短編集めたところ

ハクション大帝

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策略

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俺、上田智也うえだともやは幼なじみに恋をしている。
名前は犬飼凛也いぬかいりんや
凛也は高身長で顔も良い。運動もできて、成績もいつも学年トップだ。

一方俺はそこらへんにいるごくごく普通の男子高校生。
一重の目、平均程度の身長、スポーツだって出来ないし、成績は振るわない。
わかってる。俺が凛也の隣に立つなんておこがましいって。
でも凛也は俺を一番に行動してくれる。
それがとても心苦しい。
間違いなく俺の存在は凛也に負担をかけているだろう。
だから離れなければいけないと思うのに、「もう俺と付き合わないでほしい」って言えばいいのに、中学校からその言葉は言えていない。

そんなふうにもんもんと悩んでいると、
「どうしたの?ずっと難しい顔してるけど」
と声をかけてきた。
原田小夏はらだこなつ。俺の数少ない女友達の一人で、天真爛漫として底抜けに明るい。新聞部に所属していて、彼女に聞いたらこの学校のことは何でもわかると言われている。
「いや、なんでもないよ…。」
そう返事をすると彼女は興味をなくしたのか、「そう」とだけ言った。
「そうだ知ってる?」
これは彼女が何がうわさを嗅ぎつけたときの口癖だ。
今度は一体どんなうわさをゲットしたのだろうか。

「凛也くん、河井さんと付き合うことになったらしいよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

河井華かわいはな。いわゆる学校のマドンナ。遠くからでもわかる長いまつ毛に縁取られた大きな瞳。高い鼻とゆるくカールした髪は見るものすべて引き付けるという言葉がよく似合う。演劇部に入っていて、なにかのコンクールでも賞を取っていた。
間違っても俺みたいな下の下の下のような人間より、凛也の隣にいるべき人間だろう。

「そう…なんだ…」

そう絞り出すのがやっとだった。
「なんだ~もっと驚くかと思ったのに~。幼なじみなんでしょ?」
そう小夏はむくれる。
「いや、凛也はあんなんだし、モテにモテだから…今更彼女が出来たって言われても驚きはしないよ」
動揺が悟られないよう気をつけて言葉を紡ぐ。

そうだ、凛也はイケメンで、高身長で…。お似合いじゃないか、美男美女で。俺がどうこう言うことじゃないんだ。そう気持ちに蓋をする。
それからあとの授業はあまり身が入らなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

凛也が河井さんと付き合いだして一ヶ月がたった。
教室でも二人は楽しそうに喋っている。
帰るときもこれまでは凛也は俺と一緒に帰っていたのが、もうほとんど俺と帰ってくれなくなった。

でもそれは俺が一番望んでいた展開だ。
凛也の足を引っ張ることもなくなった。
凛也の中で俺はもう大事な存在ではなくなったんだろうな。俺も、早く凛也のことは忘れないとな…。
それでいいんだ。
それで…。

そうやって一人、教室の机に突っ伏していると、俺をが呼んだ。扉の方に目を開けると、そこにはこの学校のもうひとりのマドンナ、神藤結しんどうゆい生徒会長がいた。
河井さんと違って、神藤さんはしとやかな美人といった感じだ。
すらりと長い手足。肩にかかってサラサラと流れるつややかな黒髪。すっと整った顔つきは大和撫子やまとなでしこという言葉をそのまま人の形に持ってきたような感じだ。

「ごめんなさい、急に話しかけて…。少し話したいことがあるの。放課後生徒会室に来てもらってもいいかしら。」

そういうと、にこりと微笑んだ。
なにがあったらこんな平凡に生徒会長様が話しかけるのだろうか。
不思議で仕方ない。
もちろん放課後はなにもないし、わかりましたと伝えると会長はにこりと微笑んで教室から出ていった。

うぅ…クラスメイトの視線が痛い…。
凛也からも視線を投げられている。
あぁ、久しぶりに僕のことを見てくれたんだな。
忘れようと思ったのにそんなことを考えてしまう自分に心底嫌気が差した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後、生徒会室に行くと会長ひとりだけだった。
「急に呼び出してごめんね」
そう言って会長は眉を下げる。
「いえ、予定はなかったので大丈夫です」
そういうと、会長は下を向いてもじもじしていた。
言うか言うまいか悩んでいる感じだ。

「あの…あのね…」
顔を上げた会長は、覚悟を決めたみたいな目をしていた。

「上田智也くん、貴方のことがずっと好きでした。良ければ付き合ってくれませんか?」
そう会長は言った。

え?ツキアッテクレマセンカ?どういうことだ???
なんで会長が一言も話したことのない俺なんかを好きに???

