おもいでにかわるまで

名波美奈

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第一章

第十一話

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ハンドボール部の夏の全国大会は地方予選で砕け散り、5年生は引退した。そして、少し前に新学期を迎えた勇利はいつもと同様に、クラブ開始の時間まで自分の教室で仲間と談笑していた。

「勇利ークラブまで時間あっからさ、食堂いかね?」

「もーまさちゃん後輩の教室まで来ないで下さいよー。」

「誰がまさちゃんやねん。死ねバカ。」

悪態をつきつつも勇利は少しも抵抗せずに聖也と共に食堂へ向かった。聖也にしてみれば、夏休み頃から勇利の元気がない事が気になっていたのだった。

「おばちゃんイチゴオレ二つ。ほら飲めよ。」

「マジ!?喉の渇きを潤すどころか逆に水分奪われるんですけどっ。」

「うるせーまじ黙って飲めバカ。で女に振られた?」

「なんなんすか、そういうのってもっとオブラートじゃないんすか。」

「誰学校の奴?」

「振られたっていうか・・・。」

勇利は夏休みに起こった仁美との出来事を聖也に説明した。男は友達にもあまり自分の深い話をしないのだろうが、何故か聖也には促されるままに気持ちを伝えてしまうのだ。聖也は甘えさせ上手だ。

「よし!猿も恋して人間に近付いたか。」

「は?もー誰が猿なんですか。ちゃかすなら聞かないで下さいよ。吐かされちゃかされトホホなんですけどっ。」

「もうすぐ4時半になるぜ。行くか勇利。」

二人は着替える為に食堂を後にし、そのまま無言で歩き続けた。勇利は沈黙が辛くなってきて、何か話そうかとしてみたものの、仁美の事がまた思い出されてうまく言葉が見つからない。そんな時、先に聖也が口を開いた。
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