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1章
23.得意と不得意
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《23話、改稿作業中です》
改稿の前と後でシーン設定にズレがあります。
――――――――――――
二人は部屋に戻ってまたジョイキャッチをいじっていた。
拓斗のほうがとりわけ興味津々なのである。
美詠の脇から画面を覗きこんで離れない。
「いいな。なんかいっぱいゲーム入ってるな」
「ミニゲームが10個入ってるパックだよ。これやるとコインが貯まるの」
「どれが面白かった?」
「んー……全部やってないから。やったの半分だけ」
「じゃあさ。やったことないゲームで勝負しない?」
「いいよー。また負けたら罰ゲーム?」
「そうそう」
拓斗は楽しそうにうなずいている。
美詠は聞いていいのかどうか少し迷ってから、遠慮がちに口を開いた。
「私が勝ったら?」
「ん。罰ゲームだよ。みよみちゃんが俺に何か罰ゲーム」
「え、いいの?」
「いいよ。なんで?」
「たっくんなら俺にはしちゃダメとか言うかと思った」
「ああ」
拓斗は笑ってチッチッチッと舌を鳴らしながら指を振る。
「さっきとは違うじゃん。勝負は公平だから面白いんだよ」
「うんうん。そうだねっ」
「お。さてはみよみちゃん、俺に何かしたいことがあるだろ」
美詠はにんまりした顔で「あるよっ」と元気に答える。
「ほー。罰ゲームなにする?」
「くすぐりコチョコチョ30秒の刑!」
「お、いいね。でも30秒は長くない?」
「えー、じゃあ30秒」
拓斗は笑って言う。
「変わってないじゃん。どんだけくすぐりたいんだよ。俺が勝ったらみよみちゃんがコチョコチョされるんだぞ」
「うん。いいよ」
赤ちゃん娘はスタコラサッサ。やる気のみなぎる顔である。
美詠は昨日の雪辱を晴らしたいのだ。
自慢のくすぐり攻撃をかけたにも関わらず平然としていた拓斗を今日こそ笑わせてやりたいのだ。
「たっくん。どのゲームやりたい?」
「どれでもいいよ」
「じゃあ1から5の中で好きな数字言って」
「5かな。通知表で5があると嬉しいね」
「どういうこと?」
首をかしげながら画面を操作する。
通知表は拓斗の小学校では1から5の五段階評価、美詠の小学校では△○◎の三段階評価なのだ。お互いに違うことを知って、「へー」「ふーん」と興味の薄い返事が交わされる。
「5ならこれだよ。二人でできそう」
「なんだこれ」
ゲームのタイトル画面を覗いて拓斗は笑った。
大きなサルが小さなサルたちを追い払っている。みんな変な顔で可愛げがない。
「王様のサルと泥棒のサルどっちか選ぶんだって。たっくん、どっちやる?」
「王様」
「だと思った」
美詠は笑いながら膝で立った。
その下腹部に拓斗の目がいく。ついつい見てしまうのだ。
しかし、それはそれ、これはこれ。彼は言う。
「みよみちゃん。さっきのは終わったから立たなくていいよ。座って勝負しようぜ」
「いいの? 見えなくしちゃっていいの?」
「いいよ。今も恥ずかしい?」
「ずっと恥ずかしいよ」
「そうかー」
座った美詠は一生懸命そこを隠そうとして脚と腰を動かしている。
そんな姿に拓斗の口元はゆるんでしまう。
「一回目はお試しね」
「うん」
二人はまずやってみた。
果樹園のバナナをめぐる攻防ゲームである。ルールも操作も単純。
四匹の泥棒サルが盗もうとするのを王様サルがアイテム使って阻止する内容だ。
しかし上手くプレイするのは難しい。プレイヤーはバラバラの位置にいる泥棒四匹の動きをすべて把握し続けなければならないのだ。
「じゃあ本番勝負いくね。いい?」
「おう」
練習はほぼなし。しかしゲームが始まると二人の動きには明らかな差が見えた。
