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第三十話  先制

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 さっそく現在地を把握するとともに各軍があわただしく動き出す。
 そんな中、迅がふと龍国軍の方を見ると、レンカがソラリスと話をしている。

「お前が前線まで来る必要なかっただろう! 」
「何言ってるの! 今世界の変革の時よ。ジッとしているわけにはいかないわ」
 
 

 となりの亜人国軍の方に目をやると、ランドルが明らかにエリザべスにデレデレしている姿が見てとれた。


「センパイ、レンカさんオンリーじゃなかったのかよ。言ってやろ! ははっ」

 方々で様々な模様が、あわただしい中においても繰り広げられていた。


 それよりも社長がいってた通り、すぐにでも散開する必要があるな。この大軍勢では目立ち過ぎる。……

 迅はマーナとソラリスを含む各国の統括と指揮する者と、帝国の地理に詳しいそれぞれの種族に集まってもらい、早急に段取りを始める。

 各種族には特性がある。魔法。防御。攻撃力。身体能力。それぞれに特化した種族。特化するということは、逆にいえばそれ以外は弱い。その弱点を補うためにもある対策が講じられる。

 基盤となる軍隊を残しつつ、それぞれの特性を合わせた各国混合軍を早急に編成するとのこと。そんな即席の軍隊は危ういのではと思ったのだが、杞憂だったようだ。すでに種族の特性、持ち味を生かした軍が存在していたからだ。

 神聖国軍。多種族混合国のそこではとうの昔から、そうしてきていて実績をあげてきていた。その神聖国のアドバイスのもとに対策は進められる。

 なるほど……

 エルフ軍を統括しているマーナをのぞいて、迅とレンカとチビッコ達ら、そして終焉の魔女エリザベスはフリーで臨機応変に活動することとなる。


 すぐ目の前が帝国主要都市であり、すぐにでも進軍するベく、いくつかの決め事をして、全軍は方々に散った。簡単にいえば帝国城を四方から挟みうち、退路を断つ。 帝国側からすれば、襲撃初日に反撃をくらうことなど夢にも思っていないはずなのだから。

 迅は考える。……いい兆しだ。今なお襲撃されているだろう国々が心配だが、知るすべがない。ここで俺たちが少しでも早く突破口を見つけるほかない。

 そう考えていると、背後にふわっとした風を感じ、振り返る。みると今まさに宙から降り立ったかのようなベスがいた。ベスは迅の顔を覗くようにすると、わかったように告げる。

「ジンさん、大丈夫よ。ほかの国々健闘してたわよ。私ここに来る途中ざっと見てきたから! 」

「ベスさん空飛べんの!? てホントっすか。そうか。まずは安心だ。お願いしていいですか。いまのこと全軍の指揮者にも伝えてもらっても? すみません」

「お安いごようよ。ウフ」

 というなりふわっと飛んでいった。

「すげーな……」
「なーに! 迅さん。デレデレして! 」

 レンカが迅の腕に絡むように寄ってくる。

「デレデレは俺じゃねーし、いや、あの……終焉の魔女ってなんなんですか? 」
「ホントに。迅さんがあの魔女と知り合いなんてね。おったまげだわ。……出会ったらみんな死んじゃうからそう呼ばれてるの」

「は? そんなヤバイ人なんですか」
「そりゃヤバイっしょ。魔王の側近なんだから! 」

「なんかレンカさんとキャラかぶってますよね」
「はあ? なにどーゆう意味? 」

 いまにも深紅のレンカが現れそうで

「いやめっちゃくちゃ美人なとこっすよ。それにつおいし! 」
「きゃあ。迅さん好き! 」

 とその豊満な胸をグイグイ押しつけてくる。このまま永遠に……と思いたいのはやまやまだが……
 
「レンカさん、早く行きましょ。置いてかれますよ! 」
「はーい! 」


  ◇


 迅とレンカ、チビッコらはとりあえず、マーナの軍とともにしている。
 迅ら軍は、秘かに砲撃音が届く距離まで近づいてきていた。その音は鳴り止むことなく国全体を包むようだった。

