おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第ニ十二話

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それでも流石の聖也は顔色を変えずに話を続ける。

「名前は?」

「立花・・・水樹です。」

「んじゃあよろしく水樹。俺は4年の正木聖也ね。ねえ水樹さ、入部しなよ。んで俺達と一緒に燃えようぜ。」

いつもならば、俺達ではなく俺と一緒に、と簡単に言いそうなのに聖也には出来なかった。

「えっと・・・灰になってしまいますね。」

聖也はまた眉間にシワを寄せ視線を横に外した。自分の問いかけにいちいち返事を考えてくれるのが可愛いくて、その下手ながらに乗っかってくれた返事に嬉しさが口から飛び出そうだった。

そして聖也は理解しようとした。自分まで中学生に戻ったみたいで何が何だかわからない。こういう気持ちはなんと言うものであったのか。

「聖也君!練習さぼっちゃ駄目じゃない。部長が戻れって言ってるよ。」

「ああ!?」

「何めっちゃ機嫌悪いじゃん勘弁してよ。」

「うっせーぞ勇利。こんな暑苦しい所に水樹を放ったらかしに出来るわけねーから。」

「はいー?もう呼び捨て?ちょっと聖也君、水樹ちゃんは俺が見つけたんだからね。俺の専属マネージャーなんだから、それ以上近寄らないでよ?」

「は!?お前それ笑えねー冗談だわ。」

「うそうそ!まじになんないでって。俺は水樹ちゃんの保護者みたいなもんかな。ほら早く練習行きなよ。部長が呼んでるのはほんとなんだからね。」

「わかったって。俺いないと練習締まんねーしな。じゃな水樹。しっかり見とけよ。」

そう言うと聖也は練習にやっと参加した。

一見怖そうなのに笑う口元は子供っぽい聖也に対して、水樹は水樹で緊張しっぱなしだった。それに初めて異性に呼び捨てにされ相当動揺もした。けれど、水樹はそちらではなく、勇利の言う、専属マネージャーの方に強く反応した。

「聖也君て熱い人なんだよ。ハンドもすっごくうまいしね。しかもいちいちかっこ良くて笑っちゃわない?かっこつけてる事、俺達にばれてないと思っててさ、うけるよね。」

「そんな事なかったです。気を使って話して下さってとても楽しかったです。それに、宇野さんと正木さんがとても信頼し合っているのが伝わります。」

「調子に乗るから普段は絶対言わないけど、聖也君の事親友だと思ってるんだ。」

「素敵な関係ですね。」

「まあ、そうかな。ね、今からお茶作りに行くんだけど一緒に行く?」

「え!?宇野さんマネージャーなんですか?」

「ははは、違う違う、マネージャーは5年の鈴宮さんって女の人だよ。多分今日は来ない曜日だから、前の1年が交代で作ってんの。」

「あ・・・はい。一緒に行きます。」

水樹は、素直に勇利ともっと話していたかった。
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