王様を操る拓斗の対応は遅れ気味。それに対して美詠は四匹に次々と指示を出して素早い攻撃ができている。勝負の結果は順当だった。
「うわー。負けた」
「ふ、ふ、ふ。やったあ!」
頭を抱える拓斗の横で美詠はガッツポーズを決めた。
一つのゲームで負けたからといって全部がダメとは限らない。
得意と不得意はみんなそれぞれ違う。
「罰ゲームか。どうすればいい?」
「じゃあそこに寝てくださーい」
「分かった」
拓斗は畳にごろりと寝転んで上を向く。
罰ゲームが何でもないことのように顔は平然としている。
「たっくん。座布団は? 背中にいらないの?」
「いらない。さあ、来い」
「ふふ。じゃあ……」
美詠は彼にまたがった。
くすぐりチャンピオンの自負に賭けて今日こそ悶絶させる。笑わさずして東京へ帰すわけにはいかない。そのくらいの意気込みだ。
「たっくぅぅぅん。覚悟してねーーー」
両手の指をわきわき動かしながら美詠は迫る。
見下ろす顔に陰がかかって、なおさら不気味である。
そのあまりの迫力に拓斗の顔は引きつった。余裕が消し飛んだ。
十本の指は荒ぶるエビの脚のような動きを見せている。ものすごい存在感だ。
「いくよー」「くっ」
指が腋の下にすべりこんだ。シャツを引っかきまわす。
「おあっ」
拓斗の肘から先はびくりと震えた。あごも上がった。
指は見たまんまの威力を発揮している。
腋の下をこれでもかというくらい、やたらめったら動き回る。
「くおおっ」
シャツの下で筋肉がゆるんだ。刺激を緩和すべく本能が彼に力を抜かせたのだ。
だが長くは持たない。耐えられない。筋肉を張る力が戻ってしまい、腹が笑う。
「あれ。笑わないね?」
「んなっ! 笑っ……てる」
「そう?」
腋の下だけでは効果がそれほどでもないと見て美詠は手を移動させた。
鎖骨から首にかけてを指が這いずるルート。これも強烈。
「うっ」
拓斗の首の筋が一斉に浮いた。誰が見ても分かるほど歯を食いしばっている。
だが、げらげらと笑う姿を想像していた美詠にとっては拍子抜けである。
残り5秒。
手は少しためらってから胸をくすぐった。
しかしあまり効果がない。腋や首元のほうが効いていた。
「おわりー」
それでも一定の成果はあった。昨日の足に比べればずいぶんマシである。
美詠は満足して引きあげる。
「くそう……」悔しそうな声を出して拓斗も起き上がった。
すぐには力が戻らない。30秒は長いのだ。
「また違うゲームする?」
「するっ」
「じゃあ1から4の中から選んでくださーい」
「1だ!」
「はーい」
今度のゲームは神経衰弱。
練習一回で済むくらいルールは単純だ。カードの枚数も多くない。
ところが、である。カードを一度めくってまた伏せた場合、なんとカラスがそれをくわえて別のカードと位置を入れ替えてしまう。目で追える動きではあるが、やっかいなことこの上ない。
して、その勝敗は、
「負けた」
拓斗の負け。可愛らしくも憎たらしいガッツポーズをまたもや見る。
今度も胸がぞわぞわするほどの気恥ずかしさと悔しさを感じた彼は、言われる前に自分から畳に転がった。
「来るなら、来い。好きにしろ」
「ふふふ。強気なたっくんも好きだけど覚悟してね」
先ほどと同じように美詠はまたがる。
狙いどころは脇腹だ。
「いきまーす。30秒」
言った直後に襲いかかる。
コンマ一秒でも惜しいのだ。
「おはっ」
びくっと震える胸と肩。
だが彼の反応はそれまでである。美詠の期待には程遠い。
「たっくん、ここもあんまり?」
「お、おふっ……くすぐったい。くすぐったい」
「ほんとにぃ?」
「ほんと、ほんとだって」
せわしなく動く指が脇腹にずっと留まっているのだ。
拓斗は畳を手でバンバン叩きたいくらいには効いている。
しかし美詠は不満だった。
くすぐったいだなんて口で言っているうちはまだ余裕があるはずと、彼女はさらなる弱点を探した。そして目をつけたのは、
(お・へ・そ・!)
