おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第六十二話

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色気の無い校舎が1年で一番派手に装飾される日、それは文化祭である。文化祭は前夜祭と後夜祭を含めて3日間で構成されており、そして今日は2日目の土曜日だ。

ただ、あまり学校行事に参加しない学生、特に高学年にとっては代休の月曜日も数えれば4連休のようなもので、聖也もその緩い学生の内の一人で相違なかった。

今、仮免中の聖也は、午前中は教習所に行った。そして午後は自室のベッドに横になりながら携帯電話をチェックし、一週間前勇利から貰ったメッセージを再読した。

‘報告遅くなったけど、彼女が出来たよ。またお勧めの遊び場所とか教えて下さいよろしく’

‘あと、水樹ちゃんが聖也君はどうしてるのかって心配してた。だからいつまでも腐ってないで早く戻れよな!’

1年の頃からかわいがった勇利が嬉しそうで自分も嬉しいのは確かだ。そして、仁美は勇利にとって初めての彼女であり、その初めての彼女が片思いをしていた女だなんて、一体どれだけ徳を積んでんだよ、と皮肉半分に笑った。

それに比べて今の自分はどうだという。

試合で怪我をした後、隠れるように手術をし、それからリハビリに通って教習所にも通い詰め、をなんとなくな言い訳にして逃げた。

特に水樹に会うのが怖い。あんなに究極にかっこつけたのに、結果があれで心底最悪な気分であるし思い出したくもない。好きな女を笑顔にするどころか泣かせてしまったのだ。

でも、でも水樹はこんな情けない自分を気にしてくれていると知ってしまうと抑圧していた愛しさが蘇ってくる。

会いてーな、顔が見たいよ、水樹・・・。

聖也は、明日ハンド部で出店しているせんべいでも食いに行くか、と考えるだけで何もせず、そのままベッドで眠りについた。

しかし、浅い眠りのうちに振動する携帯電話に起こされてしまい、横になったままの気だるい動作でゆっくり画面を見た。

なんだ?クラスのやつ?

眠いのもあり不機嫌に電話に出た。

「うっせーよ何だよ。」

「まだキレないでくれる?聖也今どこ?あのさ、聖也が設計したソーラーカーが調子悪いんだよね。」

そして聖也は事情を聞き取ると、クラスの連中の様子を見る為に学校に行く準備を始めた。

もう一つ持って行くか・・・。

部屋を出る時にふと胸のあたりがザワッとしたような気がして、聖也は几帳面に棚に収納してあるそれを持って出ていった。
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