傭兵少女のクロニクル

なう

文字の大きさ
上 下
144 / 150

第143話 インシデント

しおりを挟む
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 耳の短いうさぎのような姿形をした小動物……。

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 私の手に頭、額をこすりつけてくる。

「よし、よし……、あうあー」

 撫でて欲しいのだろう、私のその要望に答えて小動物たちの頭を撫でてやる。

「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 でも、なんだろうな、これ……、怯えているような感じもする……。
 しゃがんでいる私のワンピーススカートの中に頭を入れたりして身を隠そうとしているようにも見える。

「うーん……」

 小動物たちを見る。
 白と薄茶色の毛並み、短い手足とまん丸な身体、そして、まん丸な黒いつぶらな瞳。
 なんて可愛いんだろう……。

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 鳴き声まで可愛い。

「あうあー……」

 と、また近くの草むらからカサコソと音がする。

「あうあー……」

 よちよちと小動物が出てくる。

「うん?」

 なんか、ちょっとふらふらとして……、

「ああっ!?」

 背中に矢が刺さっているよ! 

「どうしたの!?」

 と、私は大慌てでその子に駆け寄る。

「あうあー……、あうあー……」

 痛そうに、苦しそうに私の目を見る。

「だ、誰にやられたの、こんな酷いこと……」

 かわいそうで、ちょっと涙目になって、その子を抱きかかえる。

「しょ、彰吾、なんとかならない、魔法で? この子を助けて」

 人見に助けを求める。

「どれ、見せてみろ」
「うん」

 と、矢の刺さった背中を彼に見せる。

「あうあー」

 人見が矢に触れと、痛いのかビクッと反応する。

「ごめん、ごめん、痛かったか……、和泉、手伝ってくれ、矢を抜く、止血を頼む」
「わかった」

 和泉が近くに来て、

「美くしき、流れのほとりで、慈雨にその身を任せ、癒しの精霊糸ミインテールレット

 と、呪文を唱える。
 すると、彼の指先から、蜘蛛の糸のような白い繊維質の糸が無数に噴き出す。
 それを器用に人差し指と親指にわた飴のように巻いていく。

「準備おーけーだ」

 と、和泉が矢の突き刺さった根元、傷口のところを人差し指と親指で挟む。

「痛いかもしれないが、我慢してくれよ……」

 人見が矢を掴み、力を込める。
 私は小動物が動かないように少し抱く力を強くする。

「あうあー……」

 力無く鳴く。

「あうあー……」
「我慢してくれよ……、ジルアス、カルキアス、サムトリアス、告げ鳴く鹿よ、風かけたるひさかたの白雪よ……」

 人見も呪文を唱えはじめる。

「ディウスグラム、インフェルベウム、ラミルダード、その身を引き裂く至れり永遠、狂騒と静寂の、累世永遠クラス・オ・ダール……」

 矢と小動物の身体が青く、うっすらと光り出す。

「彰吾?」

 心配になって彼に尋ねる。

「大丈夫だ、止血と幻術による麻酔だ……、もう少し……」

 そして、矢が引き抜かれる。

「よし、成功だ」

 人見が抜いた矢を草むらに放り投げる。

「よかった……、大丈夫……?」
「あうあー?」

 と、元気が戻ったのか、小動物が身じろぎする。

「血も止まったかな? 思ったより傷は浅そうだ」

 和泉が傷口から指を離して出血具合を見る。

「あうあー!」

 と、私の腕から逃れようとする。

「じゃ、じゃぁ、もう、大丈夫かな……?」

 私はしゃがんで、その子を解放する。

「あうあー!」

 と、その子が他の子たちのところに合流する。

「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 みんなで仲良くしてる。

「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 しばらく見守っていると、またみんなが私の周りに集まってくる。

「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」
「あうあー、あうあー」

 そして、撫でて欲しそうに頭とかを押し付けてくる。

「よし、よし」

 しょうがないので、その手触りの良い毛並みを撫でてやる。

「こっちも! こっちも!」

 と、順番にみんなを撫でてやる。

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 うん、気持ち良さそうにしてる。

「よかった、よかった」

 自然と笑顔になる。

「かわいいなぁ……」
「怪我した子がどれかわからなくなっちゃったね」
「回復してるだろ」

 と、和泉たちも上から覗き込んでくる。

「でも、この子たち、なんて種類の動物なんだろう?」

 私は小動物たちを撫で回しながら質問する。

「うさぎ?」
「カピパラ?」
「ふさふさ?」

 わからないみたい。

「うーん……、なんだろうなぁ……、うさぎ……、でもないようなぁ……」

 撫でながら考える。

「なんだろうね? 見たことない動物だから、ここ、割りと普通なナビーフィユリナ記念オアシス特有の動物かもしれないね」

 と、和泉が私の顔を覗き込み、笑顔でそう答える。
 うん? 
 ここの名前って、割と普通なナビーフィユリナ記念オアシスだったっけ? なんか、別の名前を付けたような気もするけど……。
 と、小動物を撫でながら考える。