指はただちに発進した。
左右の脇腹を一気に駆けあがり、腹の上ですれ違う。
両手ともUターンで戻ってヘソの周りで合流。そのままぐるぐる回りだす。
「まっ、はははは。それ」
「あ、笑った」
「ずっと、笑ってる、って」
待ち望んでいた反応に指はすっかり嬉しくなった。勢いづいた。
ヘソの周りでダンス、ダンス、ダンス。軽やかなステップ。羊のダンス。
「うわーはははは」
「やったあ。笑ってるー」
「ははっ、まだかっ。はははは。いつまでだはは」
「うふふ。変な笑い。もうちょっとだよー」
せっかくだからと手は再び脇腹へ落ちて、そこからさらに腋の下へも進んだ。
笑いのゆるんだ拓斗は、もうどこをくすぐられても同じ調子で笑っている。
「おしまーい」
大満足の30秒。美詠の顔は最高に晴れやかである。
一方の拓斗の顔は、
「くっそー……」
荒れ野である。
手足はぐったり倒れている。
美詠は達成感のあと、また一つ嬉しくなった。
彼のこんな姿を見た人は自分が初めてだと直感したのだ。
しかし、少し落ち着くとあとが怖くもなってきた。
拓斗はまだ動かない。何を考えているのか静けさが不気味だ。
美詠は彼の上でそーっと四つん這いになり、あえて体を寄せた。
フォローのつもりである。
「ねえねえ。ちょっと怒った?」
「怒らないよ。全然怒らないよ。でも覚えてろよー」
「ああん。怖い」
「起きるぞ。次は3番だ」
「うん。分かった」
3番はアクションゲームだ。残念ながら一人用である。
確かめてみれば2番のほうも一人用。
選択肢はもうなかった。二人で遊べるゲームは4番だけ。
「魚釣りか」
「魚釣りだね」
「ルールは簡単だな。これで最後の勝負だ」
「うん。いくね」
「おう」
釣りゲージの中で素早く動く矢印を成功のマスで止めて釣る。
釣れる魚の価値はバラバラだが、要はたくさん釣れば勝ちやすいのである。
決着は簡単についた。
「負けちゃったあ」
「ふははは。地獄を見せてやる」
何かのスイッチが入ったかのような底意地の悪い目。ヘビのような目。
それがぎろりと動いて、裸の体を舐めまわすように見る。
「怖いよう」
見られたほうはたじたじだ。華奢な体が尻込んで怯えている。
拓斗はそんなことお構いなしに座布団を二枚並べて言う。
「この上に寝て」
「はあい……」
美詠はお尻を座布団につけた。
後ろを見ながら片肘をつく。
「みよみちゃん、待った」
テーブルの上のタオルが取られた。
鏡の前で手首を縛っていた手ぬぐいだ。
「目つぶって」
「あう」
美詠は何が何だか分からないうちにそれを巻きつけられた。目隠しである。
「みよみちゃん。そのまま30秒くすぐられるのと、賭けのどっちがいい?」
「賭けってなに?」
「15秒くすぐって手も足も動かさなかったら、そこで終わりにしてあげるよ。でもどっちかでも動かしたら45秒やる」
「んー……じゃあ15秒のほう……」
美詠は15秒くらいなら頑張れそうな気がした。
だがそれを聞いた拓斗は牙を見せるかのように大きく口を歪めてにやりと笑った。
自分が受けてみて、こらえられっこないと分かっているのである。
「OK。じゃあ寝て。大の字になって」
「え。足も開くの?」
「そうだよ」
無駄な抵抗を諦めて美詠は座布団で仰向けになった。
畳の上にはみ出た手足を広げると、恥ずかしさと共に不安が大きく膨らんだ。
何も見えない不安。体のどこに何をされるか分からない不安。
なのに裸でいることがとにかく心細い。
心臓はバクバク鳴っている。
外の情報を掴もうと、耳と全身の肌が神経を尖らせている。
そのとき「まさに刑だな」と上から声がかけられた。
美詠はぶるりと震えた。
「いくぞ」
目隠しをされたことは彼女にとってある意味で良かったかもしれない。
拓斗の指は形容しがたい動きを見せている。
