二人の火照り遊び

山之辺アキラ

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1章

26.遊び遊ばれ

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 口元を笑わせながら拓斗が手を拭いている。
 ウェットティッシュで手首から指先まで、指の間も見逃さずに拭いている。
 まるで大切な道具を磨いているかのように丁寧な動きだ。

 しかし、「触るよ」という言葉を重ねながら見る身にとっては不気味だった。
 美詠は四つん這いのままそれを見ていた。
 胸から股までの肌、肩からお尻までの肌が、不安を感じてぴりぴり張っている。
 背中にはまだボールがのっていない。もちろんタイマーも動いていない。
 少し休憩と言われて、ただ待たされている。

「どこ触ると思う?」

 不穏の気配の主がちらりと目線を送った。
 何かを楽しそうに考えながら、拭きあげた指先をマッサージしている。

「……分かんない」

 美詠は少しためらった答えを返した。
 彼の顔がにやりと笑う。
 裸の背中はぞくりと震えた。

「いくよ」
「うん」

 オレンジ色のゴムボール。
 インターバルを畳で過ごした球面が落ち着いたツヤを見せている。
 それが背筋の熱を少し奪った。

「…………」

 障子の明るい広い部屋。イグサの香りの立つ畳。
 そのいっさいに心が休まらないほど張り詰めた空気。音の無さ。
 ドキンドキンと胸を打つ心音だけが時を刻む。

 少女の体はひたすら待った。
 待っているだけでボールを落としかけた。
 時間はおそろしく長かった。1分は果てしなく遠かった。
 立っている彼の気配だけが後ろにある。

 不意に背中を何かが滑って脇腹へ落ちた。
 虫が這いずったようなぞっとする感覚。指ではない。

「やぁんっ。なに!?」

 美詠はたまらず振り向いた。
 ハンカチが宙に垂れていた。それをつまむ顔が笑っている。

「はい、アウトー。2秒からやりなおし」

 ボールは畳に落ちていた。
 2秒からということは、待っていた時間はたったの12秒だ。
 信じられない思いで美詠は前へ向き直る。

 ボールが背中に戻される。再びじっと待つ時間。
 体のどこを触られてもいいように美詠の心は準備する。
 肩に、背中に、お尻に、股と、指が触りそうな場所をイメージする。
 ハンカチも正体が分かってしまえばそこまで怖くない。

 一度の経験が体の緊張を程よく抜いてくれた。
 美詠は後ろで気配を放つ拓斗を意識する。
 脚を開かされているのだから、彼は当然そこを見ているはずだった。

 美詠の下腹部に緊張が集まる。
 秘唇の奥がじくりと熱くなる。

 そのときだ。内腿を指が這った。
 八本の指が股の間から二手に分かれて、膝までの肌をすうっと滑りおりた。

「やああああ」

 背中がビクビクッと盛り上がった。
 ボールはあっという間に転がり落ちた。

「はい。7秒からー」
「ええー……」

 先の長さを美詠は思った。
 するとお尻をいきなり掴まれた。両手で鷲掴みだ。

「ボールが転がりやすいよ。もっと脚開いて」
「う、うん」

 拓斗にお尻を取られたまま、美詠は膝の間隔を広げた。
 脚にあわせて腕の間も広くとった。

「よし。いいよ」

 低い位置から彼の声。
 なんだか脚の間を下から覗かれているような気がして、美詠は自分の体の下を覗いた。目が合った。

「やあん。もう」

 目をつぶって顔をあげる。
 彼のせいで体の下側を意識してしまった。
 背中が安定しても、これでは余計に落ち着かない。
 空気の通りも良くなったのか、胸から下腹部までがスースーする。
 おまけにお尻はまだ掴まれている。

