やっぱり探している物はなかった。
明人が忘れたのか。振り向いて聞いてみようか。ただ、もし仮に朝一番で目が合って笑顔を見せてくれていたのならそれが出来たかもしれないけれど、つまりは勇気がなかった。所詮席が偶然前後になっただけの関係だった。
それでも水樹は十分意識しすぎて1日ずっと下を向いて放課後まで過ごし、それから二度目の奇跡も起こらずに席替えの結果あっけなく離れ離れとなった。水樹は帰り支度をしている明人に気付かれないようにそっと姿を確認すると、前によく見たとても無表情な冷たい顔をしていて、そして明人は誰よりも早く出ていった。
水樹は明人の冷たい顔が苦手で、もっと良くない事をあれこれと過敏に想像して萎縮した。そして事実と被害妄想の境界線を見つける為の積極的な行動も取らずに、何も語らないで消えていく背中を見送った。
それは、中途半端で曖昧な2つの気持ちを未だに共存させているのに、身勝手に悲しみだけを感じている事に対しての罪悪感のせいだ。過去3年分の勇利への大好きという思いは強過ぎて、過去を含めての自分を否定するようで簡単には切り捨てられないのに、それなのに明人との毎日の言葉の交換が楽しくてやめられなかった。
水樹には明人に理由を聞く資格ももっと近付きたいと望む資格もない。何もせずに黙って受け入れる。毎日とても楽しかった。ありがとう。と感謝の気持ちを持った。
遅くなったな・・・。
水樹が確認すると、時刻は午後7時10分だった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説




隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
So long! さようなら!
設樂理沙
ライト文芸
思春期に入ってから、付き合う男子が途切れた事がなく異性に対して
気負いがなく、ニュートラルでいられる女性です。
そして、美人じゃないけれど仕草や性格がものすごくチャーミング
おまけに聡明さも兼ね備えています。
なのに・・なのに・・夫は不倫し、しかも本気なんだとか、のたまって
遥の元からいなくなってしまいます。
理不尽な事をされながらも、人生を丁寧に誠実に歩む遥の事を
応援しつつ読んでいただければ、幸いです。
*・:+.。oOo+.:・*.oOo。+.:・。*・:+.。oOo+.:・*.o
❦イラストはイラストAC様内ILLUSTRATION STORE様フリー素材
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる