傭兵少女のクロニクル

なう

文字の大きさ
上 下
150 / 150

第149話 カウンタースナイプ

しおりを挟む
 砂煙を上げながら東園寺、和泉、人見の三人がこちらに走ってくる。

「みんなぁ! この子が密猟者に撃たれたの! 助けて!」

 と、私は矢の刺さったテロビアうさぎを示しながらみんなに助けを求める。

「なにっ、襲われたのか!?」
「キミは大丈夫だったのか、ナビー!?」
「やつらはどこに行った!?」

 みんなが周囲を警戒しながら走ってくる。

「私は大丈夫! あいつら逃げてった! それよりもこの子、彰吾、お願い助けて!」

 と、私は人見の回復魔法を期待して彼の名前を叫ぶ。

「わかった、すぐに行く!」

 人見がスピードを上げ先頭に立ち、一目散に駆けてくる。
 そして、

「うっ!?」

 その言葉とともにスピードは落ちる。

「な、に……?」

 二歩、三歩と足を出すけど、そこで足が止まる。

「な、なんだ……?」

 脆く崩れやすい砂に埋まっていく……。

「流砂か!?」

 そのすぐうしろを走っていた和泉が沈む足をとっさに引き抜き、後方に大きくジャンプして難を逃れる。

「な、なんだ、これは!?」

 しかし、人見はもう遅い、すでに膝まで砂に埋まっており、歩くことはもちろん、足を引き抜くことさえ不可能になっていた。

「ああ!? すっかり忘れてた! 虫がいる砂場だ! 彰吾、早く逃げて!」
「む、虫ぃ!?」

 でも、時既に遅し、人見の周りに虫が動き回る軌跡、砂の盛り上がりが無数に出来上がる。

「彰吾!?」

 虫共が飛びかかってくる。

「うおおおおおお!!」

 その瞬間、東園寺が大きく一歩踏み出し、人見の腕を掴み、強引に彼を砂の中が引きずり出し、その勢いのまま渾身の力で後方にぶん投げる。

「うぎゃあああああ!?」

 人見は宙を舞い、

「ぶべっ」

 と、頭から地面に落ちる。

「いて……」

 手をつき身体を起こそうとする……、が、顔をぺたぺた触り……、

「ない……」

 メガネをしていなかった。

「メガネ、メガネ……」

 と、四つん這いでメガネを探し始める。

「メガネ、メガネ……」

 砂の中を一生懸命探す。

「なんだ、こいつらは!?」

 和泉が飛び出してきた虫共に応戦し、何匹かの虫を斬り殺す。

「東園寺!?」

 片足が埋まって動けない東園寺に遅いかかる虫を斬る。

「すまん、和泉」

 と、勢いをつけて足を引き抜く。

「退避だ、きりがない」
「ああ、和泉」

 二人は安全なところまで避難する。

「メガネ、メガネ……」

 人見は相変わらず、四つん這いでメガネを探している……。

「人見、ここだ……」

 と、東園寺が人見のメガネを拾い、彼に渡してあげる。

「あ、ああ……、ありがとう……」

 急いでメガネを受け取りかける。

「ころぴー」
「いぴろー」
「ほろぽー」

 虫共が追うのを諦め、砂の中に帰っていく。

「でかい虫だな……、あのガルディック・バビロンほどではないが、1メートル近くはあったか……?」

 和泉が斬った虫の死骸も他の虫共が回収しており、辺りには何も残っていなかった。

「しかも、凶暴、襲いかかってきた……」

 人見が人差し指でメガネを直しながら砂場を見る。

「ああ、あそこに入るは危険だ……」

 東園寺もそれに同意する。

「あうあ……、あうあー……」

 私の腕の中にいるテロベアうさぎが苦しそうに身じろぎする。

「ああ、どうしよう……」

 みんながこっちにこれない……。
 距離は……、30メートルくらいある……、どこが道で、どこが虫共のいる砂場かわからない……。

「さて、どうしたものか……」

 和泉が歩きながら砂場を観察する。
 そして、足元の石を拾い、それを砂場に投げ入れる。

「ころぴー!」

 すると、それに反応した虫が飛び出し、その石をくわえてすぐさま砂の中にもぐる。

「ほう……」

 和泉が目を細める。

「ナビー、すぐに行くから、そこで待ってて」

 私を見て優しく笑う。

「ハル……?」

 意図がわからず、眉間にしわを寄せて彼を見る。

「いいから、黙って見てて……」

 と、和泉がその辺に落ちている石を拾い始める。

「このくらいでいいか……」

 10個以上は拾っただろうか……。

「じゃぁ、行くよ」

 和泉が砂場に振り返る。

「何をする気なの……?」

 彼が砂場に向かって走り出した。
 しかも、全力疾走。

「ええっ!?」

 もしかして、走り抜ける気なの!? 
 和泉が砂場に入る直前に手にした石の一つ砂場に投げ入れる。
 すると、それに群がるように、虫共が飛び出してくる。

「石を囮にして駆け抜けようというの!?」

 そんな無茶な! 
 忍者じゃないんだから、絶対途中で足を取られるよ! 
 と、思ったら……、和泉が助走をつけて思いっきり空を飛んだ……。
 空中でまた石を投げる。