「いくよ」

 名残惜しそうにゆっくりと手が離れた。緊張の時間の再開だ。

 拓斗はボールを取って背にのせるとタイマーのボタンを押した。
 次なる隙を探すために四つん這いの身体を隅々まで眺める。

「エッチだなー。みよみちゃん」
「んん……」

 言われた美詠は動揺した。
 何をエッチと言われたのか分からなくて、あれこれ考えるうちに顔を赤くした。

 その間、拓斗の手はそっと脇へ回りこんでいた。
 狙うのは体の右側。やるのは一瞬。

 彼は五本の指を完璧なタイミングで彼女に当てた。
 腋の下から脇腹まで、優しいタッチでひとなぞり。

「あはははっ」

 指の通り過ぎたあとを美詠は反射的に腕でかばった。
 体の片側だけくすぐるのは、まったくタチの悪いイタズラだった。
 もちろんボールは落っこちた。

「15秒までいったよ。がんばれー」
「う……うん……」

 背中にボールをもらいながら、美詠はちょっと元気のない返事をした。
 楽しい気持ちもある一方で、彼の言葉を守りたい律儀なところがしょげている。
 声だけでもボールを落としていたのに、触られてはやっぱり耐えられそうになくて、頑張る気持ちを失いかけている。
 けれども、もしそれをやめてしまえば、ご褒美が嬉しく貰えなくなることも彼女は感じている。
 だからたとえ無駄でも次のタッチに向けて体を備えるしかなかった。

 うなだれていると乳首が襲われた。

「ああん」

 左右ともに指先で揺らされている。今度はなかなか止まらない。

 我慢しきれない体が腕を曲げた。前傾した。
 背中を転がりだしたボールはそのまま後ろ髪に乗り上げて、いったん止まってから脇へ落ちた。
 拓斗の手が胸から離れて、下でボールを受け止めた。

 美詠は不満に口を尖らせた。後ろを振り向いて抗議する。

「たっくん、私が落とすまで触るんでしょ。今の長いのずるい」
「いや、触りたくなったから触ってただけだよ」

 拓斗はいけしゃあしゃあと答えた。

 美詠のほうはおさまらない。
 わずかでも我慢できる可能性があるのと、全くないのとでは話が違うのだ。
 ボールが落ちないのを見て別のアクションに切り替えてくるのはよくても、落とすまで同じアクションを続けるのはずるいと思うのである。

「あんなのずっとやられたら絶対落としちゃうもん」
「あははは。落とすまでやるのはダメだよな」
「うん」
「だけどさー」

 拓斗は肩を楽しそうに揺らしながら美詠の正面へ歩く。

 彼にしてみればこういう不満を見せるところも彼女の魅力だった。
 彼女なりの意地やプライドのあるところが良かった。

 その方がいじめがいがあるのである。
 負けず嫌いな心を煽ってから負かすのもそう。
 公平な勝負で平等を思い出させたあとで不平等を強いるのもそう。

 ただ、そうした行いは彼に計算があってのことではない。
 なんとなくのタイミングで思いつきを実行に移しているだけだった。
 それは今も変わらない。

 意地悪な気まぐれ少年の顔から笑みが消えた。無表情に変わった。
 しかし無表情なはずの彼の眼光には圧がある。
 キレのある目つきと口元が、心をひるませる鋭利な迫力を生んでいる。

 彼に両手で頬を取られた美詠の表情は一変した。

「みよみちゃん」
「は、はいっ」
「俺はボールを落とすまでやる気なんてなかったよ。これぐらい頑張れるだろってトコまでしかやらないよ」
「はい……」
「女の子のおっぱいやおまんこって俺はよく分かんないけど、みよみちゃんはもっと我慢しなきゃいけないんだよ」
「はい」

 力で理不尽を通した拓斗は傲慢な王様のように笑って頬から手を離した。

「ポーズ変えようか。お尻と脚はそのままで、頭と肩は座布団にくっつけて」
「お仕置きのときのポーズ?」
「そうそう。でもあんなにきつくしなくていいよ。頭を下げて、お尻を上げてくれたらいいから。で、前のほう向いてて」
「はい」

 美詠のポーズが変わった。
 あのときと違って背筋の張りには余裕がある。
 頭を動かしても苦しくない楽な姿勢をとっている。

 美詠に横から覆いかぶさった拓斗は、伏した肩を両手で抱いてささやいた。

「ボールは首に置くけどいい?」

 肩と耳からの刺激に後ろ頭がビクッと震えた。
 髪の間から良い香りが広がった。

「うん」とつぶやかれて拓斗はまたささやく。

「次どこ触るか分かる?」

 今度は「んーん」と返された。
 正解を彼は伝える。

「おまんこの中を触るよ。動いちゃダメだよ」

 すると一拍遅れの返事があった。ぽつりと一言、「はい」とだけ。
 少しだけ声が熱い。

 うっかり肩にキスをしかけた拓斗は、気持ちを新たに立ち上がった。
 細い首の根元にボールをのせてタイマー再開。背中より条件は厳しい。

 美詠の秘所はすぐに開かれた。
 広がる二枚の恥肉の間がクチッと音を立てた。
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