がんばり屋の森本くん

しお子

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三がんばり目~色男に色仕掛け~

第25話 デート2

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森本はトイレに入ると一息ついて紙袋から洋服を取り出した。

思ったよりシンプルな作りかつ露出の少ない服だったので抵抗感なく着ることが出来た。
靴もヒールの低いサマーブーツでとても歩きやすそうだ。

ウィッグを着用するのは初めてで少し苦労したがなんとか形にはなった。
しかし鏡を何度見ても自分でしかない姿に心苦しくなる。

「うぅ…こんなんでいいのかなあ?…」

これ以上自分ではどうにも出来ず、菊地に確認してもらおうと森本はドアから小さく顔を出した。
それを見た菊地は無言でトイレへ入り込んできた。

「や、やっぱり無理ですよね!」

「…ブラウスの肩の位置はもっと後ろ、ウィッグもちょっとずれてる。」

いつになく真剣な表情で手直しされ森本はきょとんとしてしまう。

「…うん、思ったより良いよ。
 セミロングも似合ってるし、身長低いからミニスカートにして正解だ。」

「気にしてるのに…。」

「あとはメイクしたら完璧。」

「メイク!?」

「森本くん肌綺麗だし少しだけだから安心して。」

どこから出したのかすでにメイク道具を手にしている菊地に、森本はもう言いなりだった。

まだあどけなさが残る顔はまつげを上げて薄くアイラインを引くだけで充分中性的な顔立ちへ変化した。
仕上げに色つきのリップを塗れば女子だと言われても何人か騙せるくらいには完成度が高かった。

「うん…。すっごい可愛い。」

菊地は出来上がった森本を見て満足そうに額へキスをした。

「可愛いって…。」

「まさかここまで成功するとは思ってなかったよ。」

「ていうか、先輩が器用すぎ…。
 でも意外でした、もっと大人っぽい格好が好きなのかと。」

「あぁ、俺清楚ビッチみたいなタイプ好きなんだよねえ。
 セックスの時めちゃくちゃエロそうじゃん?」

「っ…。」

聞かなければ良かったと後悔する森本。

「最後に一つ大事なもの。
 これ、履いてくれる?」

そう言って菊地は女物の下着を差し出した。

「な!?」

「だってこんなに短いスカートに男物の下着なんて履いてたら、
 見えちゃうかもしれないよ?」

「で、でも…。」

こんなもの履くくらいなら男だとバレた方がマシかもしれない、そんなことをぐるぐる考えていたら菊地に追い討ちをかけられてしまう。

「お願い、俺にご褒美ちょうだい。
 森本くんならがんばれるよね?」

あまりにもストレートに頼まれると断りづらく、森本はうなずくしかなかった。

「はい…。」





「じゃあお昼食べに行こうか。」

菊地は至極上機嫌に歩いていたが、森本の方は歩き慣れない靴とそれ以上に風の通りが良すぎるスカートが気になってしまい歩くペースがいつもより遅くなっていた。

「おいで。」

「あ、ありがとうございます…。」

菊地が見かねて手を差し出すと森本は引っ付くように着いていった。

デート自体は自分が女装していることを除けば存外楽しいものだった。
面倒事を嫌う菊地のおかげでプランが一通り決められていて、店選びも迷うことはなく歩き疲れることもましてや長い時間待つこともなかったのだ。


「…先輩って彼女作らないんですか?」

「いきなりぶっこんでくるじゃん…。」

「だってすっごい気づかい出来るし、俺今日楽しいですよ!」

「…っ。
 俺が極度のめんどくさがりって知ってるでしょ。
 毎日連絡するのとか束縛されるのとかめんどくさいし、
 女の子って一日で気分変わったりするし…。
 つまり俺にはまともな恋愛向いてないの。」

素直に自分とのデートを楽しいと言われ照れるのを隠すように淡々と話した。

もちろん彼女が出来たことも性行為の経験もあったが、連絡の続かない菊地に大抵の女子は怒り去ってしまうのだ。
セフレを作ったこともあったがだんだん病んでいく姿に特定の相手を作ることをやめたのだった。

「そういうもんなんですか…。」

「森本くんは、恋愛とか無縁そうだよね。」

「どういう意味ですか!」

「あははっ!」

歩きながらそんな話をしていると次の目的地へ到着したようだ。

「じゃ森本くん、休憩しよっか。」

「き、菊地先輩…?
 ここってもしかして…。」

「ラブホテル。」

「なに考えて…!」

「え?いたって真面目だけど。
 今日は一日付き合ってくれるんだよね?」

「っ!でも、入ったら…。」

絶対ただ休むだけなわけないとさすがに森本もわかっていた。

「ランチ、おいしそうに食べてたよね。
 映画も森本くんの好きなタイトルだったっけ。
 さっきフルーツパフェなんか俺よりでかいの頼んでたし…。」

今日の出費はすべて菊地のおごりで、それを恩着せがましくつらつら並べ立てられると森本は弱かった。

「うぅ…。
 入ります…。」

「よろしい。」

菊地が森本の扱いが上手くなっていることもあるが、森本がだんだん甘くなっていることも事実だった。
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