魔界に咲く食虫植物の触手とでも言おうか。人間の限界を極めた動きである。
それが腋の下に滑りこんだ。
腋から胸の横まで指が四本。例によってのフェザータッチ。ただし動きが魔物。
親指だけは乳首に張りついた。くりくりとこねまわす。
「ひゃあああっ」
美詠の肘は一瞬で曲がった。大の字が崩れた。
事前の覚悟を簡単に打ち抜くほどの刺激。
そもそも彼女は受けが強いわけでは決してないのだ。むしろ敏感である。
「残念。45秒コースだね」
「いやぁん。あはははっ。あん」
「ほらほら。手は真っすぐだろ」
「あはははは。やん。あああっ」
畳をつかもうとして美詠の指がピクピク動いている。
言いつけに従って必死に腕を伸ばそうとしているかのようでもある。
それを見て「ふふふふ」と楽しむ笑い声が拓斗から漏れた。
彼女が自分に従順だろうと、どうであろうと、動きをゆるめる気など彼には初めからないのだ。むしろ苦しむ姿が見たいとばかりに声をかけつつ、容赦なく指を動かしている。
たっぷり10秒なぶった後で、拓斗の指は脇腹へ移動をはじめた。
左右でうねうね動きながら移動する。
それも真っすぐに脇腹を目指すのではなく、不規則な円を描きつつの移動だ。
親指も少し離れた位置で追従して肋骨の間をうごめいた。
「はう、はうっ。あは。あははははは」
複雑な動きをしていても移動は速い。
円を描いているのに3秒で脇腹へ到達した手は、そんじょそこらをこねくりまわす。
「あははははっ。ひゃん。あはっ。やあああん」
美詠の腕はかろうじて開かれている程度に位置を下げた。
腕を広げるどころか座布団から体が転げ落ちないようにするだけで精一杯なのだ。
脚を開きながらのたうつ下腹部が彼の目にどう映っているかなど、頭をかすめる余裕すらない。
「そらそら。こっちはどうだ」
拓斗は両手で鼠蹊部のラインをくすぐり下りた。
だが効果が薄いとすぐに判断して、片手を脇腹へ戻す。
もう片方の手は開かれた脚の間へ。恥肉をまさぐり、割れ目をもみくちゃにする。
「はううううっ。あはううっ」
美詠はとうとう膝も曲げた。
真っすぐを保っていた脚は左右ともに内側へ折れた。
股を閉じようとするのを、そこでどうにかこらえている格好だ。
「ヘソはどうなんだ」
脇腹から手がおなかに移った。
仕返しとばかりに自身が受けたのと同じコースを片手でぐるぐる回る。
もう一方の手はずっと秘所をまさぐり続けている。肉芽の隠れるエリアを重点的にくすぐっている。
「はううううん。ううううん。ああああ」
美詠の全身が悶えた。
腕も脚も閉じたそうに曲がっている。
筋肉がゆるんで、みぞおちから下腹部までがひくひく動いている。
「はははっ」
意地の悪い笑い声とともに拓斗は手をまた移動した。今度は胸。
秘所をまさぐっていた手も応援につけた両手攻め。
狙いは上を向いた乳首。右の乳首も左の乳首も逃さない。
五本の指を筆先のようにすぼめて、うぞうぞとこねくりまわす。
「ふううん。あふっ。あああん。あはっ」
美詠の背は反って胸が少し浮いた。肩がくねくね動いた。
目隠しの下の口はもう大きく開いて、歯も舌も見えてしまっている。
そんな痴態を見下ろす顔はにやけっぱなしだ。
「仕上げだ」
拓斗の手は跳躍した。ぱっと腋の下へ入った。
親指だけは乳首の上。最初の形である。
しかし器用なことに、彼は秘所にも片膝を当てた。
腋の下をまさぐり、乳首をこねまわし、膝で秘所を揺さぶる。
「あああああ。あはははははは。あっあっあっ、ああーーー。あははは」
いじめられ続ける神経には地獄の時間。
くすぐったいやら、なにやら、苦しいやらが見て取れるほどの身悶えだ。
10秒が経ってようやく解放される。
「よし。おわり」
「あはっ。あはっ。あは……はあはあ……はあ……はあ……」
