二人の火照り遊び

山之辺アキラ

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1章

18.出来心の代償 ◆

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 二人の力量はもうあまり変わらない。
 ただ動き方には少し違いがあって、拓斗は盛り付けの成功判定を狙い、美詠は成功判定の中にある大成功の判定を狙った。
 拓斗のほうがラフに動くぶん、美詠よりもわずかに仕上がりが早くなった。こなした注文の数が最終的には客ひとり分の差になった。

 ゲーム結果は49対51で美詠の負け。
 二人はテーブルにコントローラーを置いた。
 盛り付けの大成功の回数は美詠のほうがずっと多かったが、もらえるスコアは成功と変わらないようだ。

「みよみちゃんに聞きたいことがあるんだけどさ」

「うん」

 体を少しずらした拓斗に、美詠も膝立ちのまま体の向きをなおして返事した。
 隠しちゃダメという言いつけが頭に残っている。だから熱っぽいところが上も下も彼の視界におさまるよう動いたが、自分からまっすぐに向かい合うところまでいくのは恥ずかしくて、体の向きを斜めで止めた。勝負前にたくさんの視線と言葉で愛を注がれた裸の身体には、発散できない熱がくすぶり続けている。

 しかしいま、裸の体は見向きもされなかった。美詠は拓斗から瞳を覗きこむような感じで目を合わされた。手に汗を握る接戦を制したはずの彼の顔に喜びがない。

 不穏な気配だった。心臓が灰色の曇り空のように重くなった。そこへ投げかけられたのは、美詠の心に引っかかっていた後ろめたさを掘り起こす問いだった。

「今じゃなくて一つ前のゲームなんだけどさ。桃のムースだっけ、みよみちゃんがそれをクマに渡しちゃって最後ボーナス取れなかったじゃん。あれってミスだった?」

 頭に考えが浮かぶ前に美詠は顔を横に振った。
「んーん……」と、少し遅れて口が動いた。

「ミスじゃない……」
「やっぱりそうか。ボーナスのこと勘違いしてたもんな」
「うん」
「まあ、みよみちゃんも――」
「ごめんなさい!」

 言葉をさえぎって美詠は声を張り上げた。目頭と目尻があっという間に熱くなっていた。

「悪いことだって思ったんだけど、それでもやっちゃったの。許して」

 拓斗が何かを言いかけている。しかし激流のように流れだした感情は止まらなかった。

「たっくんに追いつきたかったの。置いていかれたくなかったの。弱くてつまんないって思われたくなかったの。私とゲームしてもつまんないって思われるのやだぁ。頑張ってたけど、でも、たっくん、どんどん行っちゃうからぁ~」

 美詠はへたり込んで涙を流した。
 合わせていた目線が途切れた。

 拓斗の前に幼子のような泣き姿があった。
 半開きの唇も、鼻も、ほっぺたも、みんな一緒になってゆがんでいる。
 泣き顔をのせて力なく座った体は純心な肌をさらしていて、胸のつぼみも女の子の割れ目もいつになく弱々しく拓斗の目に映った。

「みよみちゃん」
「ごめんなさいー」
「いや、だから――」
「嫌いにならないでぇ」

 感情で目いっぱいふくらんだ心は、かけられた言葉をはじいてしまった。

 へたり込んだ裸の体を拓斗は抱いた。肩からも背からも、なんの力も感じられない体だ。
 唇は苦しげに開いている。彼はそこをやめて、胸の真ん中に唇を当てて肌を吸った。

 美詠からは何の反応もなかったが、そのまま続けた。唇をゆっくり下へずらしてみぞおちまで下がった。これ以上は体勢的につらく、口を離して言った。

「座布団で仰向けになって」

 自分の座布団から下りて、これも使っていいよと手で示す。
 二枚の座布団に美詠が肩からお尻までのせて仰向けになったのを見て、その身体にまたがり、ふたたび胸に唇をつけた。優しく肌を吸った。

