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退屈しのぎ 01

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なんだかんだと歪な形ながらも生活は落ち着いてきたようである。友作にとっても今の形の方が都合がいいし、居心地もいい。
 
  しかし目白のアトリエの教室の中は微妙な空気で満たされていた。晃司の諦めきれない美鈴への思いが友作にも伝わって来るし、香織の刺すような視線も感じていた。美鈴と友作の仲は皆から祝福されるものとはならないのだ。それでも皆の眼を盗んで、友作と美鈴は互いが誘い合い逢瀬を重ねた。
 
  両親と暮らす美鈴の部屋を訪れるわけにはいかないので、二人は外で逢うことになる。その時に美鈴は言う。

「別れた奥さんと未だ一緒だなんて、よく分からないわ」

「お互いが嫌い合って別れたわけじゃないからね。お互いが自由を求めただけのことさ」

「へえ、だったら私が友作さんの部屋を訪ねて行ってもいいってこと?」

「まあ、美鈴さんさえかまわなければね。うちには子供も一緒にいるけど、建前上は家庭を解散したことにしているから、皆お互いに干渉はしないことにしている」

「変なの。でも案外先進的な家族のあり方かも知れないね」

「家へ来てみるかい?歓迎するよ」

「どんな感じなのか興味はあるけどね。でも私のことをその元の奥様に何て紹介するの?」

「新しい彼女だよ、と言うだけさ」

「娘さんとかも平気かしら?」

「まあ多英も明莉も内心は穏やかでは居られないかも知れないけど、駄目だとは言わないと思うよ」
 
  それから友作は家に電話をした後、美鈴に言った。

「ちょうど多英が電話に出てね、『それなら私もヒロを連れて来る』と言うから、家に来なよ。家で一緒に食事でもしよう」
 
  その晩、友作は美鈴を伴って帰宅した。玄関に出て来た明莉がにこやかに出迎えた。

  リビングにはヒロという長髪で髭面、イヤリングを着けたいかにもミュージシャンらしい出で立ちの男がテーブルの前に足を組んで座っており、立ち上がるでもなく、ただ軽く手を上げて挨拶をした。

  息子の遥希もいる。明莉と多英とが台所で食事の用意をしている間、友作はテーブルに酒とグラスを人数分置いていった。

「皆が揃ったところでパーティーだ、今夜は楽しくなるな」
 
  友作がそう言うとヒロが拍手をしながら言う。

「本当は一曲かましたいところだけど、近所迷惑になるだろうから止めておくよ」
 
  遥希が言う。

「今、ヒロさんから色々教わっていたところなんだ。ミュージシャンに成るための心構えとか」
 
  するとまたヒロが言う。

「何も難しいことは言ってやしないよ、全てはノリさ。ノリで乗りきって行こう、ってことさ」
 
  それぞれのグラスにビールが注がれ、皆はテーブルの前に座り乾杯をしようとして明莉が言う。

「ええと、今日は何のパーティー?」

 するとヒロが答える。

「多英とその元旦那さんとの、離婚式パーティーだよ」

  それからヒロが乾杯の音頭をとる。

「離婚、おめでとう!」

「おめでとう!」
 
  皆は口々に言う。ヒロは続けて言う。

「結婚だろうが、離婚だろうが、ハッピーになればそれでいいのさ。ところでその元旦那さんの隣にいらっしゃるお嬢さんはどなた?」

   友作は少し照れながら答える。

「あ、この娘は、その、僕の新しい彼女なんだ」

「西尾美鈴と申します。よろしくお願いいたします」

   そう言って美鈴は頭を下げた。明莉が言う。

「ああ、この間お会いした方ね。それにしてもめちゃくちゃ若い。私たちとそんなに変わんないわ、お父さんの娘だと言っても誰も疑わないわよ」

   すると美鈴が返す。

「そうね、だったら私もあなた方の姉弟にして貰おうかしら。歳から言ったら私が長女になるわね」

「わあ嬉しい!私、こんな綺麗なお姉様が欲しかったの」
 
そう言って明莉が美鈴の腕に絡み付いた。

  賑やかな宴会の中で多英がやや浮かない顔をしている。友作が声を掛けると多英は答える。

「あなたの彼女を見てね、やっぱり私たち本当に離婚したんだなと思ったら、少しおセンチになっちゃったのよ」

「そう言えば君は結婚式の時も浮かない顔をしていたよね」

「ああ、あの時は完全にマリッジブルーだったわね。未来に望みなんて無かったもの」

   多英のその言葉を受けてヒロが言う。

「くっついても離れてもブルーか、因果だね」

   遥希がアコースティックギターを持ち出しヒロに演奏をねだった。ギターを受け取るとしばらくチューニングして友作には聞いたことがないボサノバ調の曲を静かに演奏し始めた。皆はしんみりとした面持ちでその演奏に聞き惚れていた。
 
  
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