おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第八十八話

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体育館では練習が始まる前、熱が続いて寝込んで連絡も出来なかったと無断欠席の理由について勇利が部長に侘びた。勇利はこの3日間の寝不足と食欲不振とほぼ寝ていた生き方のせいで体力が落ち、まだ練習に参加するのがきつかった。だから勇利はコートから出てボール拾いや手に巻く両面テープ等のゴミの片付けなどをする事にした。

そしてこの練習後は、堀田が3人で焼き肉に行くからと勇利と明人を誘っていた。実際はまだ遊ぶ体力はないのだけれど、あの時二人には心配を掛けたのだから今夜は堀田に乗っかっておくのだ。それに、独りきりになるとまた暗くなり落ち込んでしまう。

「宇野さん宇野さん。まだ調子悪いなら座っていたらどうですか?」

勇利がしゃがんでゴミを拾っていると、水樹が同じようにしゃがんで勇利の顔を覗き込み心配そうな顔で声を掛けた。自分と仁美の事に夢中だった為、聖也と水樹の事など一つも気に留めた事がなかった。そして勇利は水樹と聖也についてまじまじと思う。

確かに聖也は最初から水樹をかわいがってはいたけれど、まさか特別な感情を持っていたなんてと驚く。男と女はとことん理屈じゃないんだな、と勇利はつくづく身に染みた。良く見れば二人はデコボコしているけれどお似合いで、幸せそうで羨ましかった。それなのに自分と来たらなんの価値もない。気を抜くとどうしても仁美の事を考えてしまう。クラスでの思い出と、付き合えた時のあの喜びと、二人で経験した沢山の初めてと、それらが全て泡になって消えてしまった。

勇利は涙を堪える。こんな所で自分にかわいそうぶってももう意味はない。浮気した仁美と井川を許すことは無いのだから、しっかりしなければならない。そしてもつれたままの足でゆっくりと立ち上がったのだが、座っている姿勢から急に立った為にくらっと目眩がした。

「勇利さん危ないっ。」

「えっ!?」

水樹の悲鳴の様な大きな叫び声と同時に勇利は思い切り押されて床に倒れた。バチーンと大きな音がしたが一瞬の事で勇利はなんの音だかわからなかった。急いで上半身を起こし辺りを見ると、倒れている水樹と転がっていくボールが体育館中の注目を集めていた。
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