おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第八十一話

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すると止まっていた感情が一気に走り始める。

なんで嘘付いたの?昨日も大好きって言ってくれたよね?ほんとは大した理由じゃないんじゃないの?

仁美と過ごした半年間が、きっと何かの勘違いだよって勇利を励ましてくれる。

ドク、ドク、ドク・・・。前向きな気持ちとは反する様に、勇利の鼓動は大きくなり高まる緊張の中、先に到着した仁美から連絡のあった番号の部屋のドアをゆっくりと開けた。

は?勇利はくらっと目眩がした。何がどうなっているのか理解出来ない。

部屋の中には仁美と、それから同じクラスの男がいて、二人して同じような真剣な眼差しで勇利を見つめて座っていた。それは井川というクラスメイトだった。

「え?なんで井川がここにいるの?」

「それになんでたかがクラスの奴と遊ぶのに俺に嘘付く必要があるの?ねえ、仁美・・・?」

「ごめんなさい勇利君。少し相談に乗って貰ってただけなの。」

「なんの相談なの?そんなの俺にすれば良い事じゃん。わけわかんないよ。嘘付くなんて俺の気持ちはどうだっていいの?仁美っ!」

井川が口を挟む。

「間宮の事あんま責めんなよ。お前の事で悩んでんだよ。」

え?まさか2対1なの?

勇利は信じられなかった。その事にかっとなり、残りの止まっていた感情が一気に噴火した。

「お前仁美のなんなの?相談って何?わからない。せっかくの休みなのに俺より井川と遊ぶってどういう事だよ?それにさ、俺が彼氏なんだから、お前も遠慮しろよっ。」

仁美と井川は答えない。

「何か答えてみろよっ。」

「最悪・・・。」

仁美の捨て台詞にも聞こえる一言に勇利は脱力しかけながら震えた。

「え?最悪なのは俺でしょ?それに井川、お前らいつから二人で連絡取り合ってたんだよ!?今日はどこで何してたのっ?知ってる事全部答えろよっ!」

「何もない、何もないよ、気を悪くさせてごめんね勇利君。これからは気を付けるから、もう怒らないで、ね、お願い、ほんとにごめんなさい・・・。」

仁美が平謝りするから、勇利は少し冷静になりかけた。

そうだ。こんな事くらいで勇利の仁美への気持ちは変わらない。それなのに言い過ぎた。もう二度と他の男とは二人きりで会わないと、勇利は仁美に約束して貰おうとした。仁美はモテるから、みっともなくても勇利は心配なだけなのだ。
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