おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第三十七話

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ハンド部に関しては、月曜日から金曜日の放課後はグランドで、そして土曜日は体育館で練習となっており、だから今日は体育館に集まっていた。

ランニング、柔軟、ダッシュ、キャッチボールのルーティーンから始まると、その後は臨機応変に展開される。そして今、体育館内にはダッシュの合図の笛の音と、シューズが床にこすれるキュッとうい音が響いていた。

ピッ、ピッ、ピッ・・・。

笛を吹くのはマネージャーの仕事で、今は水樹が笛を吹く。

ピーッ、ピッ、ピーッ、ピッ・・・。

入部当初は恐る恐る笛を吹いていた水樹も、随分さまになってきた。

「それじゃ5分休憩なー。」

部長の掛け声で部員達は水樹の作ったお茶を飲み、そしてひと時の談笑と共に身体を癒す。

「笛吹くのうまくなったよね。お茶もうまいし、ナイスティ!」

「ナイスティ?それなら良かったです。ありがとうございます。」

部長に褒められ水樹の笑顔が咲けば、そこへ勇利がすかさず茶々を入れる。

「でも時々笛音痴だよね。前だってさ、タイミングずれて俺捻挫しそうになっちゃったもん。」

そして瞬介もここぞとばかりに便乗する。

「僕も僕も!良かったー、実は僕だけへの巧妙な罠かと思ってましたよ!」

毎度お約束のこのいち連の流れを聞いては聖也が吹き出す。

「ぶはっ!だってよ水樹。残念ながらまだまだみたいだね。」

水樹はムッとした素振りで反撃に出た。

「宇野さん、羽柴さん、そのお茶返して貰えますか。」

「あーあ、水樹ちゃん怒っちゃったじゃん。勇利、羽柴、とりあえず頭下げとけって。あっ。」

仲裁に入った部長が鈍臭くお茶をこぼした。

「もー私は拭きませんよ。部長の代わりに宇野さんが拭いて下さいよ。」

「お前なー。ほんと笛トラップだし、二流マネージャーに降格。」

「二流っていうなら、私を勧誘した宇野さんも二流ですね。」

エンドレスに続くつまらないイチャイチャに聖也ですらもいたたまれなくなってまとめに入った。

「わかったわかった、お前ら小学生かって!しゃーねーな、ほら羽柴ちゃんと拭いとけよ。勇利行くぞ!」

「えー、僕っすか!?」

「あ、水樹、一昨日はボーリング行けなくてごめんな。」

そして気の済んだ聖也達はコートに戻っていった。

入部してから水樹は良く働いた。最初の頃の硬さもいつしか取れ、いつも勇利達にからかわれては笑って笑われその場をすぐに明るく照らす。

マネージャーなんて響きはいいけれど、夏は暑くて冬は寒く、実際3Kもいいところだ。

部員達は皆、もちろん自分がハンドボールが好きな気持ちが第一にはあるのだけれど、それでも水樹や夏子に応えたいと思っている。

男子校の男は口下手な奴ばかりかもしれないけれど、皆感謝しているのだ。

だから連れていきたい。
全国大会に。

その中でも聖也の気持ちは特別に強かった。
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