「ころぴー!」

 そして、虫の上に足をつき、また飛ぶ。

「ころびー!」

 また虫を足場にして飛ぶ。

「ころぴー!」

 石を投げ入れ、虫が飛び出してきたところを足場にする。
 そうやって、こっちに向かってくる。

「な、なんて、デタラメな……」

 私は呆れたようにポカーンと口を開けたまま彼が走ってくるのを見つめる。

「おまたせ、ナビー……、心配かけたね……」

 そして、無事に渡りきり、私の肩を抱いて優しく言う。

「ハル……」

 彼の顔を見上げる。

「うん」

 と、和泉は軽くうなずき微笑む。

「あうあー……」

 ほっとする間もなく、腕の中のうさぎがか細く鳴く。

「あ、でも、ハルじゃ駄目、彰吾じゃないとこの子の治療は出来ない……、どうしよう……」

 私はうさぎを見ながら泣きそうな顔で話す。

「大丈夫、ちょっと待ってて……」

 と、和泉が私の肩を離してなにやら作業を始める。

「ハル……?」

 彼は腰に付けていたロープを手に取り、その先に石を巻き付けている……。
 さらに、ロープを何本も繋げ長くする……。

「よし」

 作業が終わったのか立ち上がる。

「ナビー、危ないからちょっと下がってて」
「うん……」

 彼の指示通り、数歩後退する。
 和泉が先に石を付けた長いロープをくるくると回し始める。

「東園寺!」

 そして、それを砂場の対岸にいる東園寺目掛けて投げる。

「あーん……」

 ロープは取り付けられた石とともに空高く舞い、放物線を描き、東園寺目掛けて飛んでいく。
 東園寺は石ではなくロープを掴む。
 すると、石は東園寺の手を基点として回転し、その手にくるくると巻き付いていく。

「和泉、いいぞ」

 巻き付いたところでロープを引き、ピーンと張る。

「よし」

 和泉は腰の剣を抜き、その柄にロープを巻き付け結ぶ。
 それを地面に突き刺し、さらに足の裏で踏み付け鍔、ガードの部分まで砂の中に突き入れる。

「東園寺、いいぞ!」
「おう」

 東園寺が力強く両手で引っ張りロープが張られる。
 和泉は剣が抜けないように足に力を込め体重を乗せる。

「もしかして、そのロープで渡ってこようと言うの……?」
「うん、そうだよ、ナビー……、よし、人見、渡ってこい、これなら虫共に襲われない!」

 和泉が大きな声で対岸の人見に向かって叫ぶ。

「え、うそ、マジでか……?」

 でも、人見は予想外だったのか、尻込みする。

「行け、人見、この方法しかない」
「あ、ああ……、わ、わかった……」

 東園寺の言葉に渋々了承する。
 おそるおそる張られたロープによじ登る。

「くっ、くっ……」

 そして、ロープの上に立ち上がる。

「うっ、うっ、はっ、ふっ……」

 と、腕を回しながらバランスを取る。

「はっ、はっ、ひっ!? ふぅ……」

 震える足でバランスを取る……。

「早く行け、人見……、結構きつい……」

 その腕でロープを固定している東園寺が早く行くように催促する。

「あ、ああ……、す、すまん……、よっ、よっ……」

 よろよろと歩きだす。
 ゆっくり、ゆっくり、進む……。

「ふぅ……」

 やっと真ん中くらいまで来ただろうか……。

「人見……、まずい……」

 額に汗を浮かべた東園寺が言う。

「なに……?」

 人見が振り返る。

「う、腕が限界だ……」
「えっ!?」

 ロープの張りが緩み、その反動で人見がバランスを大きく崩す。

「う、うそ!? 落ちる、落ちる!」

 人見がバランスを取ろうと腕をぐるぐる回す。

「人見、走れ! 早く! 落ちたら終りだ、虫共の餌食になるぞ!」

 和泉が叫ぶ。

「うそだろぉおお!?」

 その言葉に従い人見は走り出す。

「うおぉおおおおお!」

 必死の形相でロープの上を走ってくる。

「うおぉおおおおお!」

 そして、最後は飛び込むように、ズザァアア、と、私たちのところにやってくる。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 うずくまって呼吸を整える。

「やれば出来るじゃないか……、人見……」

 と、対岸の東園寺がロープを緩め、額の汗を手の甲で拭う。

「じ、自分でも、驚いている……」

 人見は手をつき、身体を起こそうとする……、けど、その動作は途中で止まり、顔をぺたぺたと触り出す……。

「メガネ……」

 メガネをかけてなかった……。

「メガネ、メガネ……」

 そのまま、四つん這いで砂の中を探し出す。

「メガネ、メガネ……」

 砂の中を一生懸命探す……。
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

みっちー
2019.01.31 みっちー

経済戦争を仕掛けてきた貴族をギャフンいわせたらぁ!٩( 'ω' )و

毎回楽しみにしてますーw

なう
2019.02.04 なう

みっちー様、ご感想ありがとうございます!
頑張って続きを書きます!

解除
みっちー
2018.12.23 みっちー

待ち侘びてトロけておりまする。

更新をplz!(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

なう
2019.01.06 なう

ああ! しばらくぶりに来てみれば! 読まれている方がいらっしゃる!

解除
クロウ
2018.07.20 クロウ

私が言っているのは現地人である少女とナビーの会話についてです。
その他の文章構成に関しては問題ありません。
とても面白いので、これからも読ませていただきます。

なう
2018.07.20 なう

それはよかったです!
落ち込んでいました!

解除

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。