傭兵少女のクロニクル

なう

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第123話 ブリザード

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 虫共の、ガルディック・バビロンの包囲を破った。
 それは私たち人類の虫共に対しての初めての勝利を意味する。

「「「うおおおおおお!!」」」
「「「わああああああ!!」」」

 否が応にも士気は上がる。

「見事だ、栄光ある帝国騎士団よ!」

 シェイカー・グリウムが剣をかざして叫ぶ。

「「「おおおおおおお!!」」」

 兵士たちが歓呼によってそれに応える。

「騎士団、反転! 虫共を挟撃するぞ!」
「「「おおおおおおお!!」」」

 包囲を突破した兵士たちが反転してガルディック・バビロンの背後を突く、先程とは逆の展開になった。

「いぴろー」
「こぴろー」

 挟撃された虫共は総崩れになる。

「行ける、行けるぞ!」
「虫共はそんなに強くないぞ!?」
「何を言っている、俺たちが強いんだ!」

 盛り上がりは最高潮に達する。

「私たちも突破するよ!」
「「「おお!」」」

 みんなが私のあとに続く。

「たぁあ!」

 乱戦の中、少しずつ進んで行き、ついに私たちも虫共の包囲を突破した。

「よし! 追撃!」

 突破したら、反転攻勢! 
 包囲を突破しようとしている味方の援護に入る。

「「「うおおおおおお!!」」」
「「「わああああああ!!」」」

 激戦が繰り広げられる。
 横列の防衛ラインを作り、敵の侵入を防ぎつつ、逃げ込んでくる味方、特に負傷者を優先して迎え入れる。
 少しずつ、乱戦ではなく、敵味方で別れ、互いに向かい合う形になっていく。
 大勢の槍兵が水平に槍を構え、虫共の侵入を阻む。

「これから、どうする、正門を攻略して退路を確保するか!?」

 シェイカー・グリウムが私たちのところへやってくる。
 彼の言う通り、私たちは高い石壁を背にしていて逃げ場がない。
 だから、逃げ場、退路の確保は急務に思われるけど……。

「ぎゃああああああ!!」
「いや、いや、いやあああ!!」

 独断で正門のほうへ向かった一団から悲鳴だ。
 当然だよね、あいつら、ガルディック・バビロンには知性があるんだから。
 退路を放っておくわけがない。

「いっぎゃああああ!!」
「いた、いた、いた!!」

 正門の近くには黄色、いや、黄土色の液体が大量に散布されていて、多くの兵士たちがその中でもがいていた。

「で、でれない……」
「助けて、助けて!!」
「いたい、いたい、溶ける、皮が剥がれる!!」

 ものすごい粘着性のある液体で一度捕らえた兵士は逃がさない、さらに、消化液も兼ねているのか、兵士たちの肌が溶けてめくれていく。
 めちゃり、めちゃり、と嫌な音を立てながら虫共が兵士たちに群がり貪り食う。

「くっ……」
「うっ……」

 その凄惨な光景に多く者が視線を逸らす。

「無理だな……」

 シェイカー・グリウムが視線を逸らさずに言う。

「ええ……」

 私もその光景を直視しながら答える。
 退路はない……。
 おそらく、他の出入り口も同じような状況になっていることだろう。

「いやだ、いやだ、あんな死に方はいやだぁ!」
「誰だよ、この任務が辺境の過ごしやすいところでのバカンスなんて言ってたのは、地獄じゃねぇか!」
「田舎の美少女たちが俺たちを出迎えてくれるんじゃなかったのかよ!?」
「もうやだぁ、俺帰る!」

 士気は下がり、持ち場を放棄して逃げ出す者が出始める。

「貴様らぁ、逃げるな、持ち場を離れるなぁ!!」
「こら、そこ、陣形を崩すな、槍を構えて虫共を牽制しろ!!」

 と、急遽任命された小隊長たちが叫びながら陣形を維持しようと奔走するけど、その効果はほとんど見られない。

「いっぎゃああああ!!」
「ぎゃああああああ!!」

 槍を隙間なく並べた密集陣形、そこから出た者は容赦なくガルディック・バビロンの餌食となる。

「こっちからくる!」
「あっちからも!」
「押すな、押すな!」

 やつらの包囲網を崩したと思っていたけど、それは全くの事実誤認、逆に私たちが壁の前に追い詰められていた。
 さらに、少しずつ距離を詰められ、自然と密集していき、満員電車のようなすし詰め状態になる。

「な、なんだ、これ、戦う隙間もなくなってきたぞ」
「う、動けない、どうしたらいいんだ……」

 秋葉たちが人混みの中でもがく。
 心底ぞっとする、あの虫共の狙いはこれだったの? 
 私たちは一箇所に集められて、ぎゅうぎゅう詰めにされて、動くことすら出来なくなった。