「なんで…俺なんかを…?」
気づいたらそう口にしていた。

「上田くん、いっつも朝花壇に水を上げてるよね。その時の笑顔が頭から離れなくて…気がついたら好きになってたの…」
頬を赤らめながら会長が言う。

美化委員会に所属している俺は、登校したら必ず花壇に水をあげていた。
そんなことを見てくれていたのか。

「で…お返事…貰えないかな…?」
そう会長に聞かれる。

「俺はーーーーーーーーー





生徒会室を出て、荷物を取りに教室に向かう。
すると、後ろから声をかけられて呼び止められた。
振り向くとそこには凛也の彼女の河井さんがいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

生徒会室をでたあと、河井さんに呼び止められた俺は体育館裏にいた。
俺の前には腕を組んで、いつもの顔からは想像もできない顔で俺を睨みつけている河井さんがいた。

「ねぇ、いつになったら凛也くんから離れてくれるの?」

開口一番にそう告げた彼女に頭からハテナマークが出る。
俺は、凛也と河井さんが付き合いだしてから、両手で足りるほどしか凛也とは関わってない。

「なんのことか…さっぱりわからない」
と言うと、
「しらばっくれないで!!!」
と河井さんは大声を上げた。
「凛也は私といるときも、ずっとあんたのことを話してる!今日智也がどうだった、とか小さい頃智也はこうだったとか!!教室にいるときも凛也は私のことなんか見てくれないの!ずっとあなたのことを見てるの!!!いい加減にしてよ!!あなたなんかが凛也に吊り合うと本気で思ってるの!!??」

肩で息をしながら河井さんが怒鳴る。

「俺は…凛也と吊り合うなんて思ってないよ…。凛也はかっこよくて…優しくて…頼りなる。だから、俺みたいな平凡が隣にいていいわけないんだ…。」

「わかってるなら早く凛也から離れなさいよ!!もう二度と凛也に関わらないって!そもそもあなたみたいな平凡が…」
「智也は平凡なんかじゃねーよ」



突然俺の後ろから聞こえてきた声に、河井さんも俺も固まる。

校舎の影から姿を表したのは、凛也だった。

「なに?凛也が俺とつり合わないって?本気で言ってんのかそれは」
凛也は今までに見たことないくらい怒っていた。

「でも…凛也だってこんな平凡と付き合うなんて」
「だから智也は平凡なんかじゃねーよ!!!」

凛也が怒鳴るところなんて始めてみた。
いつの間にか俺の後ろに来ていた凛也が俺の顎に手を当てる。
ぐっと俺の顎を上げると…


そのまま口付けた。
俺も河井さんも驚きでなにも話せなかった。

「華、お前とは別れる。金輪際俺たちの前に姿を見せるな」
そう凛也が低く唸ると、河井さんは泣きながら走り去っていった。



「凛也…?」
まだ驚きが抜けない俺に、凛也が向き直ってこう言った。
「ごめんな、智也。俺、お前が好きだわ。今日生徒会室で会長に告られてるとこ見て、俺気付いたわ。お前のことが好きなんだって。本当にごめんな。俺、もうお前の前に姿見せないから…。」
そう言うと凛也は俺に背を向けて歩きだした。

とっさに智也の腕を掴んで
「嫌だ!!!」
と叫んだ。
「凛也と一緒に入れないなんて嫌だ!俺だって…俺だってずっと凛也のことが好きだった!」
そういうと凛也は信じられないというような顔をしていた。
「そんな…だって…会長からの告白は…?」
「断った!」
「断ったってお前…」
うろたえる凛也は言葉が出ないといった感じだった。
「いいのか?本当に俺で…。もう…智也のこと離してやれなくなるぞ…?」
そう凛也が聞く。
「そんなの…こっちだって離れたいって言っても離れてあげないよ?」

そういうと凛也はギュッと俺のことを出し決める。
「好きだ…!智也!俺と付き合ってくれないか…?」
ああ、凛也の腕のなか心地いいな…。
「もちろん…。俺も凛也のこと大好きだよ!」

涙でべしょべしょになった俺たちのキスは、しょっぱかったけど、最高に甘かった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




まだだ…まだこらえろ…まだ…まだ…。
廊下をダッシュし、階段を駆け上がる。
生徒会室と書かれたプレートがかかってある部屋のドアをあけ、ソファーに倒れ込んだ。

んふっ…ふふふっ…あはははははははは!!

私、河井華は制服がシワになるのも気にせず大声でソファーの上で身をよじりながら笑う。
私は先程、最推しの凛也くんに別れを告げられたところだった。
笑いすぎて涙が出てきた。嘘泣きと違って滲み出てくるような笑い涙はメイクを崩す。でも関係ない、だって私は可愛いんだから。

ゲラゲラと笑っていると、奥から生徒会長が出てきた。
「あら…その様子だとうまくいったみたいね…♡」
ゆっくりと微笑む彼女はウキウキとした気持ちが全身からにじみ出ている。

「もっちろ~ん♡華の演技力舐めないでよねんっ!♡」
そういうとスマホがメッセージの通知を鳴らす。
送り主は現在、智也たちの下校を尾行している原田小夏。

メッセージを見ると
『うまく行ったよ~(*^^*)今智也くんが別れ際にちゅーしたとこ!!そのまま智也くんダッシュで家の中入っちゃった!♡凛也くんポカーンとして立ってる!笑
写真撮っといたからまた現像しとくね!』

メッセージを見て、「うひょ~!!!」と私は学園のマドンナにあるまじき声を出す。生徒会室が防音でよかった。

そう、私達三人は校内で男子カップルを見るのが大好きな生粋の腐女子。
くっつきそうな男たちを情報収集が得意な小夏が調べ、二人がくっつくために必要なシナリオを結が作り、当て馬役を私が演じる。
こうして私達は数々のカップルを誕生させてきた。

「次のターゲットは?」
「えっとねーいい線いってるのはこの二人かなー」
「え、やばい!この子推せる!!」



こうして、私達のによってまた新たなカップルが誕生していくのだった。
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みんなの感想(1件)

yui
2021.09.29 yui

デスゲームのお話とても大好きです!次のお話も楽しみにしてます☺️

解除

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