荒い呼吸をいくらか整えて美詠は体を横へ向けた。
すると目隠しが取りさられた。
暗闇の中で惑い続けた目に、明るい穏やかな部屋が戻ってきた。
改稿の前と後でシーン設定にズレがあります。
――――――――――――
二人は部屋に戻ってまたジョイキャッチをいじっていた。
拓斗のほうがとりわけ興味津々なのである。
美詠の脇から画面を覗きこんで離れない。
「いいな。なんかいっぱいゲーム入ってるな」
「ミニゲームが10個入ってるパックだよ。これやるとコインが貯まるの」
「どれが面白かった?」
「んー……全部やってないから。やったの半分だけ」
「じゃあさ。やったことないゲームで勝負しない?」
「いいよー。また負けたら罰ゲーム?」
「そうそう」
拓斗は楽しそうにうなずいている。
美詠は聞いていいのかどうか少し迷ってから、遠慮がちに口を開いた。
「私が勝ったら?」
「ん。罰ゲームだよ。みよみちゃんが俺に何か罰ゲーム」
「え、いいの?」
「いいよ。なんで?」
「たっくんなら俺にはしちゃダメとか言うかと思った」
「ああ」
拓斗は笑ってチッチッチッと舌を鳴らしながら指を振る。
「さっきとは違うじゃん。勝負は公平だから面白いんだよ」
「うんうん。そうだねっ」
「お。さてはみよみちゃん、俺に何かしたいことがあるだろ」
美詠はにんまりした顔で「あるよっ」と元気に答える。
「ほー。罰ゲームなにする?」
「くすぐりコチョコチョ30秒の刑!」
「お、いいね。でも30秒は長くない?」
「えー、じゃあ30秒」
拓斗は笑って言う。
「変わってないじゃん。どんだけくすぐりたいんだよ。俺が勝ったらみよみちゃんがコチョコチョされるんだぞ」
「うん。いいよ」
赤ちゃん娘はスタコラサッサ。やる気のみなぎる顔である。
美詠は昨日の雪辱を晴らしたいのだ。
自慢のくすぐり攻撃をかけたにも関わらず平然としていた拓斗を今日こそ笑わせてやりたいのだ。
「たっくん。どのゲームやりたい?」
「どれでもいいよ」
「じゃあ1から5の中で好きな数字言って」
「5かな。通知表で5があると嬉しいね」
「どういうこと?」
首をかしげながら画面を操作する。
通知表は拓斗の小学校では1から5の五段階評価、美詠の小学校では△○◎の三段階評価なのだ。お互いに違うことを知って、「へー」「ふーん」と興味の薄い返事が交わされる。
「5ならこれだよ。二人でできそう」
「なんだこれ」
ゲームのタイトル画面を覗いて拓斗は笑った。
大きなサルが小さなサルたちを追い払っている。みんな変な顔で可愛げがない。
「王様のサルと泥棒のサルどっちか選ぶんだって。たっくん、どっちやる?」
「王様」
「だと思った」
美詠は笑いながら膝で立った。
その下腹部に拓斗の目がいく。ついつい見てしまうのだ。
しかし、それはそれ、これはこれ。彼は言う。
「みよみちゃん。さっきのは終わったから立たなくていいよ。座って勝負しようぜ」
「いいの? 見えなくしちゃっていいの?」
「いいよ。今も恥ずかしい?」
「ずっと恥ずかしいよ」
「そうかー」
座った美詠は一生懸命そこを隠そうとして脚と腰を動かしている。
そんな姿に拓斗の口元はゆるんでしまう。
「一回目はお試しね」
「うん」
二人はまずやってみた。
果樹園のバナナをめぐる攻防ゲームである。ルールも操作も単純。
四匹の泥棒サルが盗もうとするのを王様サルがアイテム使って阻止する内容だ。
しかし上手くプレイするのは難しい。プレイヤーはバラバラの位置にいる泥棒四匹の動きをすべて把握し続けなければならないのだ。
「じゃあ本番勝負いくね。いい?」
「おう」
練習はほぼなし。しかしゲームが始まると二人の動きには明らかな差が見えた。
王様を操る拓斗の対応は遅れ気味。それに対して美詠は四匹に次々と指示を出して素早い攻撃ができている。勝負の結果は順当だった。