「いぴろー」
「こぴろー」
「ずぴゅる、ずぴゅる」

 人混みで姿は見えないけど、その虫共の鳴き声に底知れない恐怖を覚える。

「やだ、やだ……」
「戦えない、もっと奥に」
「頼む、通してくれ」
「怖い、怖い」

 兵士たちが少しでも虫共から遠ざかろうと中央に集まってくる。

「おまえらはブリザードを前にしたペンギンかよ……」

 人混みに翻弄されて悪態をつく。

「武器をしまえ、刺さる!」
「おまえこそ、しまえないなら、手を挙げろ!」
「押すな、押すな、誰か転んだぞ!?」

 中央付近ではそんな怒号が飛び交い、

「助けて、助けてぇえええ!!」
「虫が、虫が来たぁあああ!!」
「食われる、引っ張られる、誰かぁあああ!!」

 最前線では絶え間なく悲痛な叫び声が上がる。

「駄目だ、このままじゃ戦えない、どうする、東園寺?」
「人見がまだだ、とにかく、人混みにもまれてはぐれるな、一塊になっていろ」

 と、和泉と東園寺が話し合う。

「スペースを確保しろ、佐野」
「うい」

 佐野が人混みを押しのけ、私たちが一緒にいることの出来る最低限のスペースを確保してくれる。

「それで、彰吾はまだなの?」

 と、私は人見のほうに視線を送る。
 彼は最初10分くらいと言っていたけど、すでに20分以上は経っている。

「リータ、フテリ、メルィル……」

 ……。

「これ、絶対、魔法じゃないでしょ……、聞いたことないから……、こんなの……」

 半ば呆れて、そうつぶやいてしまう。

「いっぎゃああああ!!」
「ぎゃああああああ!!」
「あっぎゃああああ!!」

 前線では悲鳴が大きくなり、その数も増えていく。
 虫共の攻勢がはじまった。
 くそ、人見はアテにならない。

「公彦、移動しよう、ここを出る、私たちでもう一度再突破する」
「完全に包囲されている、勝算はるのか、ナビーフィユリナ?」
「ある。やつらの知性を逆手に取る、やつらは必ず、包囲に一箇所だけ穴を開けておくはず、そこに獲物を誘い込み一網打尽にするためにね……、でも、そこが一番手薄なのもまた事実、仕留めるためにそんなことをするの、言い換えればなめてるのよ、そこを突く、正面からぶち破ってやる」

 決意を込めて言う。

「わかった……、やろう、俺はナビーの意見に賛成だよ、このままだと戦わずして負ける」
「ここにいるよりはいいわな、俺もやるぜ、ナビー」

 と、和泉と秋葉が賛同してくれる。

「公彦は?」
「ちっ、その手しかないか……、いいだろう、やろう……」
「ありがと、公彦……、獏人、彰吾を担いで、セイレイもついてきて」
「うい」
「はい、ファラウェイ様」

 二人が従ってくれる。
 佐野が人見を担ごうとする。
 でも、人見が佐野の手を払い除ける。

「人見さん?」
「佐野、もう大丈夫だ、すまなかったな」

 と、人見が佐野に笑いかける。

「ナビー、俺もキミの作戦には賛成しないでもないが、それを決行するのは俺の魔法を見たあとにしてもらえないかな?」

 私に向き直り言う。

「彰吾の魔法……?」
「いや、キミの言うとおり、正確には魔法じゃないな……」

 人差し指でメガネを直しながらニヤリと笑う。

「魔法じゃない……、じゃぁ、今までなにしてたの……?」

 困惑する。

「こういうことさ」

 人見が右手を天にかざす。

「正確な座標がわからず、道に迷ってしまったが、なんとか、ここまで辿り着くことが出来た……、それも、みんなが時間を稼いでくれたおかげ……」

 さらに、真暗な空を見上げる。

「来い、キネティック・エネルギー・アレイ・ヴァーミリオン」

 そして、その手を振り下ろす。
 それと同時に暗闇の空に複数の光点が出現する。
 それがこちらに向かって猛スピードで向かってくるのがわかる……。

「ひっ」

 と、私は反射的に頭を庇う。
 それが轟音を轟かせて私たちの頭上を通過していったのだ。
 そして、ドーン、ドーン、ドーン、と爆弾のような炸裂音を響かせて、私たちとガルディック・バビロンの群れの間に着弾する。
 高々と砂煙が舞い、視界を遮る。
 兵士たちも、虫共も、何が起きたのかわからず押し黙り、周辺には静寂が訪れる。
 ギギギギ、ギギギギ……。
 砂煙の中からそんな機械音が聞えてくる。
 ガガガガ、ガガガガ……。
 砂煙が少しずつ晴れていき、そのシルエットが見えるようになっていく。
 それは人型……。
 でも、大きさが尋常じゃない、余裕で3メートルを超えている……。
 それが10体ほど……。

「あれは……ヒンデンブルクの……」
「ああ、ヴァーミリオンだ」

 それはヒンデブルクの飛行船の中に眠っていた人型兵器だった。
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