 トクントクンと悲しげに鳴る心音が唇から上がってくる。

 熱い血のかよう唇が暴れる気持ちを吸い上げていく。
 眠たい頭を抱擁されたときのように美詠は顔を落ち着けた。

 拓斗は唇の位置を胸からずらす。身体の中央を少しずつ下ってゆく。
 胸のつぼみの間を抜け、みぞおちを通り過ぎ、おへそを越えて、下腹部へ。
 そこで止めた。その位置は美詠に子宮を吸われるような気分を与えた。

 美詠は腰を両手でおさえられた。子宮を吸う唇が肌に密着している。十秒……二十秒……時間はあっという間に過ぎた。すべてを奪われるような気分にさせられるまで長い時間、口づけされ続けた。

「みよみちゃん、聞いてくれる?」

 口づけを落としていた頭が起きた。

「うん……」

「みよみちゃんがやったことって別に悪いとは思わなかったよ。ボーナスのことはみよみちゃんの勘違いだったから意味なかったけど、俺に最後売らせなかったのは良いやり方じゃん。勝負なんだから」

「でも私は悪いことしたって思うの」
「なんで?」
「たっくんをだましたみたいだから……」

「だましてないよ? ミスったのかって俺思って言ったけど、みよみちゃんあのとき“ごめん”って言っただけじゃん」

「でもずるいことしたんだよ……」
「ずるいのは俺もあるし、みよみちゃん正直だから許しちゃうなー」

「怒ってない?」
「怒ってないよ」

「嫌いになってない?」
「ぜんぜんなってない」

「そっか……」

 美詠は小さなため息をついた。
 しかし浮かない顔はそのままだ。

「まだ気になってんの」
「うん」
「全部忘れてあげんのに」
「うん、嬉しい……」

 そう言った顔はしょげている。
 仰向けの身体にも元気がなく、まるで罪滅ぼしをするかのように、すべてをさらし続けている。

 すると拓斗の顔のほうに変化が生じた。
 目つきと口に妖しい鋭さが宿った。

「ま、タダじゃ全部忘れてあげないけどな」
「え?」
「みよみちゃんが、ちゃんとお仕置きを受けるんなら、だね」
「お仕置き……」

「そうそう。悪いことしたって思ってんなら、お仕置きで罰受けようか。受けるんなら今回の罰ゲームもそれでなしにしてあげるよ」

「何するの?」

「みよみちゃんが頑張って耐えなきゃいけないことだよ。俺にちょっとでも悪いことしたら、みよみちゃんはエッチで恥ずかしい罰をたっぷり受けるんだって昨日、俺言ったよね」

 そんな感じのこと言われた気がすると美詠は思った。

 口の端を吊り上げた顔が肌をじりじり焦がすような視線を送りつけている。
 罰の内容がわからずにたじろぐ身体の上をその視線が走った。それは美詠の胸の二つのつぼみを一直線になぞった後、顔に戻って、そこから下腹部へ駆け下りた。
 仰向けの裸に十字架を描かれたように美詠は感じた。恥辱的な罰を与えられることは返事をする前にもう決定付けられているように感じた。
 美詠は誓約書にサインした。

「お仕置き受けます」
「よし。じゃあ向こうで四つん這いになって」

 美詠に罰を与える手が部屋の中央を指している。広間の真ん中が刑場というわけだ。
 美詠は座布団から起き上がり、指示の場所まで移動して畳に膝と手をついた。

「……こう?」

 すると平べったい手のひらがお尻に触れた。
 なでる手つきではない。指先までまっすぐに伸びた平手だ。

 叩かれる、と美詠は感じた。けれども罰なのだから当然だった。お尻叩きという罰が世の中にあることを美詠は知っていても、今までそれを見たことはなかったし、誰かにされたこともなかった。それを今から彼の手で受けるのだ。裸にされたお尻を彼に向けて、すべてをさらしながら。

「畳に肘をついて、もっとお尻を持ち上げて」

 もっとみじめにさらせという指示がきた。

「はい」

 美詠は従う。
 畳に肘をつけてのお尻上げをやってみると、より恥辱的な感覚に襲われた。

 しかし拓斗はまだまだダメだという口調で「体が硬いよ」と言い放った。
 美詠はお尻や太ももに触れるシャツを感じた。すると両脇からもぐりこんだ手が胸を這いずって、探り当てたつぼみを二つくすぐった。

