おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第六十三話

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悲しくても嬉しくても、水樹にも聖也にも、誰にでも時間は平等に進んだ。そして文化祭真っ只中の学校では、ハンド部の1年生も模擬店を出店していた。

聖也は学校に到着後、先に仲間の所に行きソーラーカーの配線を修理した。ただそれにおもいのほか時間を取られてしまい、もう空はかなり朱色みが強い夕焼けが低い所を染めている。聖也は明日も学校に来るつもりはなく、だから今日だけでもハンド部の店に顔を出し、寄付も兼ねて商品を買ってやろうとした。

それに、まもなくクラブに復帰するつもりで、だからその前に正面から向き合って水樹に謝りたかった。でも、いざその時が間近に迫れば聖也でも緊張しては後退してしまうのだ。

決して軽くはない足取りで聖也が模擬店に着くと、何故か勇利達2年生も複数名揃っていて、深刻そうな雰囲気で話し合いをしていた。

「ういーっす。どした、なんかあった?」

説明を受け聖也は状況を把握した。実は数時間前、店ではこんなやり取りがあったのだった。

「水樹ちゃん、あのね、嬉しい事なんだけどね、せんべい超売れてるの。でもね、明日売る分が全然足りないんだ。」

「ほんと!?どうしよう・・・。ごめん。」

せんべいを発注したのは水樹だったので、責任もあり、だから水樹が今から近くのスーパーまで探しに行く事になった。

「おーっす。せんべい5枚。」

そのタイミングで勇利が買いに来た。勇利は水樹の困った事情を聞いてくれてこう言った。

「俺ら2年で手分けして近くのスーパー何軒か回ってせんべい買ってくるわ。」

「私も行きます。私の予想が甘かったから、私のせいなんです。」

「任せろって。そのうち夕方に腹減って買いに来るお客さんで忙しくなるから、水樹ちゃんは店番しときなよ。」

「でも・・・。わかりました。ありがとうございます。」

「1年誰か自転車貸してくれない?」

2年生達は真剣な様子で去っていき、その後スーパーを何軒かはしごしてくれたのだった。

そして聖也が店に遊びに来た時、買い物から戻ってきた2年生と1年生がこの次はどうするのかを話し合っていたというわけだ。

「なるほど、結局明日売る分がないわけね。」

勇利達が自転車で買い回ってもスーパーで手に入る量など所詮家庭レベルだった。

「俺もちょっと今から範囲広げて探してみるわ。今日足あるからさ。」

「えっ!」

聖也のその申し出に皆が喜ぶ。

「僕も行きます。乗せてって下さい!」

「あの・・・。あの、私も一緒に探したいです。私のせいなんです。私も連れて行って下さいっ。」

自分のせいだと思い込んでいる水樹は不安そうにしていた。それがわかってしまう聖也は、自分がそれを全部取り除いてやりたいと行動に出たまでだった。
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