「うわー。負けた」
「ふ、ふ、ふ。やったあ!」
頭を抱える拓斗の横で美詠はガッツポーズを決めた。
一つのゲームで負けたからといって全部がダメとは限らない。
得意と不得意はみんなそれぞれ違う。
「罰ゲームか。どうすればいい?」
「じゃあそこに寝てくださーい」
「分かった」
拓斗は畳にごろりと寝転んで上を向く。
罰ゲームが何でもないことのように顔は平然としている。
「たっくん。座布団は? 背中にいらないの?」
「いらない。さあ、来い」
「ふふ。じゃあ……」
美詠は彼にまたがった。
くすぐりチャンピオンの自負に賭けて今日こそ悶絶させる。笑わさずして東京へ帰すわけにはいかない。そのくらいの意気込みだ。
「たっくぅぅぅん。覚悟してねーーー」
両手の指をわきわき動かしながら美詠は迫る。
見下ろす顔に陰がかかって、なおさら不気味である。
そのあまりの迫力に拓斗の顔は引きつった。余裕が消し飛んだ。
十本の指は荒ぶるエビの脚のような動きを見せている。ものすごい存在感だ。
「いくよー」「くっ」
指が腋の下にすべりこんだ。シャツを引っかきまわす。
「おあっ」
拓斗の肘から先はびくりと震えた。あごも上がった。
指は見たまんまの威力を発揮している。
腋の下をこれでもかというくらい、やたらめったら動き回る。
「くおおっ」
シャツの下で筋肉がゆるんだ。刺激を緩和すべく本能が彼に力を抜かせたのだ。
だが長くは持たない。耐えられない。筋肉を張る力が戻ってしまい、腹が笑う。
「あれ。笑わないね?」
「んなっ! 笑っ……てる」
「そう?」
腋の下だけでは効果がそれほどでもないと見て美詠は手を移動させた。
鎖骨から首にかけてを指が這いずるルート。これも強烈。
「うっ」
拓斗の首の筋が一斉に浮いた。誰が見ても分かるほど歯を食いしばっている。
だが、げらげらと笑う姿を想像していた美詠にとっては拍子抜けである。
残り5秒。
手は少しためらってから胸をくすぐった。
しかしあまり効果がない。腋や首元のほうが効いていた。
「おわりー」
それでも一定の成果はあった。昨日の足に比べればずいぶんマシである。
美詠は満足して引きあげる。
「くそう……」悔しそうな声を出して拓斗も起き上がった。
すぐには力が戻らない。30秒は長いのだ。
「また違うゲームする?」
「するっ」
「じゃあ1から4の中から選んでくださーい」
「1だ!」
「はーい」
今度のゲームは神経衰弱。
練習一回で済むくらいルールは単純だ。カードの枚数も多くない。
ところが、である。カードを一度めくってまた伏せた場合、なんとカラスがそれをくわえて別のカードと位置を入れ替えてしまう。目で追える動きではあるが、やっかいなことこの上ない。
して、その勝敗は、
「負けた」
拓斗の負け。可愛らしくも憎たらしいガッツポーズをまたもや見る。
今度も胸がぞわぞわするほどの気恥ずかしさと悔しさを感じた彼は、言われる前に自分から畳に転がった。
「来るなら、来い。好きにしろ」
「ふふふ。強気なたっくんも好きだけど覚悟してね」
先ほどと同じように美詠はまたがる。
狙いどころは脇腹だ。
「いきまーす。30秒」
言った直後に襲いかかる。
コンマ一秒でも惜しいのだ。
「おはっ」
びくっと震える胸と肩。
だが彼の反応はそれまでである。美詠の期待には程遠い。
「たっくん、ここもあんまり?」
「お、おふっ……くすぐったい。くすぐったい」
「ほんとにぃ?」
「ほんと、ほんとだって」
せわしなく動く指が脇腹にずっと留まっているのだ。
拓斗は畳を手でバンバン叩きたいくらいには効いている。
しかし美詠は不満だった。
くすぐったいだなんて口で言っているうちはまだ余裕があるはずと、彼女はさらなる弱点を探した。そして目をつけたのは、
(お・へ・そ・!)