 これ、国として機能しているのか? 
 そう思えるほど帝国内には人っ子一人見当たらない。戒厳令が敷かれ、ある場所にまとめられているのか、ただ単に外出をとめられているのかはわからないが。

 

 民間人の犠牲を危惧していた迅らからにすれば、いないことに越したことはないのだが。まさか、国民全部が兵士なんてことはないだろうし。多くの普通の家庭もあるはずだが。

 大きな居住建物もいくつか見られ中を覗くも、ガランドウのような様相に生活感がまったくみられない。

 もしかしたら国民は極限まで質素な生活を強いられ、国はほぼ全てを軍事力にそそいでいるのかもしれない。迅の世界のある国が頭をよぎる……


 城壁の上に連なるように設置された大砲は、静かに城外に砲身を向けている。数人の兵がそのまわりを見張りしていた。城内からは次から次へと砲撃音が繰り返し鳴り続ける。

 まずは先制する。
 遠距離攻撃を得意とする、エルフの弓と、攻撃魔法が、城壁上に連なるように装備してある大砲と兵士に向けて一斉に放たれる。



「「うううううわぁぁぁぁっ」」

 突然の攻撃に面食らう帝国兵ら。

「どこからだぁ。話が違うぞっ」
『迎え撃て』『すぐ報告入れろ』『ぎゃああああ』……

 その後すぐに警戒用なのかサイレンのような音が響き渡る。何人もの帝国兵が、台車と一体化している銃を構えていた。迅が前に見た筒ではない。筒ではないが、見覚えのある形状と銃から垂れ下がるように連なるものをみてとっさに叫ぶ。

「連射だっ。下がって! 」

 確かガトリング砲だったか、そんな感じだな……
 そのガトリング砲から続けざまに連射される。かろうじて防御魔法と盾により防いではいるが、足止めをくらう部隊が出てきた。 

『カッ』っというような強い閃光とともに、炎を圧縮させたような熱線が上空から城壁上を照らす。見るとそのガトリング砲の砲身が溶けていた。

「あーら。ごめんなさいね」

 ベスさんか。やっぱすげーな。

「なんだあれは。撃ち落せ! 」

 標的がエリザベスにかわり、上空へ射撃を放ちだす帝国兵だが、弾がみえているかのように、のらりくらりとかわしていく。

 そのときにはこちらの軍はすでに次の行動に移っていた。エルフらからの一斉射撃と合わせて迅ら含めた別動隊は、閉ざされる前の城門から内に侵入を試みていた。



 城から無数に出てくる帝国兵に、やむなく迅らは身を隠す。そしてそこから反対側の広場のような城内のある光景を目にする。


 なんだあれはっ!!!

 この帝国内に入ってきてからずっと聞こえ、鳴り続けていた轟音の元凶。
 そこは大きな射撃場のようにも見えた。十数台の大砲と同じ数のエボーらしき者が、まるで銃殺刑を受ける囚人かのように一列に並び、大砲から射出された砲弾は目に見えることはないが消えゆき、各国へ向かっているようだ。

 一砲台に一人の射撃手。頭に何かを被せられているエボーが、両手で頭を抱えるような様をすると、それが合図かのようにエボーを的にして砲弾を撃つ。エボーに当たるはずの砲弾は消えて強制的にテレポートさせているかのようだった。


 そんな……あれでは、いずれ直撃を受けてバラバラに死ぬ……なんてことを……俺のチカラに似ている。死を回避するため強制的に発動させているんだ。いずれ限界が来る。…………いや、似てなどいない。あんなもの拷問以上なことだ。使い捨てのコマだ。あんなの。

 迅は思い違いをしていたことに気づく。自我がないなんてことはない。自我があるからこそ死から逃れるためにチカラを使っているんだ! くそっ。

 
「おいっ! これ片付けろ。ったく馬のえさにもなりゃしねぇ」

 そう言い放つ射撃手の足元には、バラバラになったエボーの亡骸らしいものがあった。

 くっ。あのヤロウ……この兵士らもダメだ。鉱山んときの連中と同類だ。
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