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第一章
第九話
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水樹、勇利、それぞれの春が終わると、季節は急ぎ足で梅雨を駆け抜け太平洋高気圧が勢力を強めた。まだ本格的な夏の訪れの前だというのに、水樹達ソフトボール部員達はとある地方大会会場の隅に集まり全員で泣いていた。そしてそこでは、日焼けし過ぎて褐色を通り越した水樹の顔面が、涙か鼻水か判断しかねる水分でぐしゃぐしゃに覆われていた。
「ごめっごめっ・・・。」
3年生最後の試合が終わったのだ。中でも水樹は一番崩れ落ちながら泣いている。なぜなら逆転サヨナラの大チャンスの中、不名誉の最後のバッターとなってしまったからだった。
全員の嗚咽は収まらない。
「ナイバッティンだったよ。惜しかったよね。」
「立花先輩。めちゃくちゃかっこよかったです。感動しました。」
「私達が来年、勝ちますから。」
涙でため池でもできそうな程、彼女達はサラサラの涙を流して泣いた。
「ずっと一緒に闘ってこられて本当に幸せでした。ありがとう。それからプレッシャーに勝てなくて、本当にご・・・。」
改めて声に出すとまた気持ちが昂りそれ以上は話せなかった。
そして、引退試合からしばらく経った夏休みになっても、まだ、あの時の悔しさで水樹は時々放心した。
「立花さーん、おーい戻ってこーい。」
「先生・・・。」
水樹は自宅の近くの、口ほどにも進学塾とは呼べない個人経営の塾に通っている。
「また意識明後日の方に飛んでるじゃん。大丈夫?まあ仕方ないよね、だってさ、よりによって内野ゲッツーってさ。」
「えっ・・・。」
「先生もう水樹いじんなってー。趣味悪っ。」
「ごめんごめん、ごめんね立花さん。」
「先生とは生涯話しません。」
「あーそうそう、立花さんさ、まだ受験先決められてないよね。あのさ、俺考えたんだけどさ、立花さんに良い学校あんだよね。隣町にさ、大学附属で、しかも5年制の学校があるんだよ。」
「5年制?」
「もう話してんじゃん!うける。」
「特殊な学校。大学附属と言ってもさ、つまり大学に通う時には3回生からの編入になるし、附属の大学に行くのにも受験があんだよ。」
「はあ・・・。」
「普通科はなくてね。えーっと、化学系と、建築系と・・・それから・・・全部で五つ。理系だから立花さんにぴったりだと思うんだ。秋になったら、学校見学に行こうか。」
「うーん、まあ、はい。まだ何も決まっていないので、見学に行きたいです。私理科が一番好きですし。」
「理由そんだけ!?ほんとうける。」
「ただね、女子がね、ほとんどいないんだ。」
「大丈夫じゃん?水樹も男みたいなもんだし。」
水樹は男の子とあまり話した事はない。ただ、理由は別に嫌いだからじゃなく、ただ単に恥ずかしいからだけだった。
いつかは恋愛してみたい、内心では素直にそう思う進路の決まっていなかった普通の女の子の水樹に、一筋の、でも運命の光が背中を照らした瞬間だった。
「ごめっごめっ・・・。」
3年生最後の試合が終わったのだ。中でも水樹は一番崩れ落ちながら泣いている。なぜなら逆転サヨナラの大チャンスの中、不名誉の最後のバッターとなってしまったからだった。
全員の嗚咽は収まらない。
「ナイバッティンだったよ。惜しかったよね。」
「立花先輩。めちゃくちゃかっこよかったです。感動しました。」
「私達が来年、勝ちますから。」
涙でため池でもできそうな程、彼女達はサラサラの涙を流して泣いた。
「ずっと一緒に闘ってこられて本当に幸せでした。ありがとう。それからプレッシャーに勝てなくて、本当にご・・・。」
改めて声に出すとまた気持ちが昂りそれ以上は話せなかった。
そして、引退試合からしばらく経った夏休みになっても、まだ、あの時の悔しさで水樹は時々放心した。
「立花さーん、おーい戻ってこーい。」
「先生・・・。」
水樹は自宅の近くの、口ほどにも進学塾とは呼べない個人経営の塾に通っている。
「また意識明後日の方に飛んでるじゃん。大丈夫?まあ仕方ないよね、だってさ、よりによって内野ゲッツーってさ。」
「えっ・・・。」
「先生もう水樹いじんなってー。趣味悪っ。」
「ごめんごめん、ごめんね立花さん。」
「先生とは生涯話しません。」
「あーそうそう、立花さんさ、まだ受験先決められてないよね。あのさ、俺考えたんだけどさ、立花さんに良い学校あんだよね。隣町にさ、大学附属で、しかも5年制の学校があるんだよ。」
「5年制?」
「もう話してんじゃん!うける。」
「特殊な学校。大学附属と言ってもさ、つまり大学に通う時には3回生からの編入になるし、附属の大学に行くのにも受験があんだよ。」
「はあ・・・。」
「普通科はなくてね。えーっと、化学系と、建築系と・・・それから・・・全部で五つ。理系だから立花さんにぴったりだと思うんだ。秋になったら、学校見学に行こうか。」
「うーん、まあ、はい。まだ何も決まっていないので、見学に行きたいです。私理科が一番好きですし。」
「理由そんだけ!?ほんとうける。」
「ただね、女子がね、ほとんどいないんだ。」
「大丈夫じゃん?水樹も男みたいなもんだし。」
水樹は男の子とあまり話した事はない。ただ、理由は別に嫌いだからじゃなく、ただ単に恥ずかしいからだけだった。
いつかは恋愛してみたい、内心では素直にそう思う進路の決まっていなかった普通の女の子の水樹に、一筋の、でも運命の光が背中を照らした瞬間だった。
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