指はただちに発進した。
左右の脇腹を一気に駆けあがり、腹の上ですれ違う。
両手ともUターンで戻ってヘソの周りで合流。そのままぐるぐる回りだす。
「まっ、はははは。それ」
「あ、笑った」
「ずっと、笑ってる、って」
待ち望んでいた反応に指はすっかり嬉しくなった。勢いづいた。
ヘソの周りでダンス、ダンス、ダンス。軽やかなステップ。羊のダンス。
「うわーはははは」
「やったあ。笑ってるー」
「ははっ、まだかっ。はははは。いつまでだはは」
「うふふ。変な笑い。もうちょっとだよー」
せっかくだからと手は再び脇腹へ落ちて、そこからさらに腋の下へも進んだ。
笑いのゆるんだ拓斗は、もうどこをくすぐられても同じ調子で笑っている。
「おしまーい」
大満足の30秒。美詠の顔は最高に晴れやかである。
一方の拓斗の顔は、
「くっそー……」
荒れ野である。
手足はぐったり倒れている。
美詠は達成感のあと、また一つ嬉しくなった。
彼のこんな姿を見た人は自分が初めてだと直感したのだ。
しかし、少し落ち着くとあとが怖くもなってきた。
拓斗はまだ動かない。何を考えているのか静けさが不気味だ。
美詠は彼の上でそーっと四つん這いになり、あえて体を寄せた。
フォローのつもりである。
「ねえねえ。ちょっと怒った?」
「怒らないよ。全然怒らないよ。でも覚えてろよー」
「ああん。怖い」
「起きるぞ。次は3番だ」
「うん。分かった」
3番はアクションゲームだ。残念ながら一人用である。
確かめてみれば2番のほうも一人用。
選択肢はもうなかった。二人で遊べるゲームは4番だけ。
「魚釣りか」
「魚釣りだね」
「ルールは簡単だな。これで最後の勝負だ」
「うん。いくね」
「おう」
釣りゲージの中で素早く動く矢印を成功のマスで止めて釣る。
釣れる魚の価値はバラバラだが、要はたくさん釣れば勝ちやすいのである。
決着は簡単についた。
「負けちゃったあ」
「ふははは。地獄を見せてやる」
何かのスイッチが入ったかのような底意地の悪い目。ヘビのような目。
それがぎろりと動いて、裸の体を舐めまわすように見る。
「怖いよう」
見られたほうはたじたじだ。華奢な体が尻込んで怯えている。
拓斗はそんなことお構いなしに座布団を二枚並べて言う。
「この上に寝て」
「はあい……」
美詠はお尻を座布団につけた。
後ろを見ながら片肘をつく。
「みよみちゃん、待った」
テーブルの上のタオルが取られた。
鏡の前で手首を縛っていた手ぬぐいだ。
「目つぶって」
「あう」
美詠は何が何だか分からないうちにそれを巻きつけられた。目隠しである。
「みよみちゃん。そのまま30秒くすぐられるのと、賭けのどっちがいい?」
「賭けってなに?」
「15秒くすぐって手も足も動かさなかったら、そこで終わりにしてあげるよ。でもどっちかでも動かしたら45秒やる」
「んー……じゃあ15秒のほう……」
美詠は15秒くらいなら頑張れそうな気がした。
だがそれを聞いた拓斗は牙を見せるかのように大きく口を歪めてにやりと笑った。
自分が受けてみて、こらえられっこないと分かっているのである。
「OK。じゃあ寝て。大の字になって」
「え。足も開くの?」
「そうだよ」
無駄な抵抗を諦めて美詠は座布団で仰向けになった。
畳の上にはみ出た手足を広げると、恥ずかしさと共に不安が大きく膨らんだ。
何も見えない不安。体のどこに何をされるか分からない不安。
なのに裸でいることがとにかく心細い。
心臓はバクバク鳴っている。
外の情報を掴もうと、耳と全身の肌が神経を尖らせている。
そのとき「まさに刑だな」と上から声がかけられた。
美詠はぶるりと震えた。
「いくぞ」
目隠しをされたことは彼女にとってある意味で良かったかもしれない。
拓斗の指は形容しがたい動きを見せている。
魔界に咲く食虫植物の触手とでも言おうか。人間の限界を極めた動きである。
