王様の椅子

猫手 まねき

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玉座

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 ユルティニア王国、謁見の間。

 柔らかな春光が鮮やかに大理石を輝かせる。

 ふむ、ようやく完成した玉座からの眺めは、実に素晴らしいな。

 赤い絨毯はグラスデン産の最高級品。

 白い円柱にはロマセンタ様式の華麗な彫刻。

 そしてこの天井よ!

 三年の月日をかけてようやく完成した王国誕生絵図。

 古の王が創造神様より光の剣を賜る様を、神々しいまでのフランテ画で描ききっている。

 だが残念なのは、左に見える宰相の尻だな。

 もう二段くらい玉座の床を高くすべきだった。

 後ろに組んだ手の指には、いやらしくギラギラと高そうな指輪が光っている。

 きっと悪いことしてんだろうな。

 頭の良い奴ってのは隠れて上手いことやってるもんだからな、うん。

 そんな宰相の尻がずっと見えているのは嫌だから、視線は自然と右に行くわけだが、

 ここからだと王妃の顔がよく見えねえんだ。

 ほぼ横並びの位置に椅子があるから仕方ないんだが、

 絶対美人に違いないんだからもっと見せていけばいいのにな、もったいない。

 あのどこで作ってるかわからん高そうな扇を広げて顔を隠すんだ。

 笑ってんのを、笑ってませんよってな。

 でも、笑ってなかったらそもそも隠さねぇんだから、笑ってるに決まってるんだけど、笑ってませんよって言うその辺が貴族のいやらしいところなんだろな。

 にしても、あれだな。

 王国謁見の間だし、王が一番偉いんだけど、

 宰相の話を片膝ついてずっと聞いてる目の前の若者たちは偉いよな。

 何でもこれからたった四人で魔王を倒しに行くってんだから。

 餞別がわずかな金貨と兵士が使うような剣一本じゃあ、少ないよなあ。

 この玉座なんか、全体に金細工、皮は最高級のもの使ってんだから理不尽極まりないぜ、本当に。

 両隣でずっと立ってるだけの衛兵が、鎧でもハルバートでもあげりゃあ良いのにな。ぜんっぜん動かねぇんだから。

 ちょっとどっか行けば良いのに、人がトイレに立つとトイレの前まで着いてくんの。

 さっきまで誰もいなかったんだぜ?

 あーあ、やっと玉座が納品されたからさ、現場監督として最終確認してただけなのによ。

 何で王様以外が「あっ、遅れてすみません」って感じでドヤドヤ入ってきたんだろうな。

 下を向かず、顔をそらさずによーく見れば俺が現場監督だってすぐにわかってくれたと思うんだよ。

 やっぱ気分だけでも味わおうと思って、置いてあった王冠と赤い豪華なマントを身に付けたのがいけなかったんだろうな。

 今から打ち明けるのキツいよなあ……。
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