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退屈しのぎ 03

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  アトリエの終了間際、香織が美鈴に話しかける。

「美鈴さん、友作と付き合っているんでしょ?」
 
  美鈴は少し戸惑いの表情を見せながら答える。

「え、ええまあ·····」

「そう····。それならもう、彼とはしちゃってるんでしょう?」
 
美鈴は香織を睨んだ。

「何でそんなことをあなたに言わなきゃいけないの?」

「だったらもう私にこれ必要ないかなと思ってね。彼と付き合っている時に買い過ぎちゃったのよ。あなたにあげるわ、当分使うこともないし、良かったらあなたと彼とで使ってちょうだい」
   
  そう言って香織が美鈴に手渡したのは三つばかりのコンドームの箱であった。その箱を手にし、それが何であるかを認めると美鈴の顔はみるみる蒼白になっていった。

「サイズはジャストよ、私が保証するわ」
 
  香織はそう言って立ち去り、しばらくしてから振り返ると美鈴はしゃがみ込んで顔を覆っていた。ちょっと刺激が強すぎたかなと思うものの、香織は柱の陰で満足そうに笑うのであった。

 それからアトリエでは、美鈴は友作を避けるようになった。教室が退けてから足早に帰宅を急ぐ美鈴を、後ろから友作が追う。

「ちょっと待てよ、美鈴。一体どうしたんだよ?」
 
  友作に肩を掴まれ、それを振りほどくと美鈴は眉間に皺を刻んで言い放つ。

「もう、私のことは放っておいてちょうだい。汚らわしいその手で私に触れないで」

「何だよ一体、何を怒っているんだ、理由を話してくれよ」
    
  すると美鈴は自分のバッグから小箱を取り出し友作に渡した。

「それあなたに返しておくわ、香織さんから貰ったの。あなたにジャストサイズだって言っていたわ。今までこれを彼女と何箱使ってきたの?」

「何だよこれ····」
 
  そう言って友作が箱を見ると、それは避妊具であることが見て取れた。友作は言葉を失った。それから声を裏返しながら言う。

「香織がよこしたなんて、僕らを揉めさせるためにわざとしたことだよ。第一にこんなもの使わなかったし·····」

「使わなかった?使わないでした、ということ?」

「あ、いや、そ、そういう意味じゃなくて····」
  
  すると美鈴は友作の頬を平手で張って、そのまま足早に立ち去った。
  
  香織にしてやられたと思うが、友作には何をどうすることも出来ない。ただ美鈴の怒りが収まるのを待つしかないのである。
  
  それから数日後にアトリエでの飲み会が、近くの居酒屋の個室を借り切って催されることになった。その日の座敷風のテーブルでは、美鈴は出来るだけ友作から離れた場所に座った。その隣には遥希がいる。
  
  宴会が始まり香織が友作の近くににじり寄って来た。

「あらま、美鈴さんからそんな離れた場所に座っているの?」
 
  友作は香織を睨んだ。

「放っておいてくれよ。それにしても香織、やってくれたな」

「何のことかしら?」

「また知らばっくれて。まあいい、今となっては過ぎてしまったことだ。だが、僕と美鈴とが揉めるのがそんなに嬉しいのか?」

「あら、喜んでいるのは私だけじゃないわよ。遥希君だって、そして栗塚先生だって、ほら」
  
  見ると、栗塚晃司が友作の方を向いてにやにやと笑っている。友作はジョッキのビールを一気に呷った。
 
  その日は美鈴も荒れていた。遥希を相手に愚痴を言う。

「もう、男なんてみんなあんな感じかしら。まったく節操というものがないわね。遥希君もあんなふうになっちゃ駄目よ」
  
  すると遥希が答える。

「僕は一途ですよ」

「一途って、一体誰に?」

「もちろん美鈴さんにですよ」

「まあ、可愛いらしい顔をして嬉しいことを言ってくれるわね」
  
  美鈴が杯を重ねるペースはかなり早い。居酒屋での飲み会が終わりその場を解散する頃には、美鈴の足元もかなり覚束なかった。美鈴は遥希の肩に凭れて店を出た。

  遥希が言う。

「美鈴さん、タクシーを呼びましょう。これでは電車は無理ですよ」
  
  道路際にタクシーが着て止まった。すると美鈴は据わった目で言う。

「君が送って行ってくれるの?だったら一緒に乗ってちょうだい」

「え、まあ、いいですけど、お家はどこなんです?」

「どこでもいいわ、適当なところで降ろして」

「適当な所じゃ判りませんよ」

「いいから、いいから、出発進行!」
  
  それからタクシーは走り出すが、美鈴はすぐに寝込んでしまい頬を叩いても目を覚まさない。仕方がないので遥希はタクシーには自分の家へ向かって貰うことにした。
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