「ひゃあああ」

 美詠は逃げるように体を低くする。しかし逃げられない。胸の突起をはじく指が離れない。

「みよみちゃん。もっと恥ずかしい目にあう覚悟をちゃんとして。俺にすべてを差し出して」
「はいいい」

 手が離れた。かわって美詠は肩を押さえつけられた。

「ほら、頭を下げて。もっと低く」
「は、はい」

 そのまま組み伏せられた。頭と肩が畳にくっつくほど近づいた。
 刑罰の執行者になりきっている拓斗の手ぶり口ぶりに、美詠は自分が受刑者になったことをはっきり意識した。“ごっこ遊び”とも言えた。

「つぎ、お尻。お尻を思いっきり高くして」
「はい」

 お尻が両手でわしづかみにされた。美詠はそれをぐぐっと上に持ちあげる。

「もっと高く」
「はい」

 鷲掴みの手で吊り上げられるような格好で、美詠はお尻を突き上げた。お尻は天井へ向けて高く掲げられ、背中は大きく反った。

「脚を広げて」

 お尻をつかまれたまま次の指示だ。耳がかーっと熱くなった。耳の先まで紅潮した。

 美詠は膝をずらして脚をひらく。お尻は少し下がったように感じたが、つかむ手もついてくる。お尻を上げる角度は維持しろという強いメッセージが、手から発せられている。

「もっと広げて。脚の間から俺におっぱいを見せるつもりで広げて」

 お尻をつかんでいた手が片方離れ、調教師のムチように太ももを内側からペチペチ叩いた。
 美詠はめまいが起きそうなほど顔が熱くなりながら従った。

「膝はもうちょっと前。お尻が下がったから」
「はい」

 脚を大きく開いたまま膝を前にずらして背を反らす。お尻の上がる角度がふたたびきつくなった。

「よし、いいよ」

 恥辱と屈辱の極みともいえるポーズが完成した。
 お尻は限界まで高く天井へ向けられ、背中は弓状どころか”く”の字に反っている。美詠の体の柔らかさがなせる業だ。畳にくっつきそうな胸の突起は拓斗の要望に応えたように畳から少し浮いている。顔は伏せたまま上げることができず、おでこを腕にこすりつけている。
 後ろからの見え方を拓斗は本人に教えてあげた。

「お尻の穴もおまんこも丸見えだよ。割れ目が少しひらいてるかな。けどこんな格好でもみよみちゃんのおまんこのナカは見えないんだなー。割れ目の中がちょっと光ってるのは見えるけど。太ももの間から、ちょっと見づらいけど、おっぱいも見えてるし。おっぱい、おまんこ、お尻が全部まとめてチェックできるのいいね。乳首も硬くなってんのわかるよ。少しふくらんでるもんな」

「あああああっ」

 美詠は悲鳴をあげた。しかし感情をのせた訴えは畳に吸われてくぐもった。どれだけ声をあげてもこれではストレートに伝わらない。たとえ心の涙をこめて気持ちを表明しても、彼の笑いを誘うだけだろう。

「みよみちゃんをこのままテーブルにのせてもいいな、置物みたいに。そのテーブルはガラスだから下から覗けるし」

「やあああ」

「俺がどこでしゃべってるかわかる?」

 熱い吐息が濡れた割れ目をとろりと覆った。

「ああんっ」

 美詠の狭い膣から熱い愛液のかたまりがこぽりと湧き出た。
 二枚の秘唇の谷底でそれは静かに広がって流れ、ひとりでに剥きあがった恥豆にからみついて止まった。

 美詠はこれを自覚したが顔はもう限界まで赤く染まっていて、これ以上は染まらない。
 行き場をなくした羞恥心が胸とお腹を喘がせた。うねった下腹部の奥で子宮が悶えた。子宮の悶えは輸卵管を通して伝わり、まだ活動のない卵巣をふたつとも刺激した。

「お仕置きはじめるよ」

 罰の執行の宣言が下った。
 逃げ場のない固いお尻に手のひらが当たった。

「はい」

 美詠は目と口を閉じた。じりじりする秘所をさらしながら覚悟を決めた。
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