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夢と現(うつつ) 02
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そう言って美鈴は遥希の部屋を出て洗面所に向かった。そこで顔を洗っていると友作と鉢合わせとなった。眼を丸くして友作は驚いていた。美鈴は何事もなかったかのように頭を下げて挨拶をする。友作は言う。
「たまげた、一体この家のどこにいたんだ」
「遥希君と一緒のベッドで寝ていたのよ」
「········」
「私も何でここに居るのか、初めは分からなかったんだけど、だんだんと見当はついてきたわ」
「遥希とは、その、したのか?」
「遥希君は偉いわねえ、とても節操があるわ。あなたとは大違いよ」
「·····そうか、それならいい」
それから家の者が揃って朝食を採った。
友作は美鈴と遥希とを交互に窺いながら落ち着きがない。明莉は昨夜のことを訊く。
「美鈴さん、途中からいなくなるんだもの、私淋しかったわ」
「トイレに起きて、どうも部屋を間違えたらしいの。朝起きたら隣に遥希君がいるんだもの、びっくりしちゃったわ」
すると美鈴の言葉に遥希が返す。
「びっくりしたのは僕の方さ。美鈴さんたら、寝惚けて手や脚を絡めてくるし、危なかったよ僕の貞操が」
それを聞いていた多英が言う。
「遥希ったら何をしているのよ、やっちゃえばよかったのに。こんな綺麗な娘、滅多にチャンスはないわよ」
遥希も言う。
「今思うと惜しいことをしたかなと思うよ。ねえ美鈴さん、もう一度チャンスをくれないかなあ····」
美鈴は答える。
「そうね、考えておくわ。機会があったらまた一緒に寝ましょうね」
友作は無言のまま食パンを噛っている。
目白のアトリエでは相変わらず、友作と美鈴の仲はギクシャクとしていた。それを面白がるように香織が遥希の元にやってきては耳打ちをする。
「見てご覧よ、二人とも気にはしているんだろうけど、仲直りまではまだまだ時間は掛かりそうね。もう一押しして完全に別れさせてもいいんだけど」
「どうやって?美鈴さんはそれでもお父さんのことが好きみたいだよ」
「私じゃ二人とも警戒してもう近付けないわね。後は遥希君の力で美鈴さんを振り向かせることよ」
「それが出来るのなら苦労はしないよ」
「友作にあってあなたに欠けているもの、それが美鈴の友作に対する魅力となっているの。あなたと友作とでは見た目はどっこいどっこい、あなたのアドバンテージは若さ、そして友作にあるのは人生経験」
「それから絵の技術·····、こればかりはどうにもならないね」
「そうね。じゃあ友作になくてあなたにあるものは?」
「それは音楽かな。僕は絵の才能はからきしだけど、音楽の感性は母親似なんだ」
「うん、それよ。それで彼女を引き込むに限るわ。早くしないとまた二人が仲直りしちゃうわよ」
「うん····、考えてみるよ」
その頃の遥希は大学でのバンド活動は立消えとなりつつあり、また新たな活動場所を模索しているところであった。そのことについて母親の彼氏でもあるヒロに相談してみることにした。
その話を聞いて家へ遊びに来ていたヒロは言う。
「やっぱりロックバンドの華はボーカルだよな。遥希のギターはそこそこなんだから、後はボーカルでもやれば、若い娘なんかきゃあきゃあ言うぜ」
「ボーカルも実は少しはやっていたんだ。でもそんな僕を使ってくれるバンドなんてあるかなあ」
「なきゃ、作ればいいのさ。知り合いに若くて楽器やっているのが何人かいるから、寄せ集めでもいいからバンドを組んで、やってみろ。ビジュアル受けする格好でさ。実力不足をカバーするのはなんてたって見た目だからな」
「そうだね、まずは格好から入らなくちゃね」
「そうさ、言わばバンドのアイドル路線さ」
横で聞いていた母親の多英が言う。
「そりゃ、私たちの子供の頃に流行ってたGSじゃないのさ」
「GS?」
遥希が訊き返すとヒロが答える。
「グループサウンズってやつさ。昔、ビートルズの影響で雨後の筍のように生まれた音楽グループだよ」
多英が言う。
「今さら、って感じがするけどね」
「なあに、一周回って逆に新しいよ」
そのヒロの言葉に、遥希はさっそくバンドを組むことにした。数曲は昔に流行った曲をコピーし、オリジナルはヒロが作ってくれることになった。うまくいけばヒロらのバンドの前座で使ってくれるという。