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 でも、ホントかわいい……。

「よし、よし……」

 手触りも最高……、この毛皮のコートとかマフラーとか手袋があったら絶対買うよ。
 うん、全財産出してもいい。

「こっちから声がしたぞぉ!!」
「どこだぁ!?」
「待ってろ、今行く、逃がすな!!」

 と、そんな大声と共に、複数の足音がこちらに向かってくる。

「誰かいるのか!?」
「人の声がしたぞ!?」

 これは日本語ではなく、現地の言葉だ。
 それが近づいてくる。
 東園寺たちは無言で、冷静に声のする方向に視線を送る。
 それは当然なこと、私たち以外に誰かいることなど予想済み、別に慌てることではない。
 そして、草をかきわけ奴等が姿をあらわす。

「なんだ、おまえら……?」
「横取りか……?」
「どこで、この場所を……」

 私たちの姿を見て奴等が驚く。
 私たちはじっと奴等を観察する。
 髭を生やした壮年の男性が6人ほど……。
 服装は……、ブラウンの、戦闘用のレザーメイルとは違う、よくなめした艶やかな皮革の服。
 腰には剣を帯び、背中には槍、そして、手には弓……。
 剣とは逆の胴にはじゃらじゃらとした鎖……、その鎖に繋がれ、吊るされているのは……、

「あうあー……」
「あうあー……」
「あうあー……」

 私のうしろに隠れ、怯えているこの子たちと同じ小動物……。
 それが一人、数匹ずつ吊るしている。
 それは適切な表現ではないのかもしれないけど、私の脳裏の浮かんだのは、

「密猟」

 という単語だった。

「お、おまえら、同業者か……?」
「誰から、この場所を……?」

 奴等が問いかけてくる。
 でも、私は何も答えない、その腰に吊るした小動物たちを見て、即座に敵だと認定した。

「いや、ハンターではないか……」
「まだ若い……、子供、それに少女までいる……」
「遊んでいて、迷子にでもなったか……」
「こんなところにか?」
「他に仲間がいるんじゃないのか?」

 と、奴等が話し合う。

「どうする? ここは俺たちの狩場、場所を知られたからには生かしてはおけない」
「殺すのか?」
「しかし、行方不明になったとあったは探しにくるかもしれないぞ」
「なぁに、そいつらも始末すればいいだけのこと、ここは俺たちの縄張りだ」

 殺意を私たちに向ける。

「ナビーフィユリナ、聞かなくても大よそ見当はつくが、一応、聞いておく、あいつらはなんと言っているんだ?」

 東園寺が聞いてくる。

「私たちを殺す算段をしている」

 短く答える。

「だろうな……」

 和泉は腰に帯びた剣の柄に手を伸ばす。

「ほう……、小僧共、俺たちとやり合おうと言うのか……?」
「俺たちは強ぇぞ……」
「大人しくしていたら命だけは助けてやろうと思ったが……」
「うそ、うそ、最初から殺すつもりだよ」
「大人は怖いねぇ……」

 6人の密猟者たちがいやらしく笑い、弓をその辺に放り投げ、腰の剣に手をかける。

「小僧共ぉおおお!!」
「うおおおおおお!!」
「ぶっ殺してやる!!」

 そして、一斉に剣を引き抜く。

「人見……」

 東園寺がゆっくりと剣を引き抜きながら、人見に魔法を要求する。

「やれやれ……、アンシャル・アシュル・アレクト、七層光輝の鉄槌、赤き聖衣を纏いし深淵の主……」

 人見による魔法の詠唱が始まる。

「佐々木は下がっていろ、俺と人見と東園寺でやる」
「あ、ああ、すまない」

 と、佐々木は私の隣まで下がってくる。

「エア、エンリタ、エシルス、舞い降りろ、死の女神、光輝の流星陣フォール・ザ・アルテミス

 詠唱は終り、防衛陣が発動し、東園寺たちの身体が輝きだす。

「「「うおおおおお!!」」」

 そして、戦闘は開始される。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界パティスリー~剣と魔法と甘いモノ~【新装開店】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:347

自力で始める異世界建国記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

異世界で作ろう「最強国家!」

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:17

世界を越えたら貞操逆転

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:257

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:392

十二英雄伝 -魔人機大戦英雄譚、泣かない悪魔と鉄の王-

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:53

ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:1,162

処理中です...