それが腋の下に滑りこんだ。
腋から胸の横まで指が四本。例によってのフェザータッチ。ただし動きが魔物。
親指だけは乳首に張りついた。くりくりとこねまわす。
「ひゃあああっ」
美詠の肘は一瞬で曲がった。大の字が崩れた。
事前の覚悟を簡単に打ち抜くほどの刺激。
そもそも彼女は受けが強いわけでは決してないのだ。むしろ敏感である。
「残念。45秒コースだね」
「いやぁん。あはははっ。あん」
「ほらほら。手は真っすぐだろ」
「あはははは。やん。あああっ」
畳をつかもうとして美詠の指がピクピク動いている。
言いつけに従って必死に腕を伸ばそうとしているかのようでもある。
それを見て「ふふふふ」と楽しむ笑い声が拓斗から漏れた。
彼女が自分に従順だろうと、どうであろうと、動きをゆるめる気など彼には初めからないのだ。むしろ苦しむ姿が見たいとばかりに声をかけつつ、容赦なく指を動かしている。
たっぷり10秒なぶった後で、拓斗の指は脇腹へ移動をはじめた。
左右でうねうね動きながら移動する。
それも真っすぐに脇腹を目指すのではなく、不規則な円を描きつつの移動だ。
親指も少し離れた位置で追従して肋骨の間をうごめいた。
「はう、はうっ。あは。あははははは」
複雑な動きをしていても移動は速い。
円を描いているのに3秒で脇腹へ到達した手は、そんじょそこらをこねくりまわす。
「あははははっ。ひゃん。あはっ。やあああん」
美詠の腕はかろうじて開かれている程度に位置を下げた。
腕を広げるどころか座布団から体が転げ落ちないようにするだけで精一杯なのだ。
脚を開きながらのたうつ下腹部が彼の目にどう映っているかなど、頭をかすめる余裕すらない。
「そらそら。こっちはどうだ」
拓斗は両手で鼠蹊部のラインをくすぐり下りた。
だが効果が薄いとすぐに判断して、片手を脇腹へ戻す。
もう片方の手は開かれた脚の間へ。恥肉をまさぐり、割れ目をもみくちゃにする。
「はううううっ。あはううっ」
美詠はとうとう膝も曲げた。
真っすぐを保っていた脚は左右ともに内側へ折れた。
股を閉じようとするのを、そこでどうにかこらえている格好だ。
「ヘソはどうなんだ」
脇腹から手がおなかに移った。
仕返しとばかりに自身が受けたのと同じコースを片手でぐるぐる回る。
もう一方の手はずっと秘所をまさぐり続けている。肉芽の隠れるエリアを重点的にくすぐっている。
「はううううん。ううううん。ああああ」
美詠の全身が悶えた。
腕も脚も閉じたそうに曲がっている。
筋肉がゆるんで、みぞおちから下腹部までがひくひく動いている。
「はははっ」
意地の悪い笑い声とともに拓斗は手をまた移動した。今度は胸。
秘所をまさぐっていた手も応援につけた両手攻め。
狙いは上を向いた乳首。右の乳首も左の乳首も逃さない。
五本の指を筆先のようにすぼめて、うぞうぞとこねくりまわす。
「ふううん。あふっ。あああん。あはっ」
美詠の背は反って胸が少し浮いた。肩がくねくね動いた。
目隠しの下の口はもう大きく開いて、歯も舌も見えてしまっている。
そんな痴態を見下ろす顔はにやけっぱなしだ。
「仕上げだ」
拓斗の手は跳躍した。ぱっと腋の下へ入った。
親指だけは乳首の上。最初の形である。
しかし器用なことに、彼は秘所にも片膝を当てた。
腋の下をまさぐり、乳首をこねまわし、膝で秘所を揺さぶる。
「あああああ。あはははははは。あっあっあっ、ああーーー。あははは」
いじめられ続ける神経には地獄の時間。
くすぐったいやら、なにやら、苦しいやらが見て取れるほどの身悶えだ。
10秒が経ってようやく解放される。
「よし。おわり」
「あはっ。あはっ。あは……はあはあ……はあ……はあ……」
荒い呼吸をいくらか整えて美詠は体を横へ向けた。
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