おもいでにかわるまで

名波美奈

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第三章

第百三十九話

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水樹の投げる球はストライク先行でも超人的な急速は無く徐々に打ち込まれ、得点は4対4の同点だった。

A組はD組のピッチャーのコントロールの悪さに翻弄され、そして明人の成績は4回までで3打数1安打、水樹は2打数1安打、礼は四球があり1打数1安打で4回裏のD組の攻撃が始まろうとしていた。

明人は健気に投げて守って打って滑って奮闘している水樹と勝って喜び合いたいと思わされていた。だからベンチから守備につくとき、明人は水樹に自然に声を掛けた。この春から明人自身が感じている、明人じゃない明人が明人を動かしていく。

「立花さんの球俺達にとってはちょうど打ちやすいんだと思う。もっと酷いボール球とか、ゆっくり山なりの球とか、インコースからアウトコースとか、混ぜて投げたらいいと思う。」

水樹は不思議そうに明人を見た後元気に笑った。

「さっきの回は3点も与えてしまってすみません。長谷川さんからのアドバイス嬉しいです。皆の為に頑張りますね。」

「あ・・・。頑張るのは俺達の方だよ。」

明人じゃない明人がこんな恥ずかしい台詞を吐く。

この春から明人はずっと調子が良くて、コインで言えば反対側の状態が続いていて、でも当事者である明人は気付いていなくて、初めて味わう知らなかった感情と感動にどんどん夢中にさせられていた。

それから4回裏のD組の8番打者からの攻撃は四球で、その後水樹はうまく投げ分けたが仲間のエラーもあり回った4番打者にシングルヒットを打たれ、また1点取られてしまった。

未だ満塁でツーアウト、5番打者との勝負だった。

一生懸命投げる水樹の為に何かしてあげたい、と見守る残りの8人の思いの中で水樹が投げた球は真ん中より外で、そして快音を鳴らし跳ね返ってきた打球はライナーで水樹を襲った。

皆がやばい、と焦る中、水樹はなんとかグローブで自分を精一杯守り、それから打球は水樹のグローブに当たってから跳ね返ると、ショートとサードの方向、明人の方に転がった。

ただ明人は違う理由で既に走り込んでいて、右手でダイレクトにボールを掴むと体を捻りファーストへ投げた。それを身長が180を軽く超えている礼が全身をいっぱい伸ばしがっちりキャッチした。

アウト。チェンジだ。

良かった。何とか1点で抑えた。ナイスピッチ。と、明人が心配で水樹を見ると、ケロッと礼とハイタッチをしながらベンチに戻っていた。それを見て明人はホッとし、水樹の図太い一面が面白かった。

それから両チームで話してこのゲームは5回で終わりにした。現状では4対5でA組が負けている。そして最終回。A組は6番の攻撃からだった。

俺まで回れ。きっと勝つ。明人は全身に力を込めた。
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