おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第九十話

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それから水樹は勇利の瞳を見た。

「はあ・・・、痛かったよね、俺のせいでごめんね。タンコブ出来てない?」

「はい。触ると少し痛いですけど、大したことはないです。それに、宇野さんこそボールに少しも気が付いていなかったから、そんな無防備でボールが当たると大事故になっていたかもしれません。」

「俺なんて全然。」

「私、小中とソフトボールで鍛えていたんですよ。デッドボールはヒットと同じですっ。」

勇利を守る為に体が瞬時に反応出来て水樹は嬉しかった。

「はは、意味不明。頭への死球は一発退場でしょ。水樹ちゃんはいつも明るいね。ごめんね、女の子なのに怪我させちゃって・・・。」

そう言うと勇利は起き上がり水樹の頭の痛い所を探すように触れた。

「あ、や、平気ですから気にしないで下さい。それにもうすぐ練習も終わりますし、このまま休んでいて下さいね。」

水樹は勇利の手を払うように自分の手で自分の頭を触った。

「あ、そうだ。喉乾きましたね。私、食堂の売店で飲み物買ってきますね。」

水樹はバレー部の部室を飛び出した。勇利が触れた髪が、頭が、熱を持つのがわかった。でもなんともない。もう勇利への感情は何もないのだからときめくわけなんてないのだ。

それから食堂に入り売店に向かうと、売店の少し奥のテーブルに突っ伏してうな垂れている仁美を見つけてしまい足が止まった。仁美は水樹の音に気付くと、ゆっくりと首を傾け、それからその後何かにすがるような目で水樹と目を合わせた。水樹の脈が速くなる。

まだ会いたくなかった。勇利が今どれだけ傷付いてボロボロになっているか、仁美は知っているのだろうか。勇利を悲しませた仁美なんて許せない。とは思ってみても、水樹の嘆きはただの負け惜しみなのだろう。

悲しいけれど仁美をどんなに必要としていたか、勇利の崩れ方で水樹はわかってしまう。それなのに仁美は何故、そんなにも悲しそうに弱ってそこに横たわっているのかがわからない。

けれども水樹は気にせずにいる。だって水樹はただ買い物に来ただけで、それを早く済ませて勇利の待つ部室に戻れば良いだけなのだ。だから水樹は仁美から目を背け売店を目指した。でも、必然的に仁美と近くなってくると、水樹はドキドキと緊張しながら歩いた。

「水樹ちゃあん、お疲れー・・・。」

その仁美の声が消えてしまいそうなか細い声をしていた為に、思わず水樹の声も漏れてしまった。
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