遥希は大学での仲間も引き込み、寄せ集めながらバンドを組んだ。ギターとボーカルを兼ねて遥希がリーダーとなり、もう一人のギター、ベース、ドラム、それにキーボードを兼ねて女性ボーカルが加わった。
「たまげた、一体この家のどこにいたんだ」
「遥希君と一緒のベッドで寝ていたのよ」
「········」
「私も何でここに居るのか、初めは分からなかったんだけど、だんだんと見当はついてきたわ」
「遥希とは、その、したのか?」
「遥希君は偉いわねえ、とても節操があるわ。あなたとは大違いよ」
「·····そうか、それならいい」
それから家の者が揃って朝食を採った。
友作は美鈴と遥希とを交互に窺いながら落ち着きがない。明莉は昨夜のことを訊く。
「美鈴さん、途中からいなくなるんだもの、私淋しかったわ」
「トイレに起きて、どうも部屋を間違えたらしいの。朝起きたら隣に遥希君がいるんだもの、びっくりしちゃったわ」
すると美鈴の言葉に遥希が返す。
「びっくりしたのは僕の方さ。美鈴さんたら、寝惚けて手や脚を絡めてくるし、危なかったよ僕の貞操が」
それを聞いていた多英が言う。
「遥希ったら何をしているのよ、やっちゃえばよかったのに。こんな綺麗な娘、滅多にチャンスはないわよ」
遥希も言う。
「今思うと惜しいことをしたかなと思うよ。ねえ美鈴さん、もう一度チャンスをくれないかなあ····」
美鈴は答える。
「そうね、考えておくわ。機会があったらまた一緒に寝ましょうね」
友作は無言のまま食パンを噛っている。
目白のアトリエでは相変わらず、友作と美鈴の仲はギクシャクとしていた。それを面白がるように香織が遥希の元にやってきては耳打ちをする。
「見てご覧よ、二人とも気にはしているんだろうけど、仲直りまではまだまだ時間は掛かりそうね。もう一押しして完全に別れさせてもいいんだけど」
「どうやって?美鈴さんはそれでもお父さんのことが好きみたいだよ」
「私じゃ二人とも警戒してもう近付けないわね。後は遥希君の力で美鈴さんを振り向かせることよ」
「それが出来るのなら苦労はしないよ」
「友作にあってあなたに欠けているもの、それが美鈴の友作に対する魅力となっているの。あなたと友作とでは見た目はどっこいどっこい、あなたのアドバンテージは若さ、そして友作にあるのは人生経験」
「それから絵の技術·····、こればかりはどうにもならないね」
「そうね。じゃあ友作になくてあなたにあるものは?」
「それは音楽かな。僕は絵の才能はからきしだけど、音楽の感性は母親似なんだ」
「うん、それよ。それで彼女を引き込むに限るわ。早くしないとまた二人が仲直りしちゃうわよ」
「うん····、考えてみるよ」
その頃の遥希は大学でのバンド活動は立消えとなりつつあり、また新たな活動場所を模索しているところであった。そのことについて母親の彼氏でもあるヒロに相談してみることにした。
その話を聞いて家へ遊びに来ていたヒロは言う。
「やっぱりロックバンドの華はボーカルだよな。遥希のギターはそこそこなんだから、後はボーカルでもやれば、若い娘なんかきゃあきゃあ言うぜ」
「ボーカルも実は少しはやっていたんだ。でもそんな僕を使ってくれるバンドなんてあるかなあ」
「なきゃ、作ればいいのさ。知り合いに若くて楽器やっているのが何人かいるから、寄せ集めでもいいからバンドを組んで、やってみろ。ビジュアル受けする格好でさ。実力不足をカバーするのはなんてたって見た目だからな」
「そうだね、まずは格好から入らなくちゃね」
「そうさ、言わばバンドのアイドル路線さ」
横で聞いていた母親の多英が言う。
「そりゃ、私たちの子供の頃に流行ってたGSじゃないのさ」
「GS?」
遥希が訊き返すとヒロが答える。
「グループサウンズってやつさ。昔、ビートルズの影響で雨後の筍のように生まれた音楽グループだよ」
多英が言う。
「今さら、って感じがするけどね」
「なあに、一周回って逆に新しいよ」
そのヒロの言葉に、遥希はさっそくバンドを組むことにした。数曲は昔に流行った曲をコピーし、オリジナルはヒロが作ってくれることになった。うまくいけばヒロらのバンドの前座で使ってくれるという。
遥希は大学での仲間も引き込み、寄せ集めながらバンドを組んだ。ギターとボーカルを兼ねて遥希がリーダーとなり、もう一人のギター、ベース、ドラム、それにキーボードを兼ねて女性ボーカルが加わった。
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