傭兵少女のクロニクル

なう

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第75話 凄然と沈黙のオデッセイ

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 人が集まってくる。
 とりあえず、シャツから顔を出してあたりを見渡す。
 逆光でよく見えないけど、十人くらいはいるだろうか……。

「というか、秋葉くん、なんでここにいるの? 狩猟班は花火の準備で忙しかったよね?」

 と、そんな言葉が聞えてくる。
 そういえば和泉たちが花火がどうとか話していたよね。

「花火、するの?」

 私は小さな声で秋葉に尋ねる。

「そう、狩猟班でやる予定」
「へぇ、打ち上げ花火だよね、どうやって?」
「興味津々だな、ナビー、聞いて驚くなよ、それはな、あれだ、ナビーは回転草、ダンブルウィードって知っているか?」
「うん、知ってる、あれだよね、よく西部劇で風で転がってる丸い草のことだよね?」
「そそ、それに似てる草があってだな、それに火を点けて……」
「だ、誰と話しているんだよ、秋葉ぁ!?」

 私たちの会話を遮るように、そんな大声が響き渡る。
 うーん、誰だぁ? せっかく花火の話しをしてるのにぃ……。
 と、身をよじりながら秋葉のシャツから顔を出す。

「ひっ!? なんか、出てきた!!」

 それは、中肉中背、少し癖毛の神経質そうな表情の男、生活班の山本新一だった。

「な、なんだ、いったい、秋葉、何に取り憑かれているんだ……?」

 と、山本が数歩あとずさる。

「え、ちょっと待って、あれってナビーじゃない……?」
「うん、どうみてもナビーだよ……」

 と、鹿島たちがそう指摘する。
 やばい、ばれた。
 私は大急ぎでシャツの中に頭をひっこめて、

「ナビーじゃないよ、お化けだよ」

 と、言い訳を言う。

「ほら、蒼からも」
「ははは、そうだよ、ナビーなわけないじゃないか、ははは……」

 秋葉にもフォローさせる。

「はい、はい、お化け、お化け……」
「ずいぶん可愛らしいお化けさんだこと……」
「二人でなにやってるの……」

 ああ、駄目だ、完全にばれてる。
 くそぉ、なんでばれたぁ……。

「くしゅん」

 寒くてくしゃみ出た。

「大丈夫、ナビー? 寒いの?」

 と、生活班の福井麻美が近づいてくる。

「くしゅん」

 やっぱり、水着がびしょ濡れなせいか秋葉のシャツの中にいても寒い。

「ナビー?」

 福井が覗き込んでくる。

「もう、ナビーじゃないってば、くしゅん」

 秋葉のシャツで口と鼻を押さえながらくしゃみをする。

「ふ、福井、離れろ、何かがおかしい!!」

 うん? 
 それは山本の声だった。

「あ、秋葉、おまえ、最初から死んでたんだろ!?」

 うーん? 

「何を言っているんだ、山本、そんなわけないだろ、ははは……」
「い、いや、おかしいだろ、さっきから、ははは、って、なんだよ、秋葉らしくねぇじゃねぇか!?」

 なんか、山本が凄い声を荒げている……。

「こ、これも、おまえの仕業か、秋葉!?」

 と、山本がポケットから紙切れを取り出し秋葉に見せる。

「な、なんだ、短冊……?」

 それはみろり色の短冊。
 そこには願い事が書かれている……。
 その内容は……。

「山本さま、あなたの考えは正しい、生きているのはあなただけ、他のみんなはもう死んでいる。ここはあの世、その証拠は金の斧の池にある」

 静まりかえる中、私が短冊の内容を読み上げる……。
 そう、あれは私が山本を池に呼び出すために書いたものだ。

「な、なんか、今、背筋が凍った……」
「こ、怖い事言うのは、なしよ、ナビー……」

 と、女子たちが口々に言う。
 お? もしかして、まだまだ、行ける? 

「ここは、あの世、みんな死んでるんだ……」

 って、言いながら山本も震えているし。

「お、おい、山本、そんなわけないだろ、みんな生きてるって、な、みんな!?」

 同じ生活班の佐々木智一が必死に否定する。

「うん、私たちは生きてるわ」
「じゃぁ、なんなんだよ、あの秋葉の腹はぁ!?」

 と、山本が血相を変えてこっちを指さす。

「な、なにって、ナビーでしょ、ナビーが入ってるんでしょ?」
「そうよ、どう見てもナビーよ、落ち着いて山本くん」

 よし、これは行ける。

「痛いよぉ……、痛いよぉ……、助けて、新一……」

 と、か細い声で言って、シャツの襟から手を出して秋葉の顔をぺたぺた触る。

「ははは、ははは、こら、こら……」

 秋葉が私の手を掴んでシャツの中に押し込もうとする。

「うわぁ、やめてぇ……、痛いよぉ、痛いよぉ……」
「ひいぃい!? あ、秋葉、なんて声を出しやがるんだ、その腹の中に何がいるんだ!?」
「いや、だから、ナビーでしょ!?」
「てか、秋葉くん本当にやめて、山本くんがこういうの弱いって知ってるでしょ!?」
「お、俺は何もしてないって、ははは……、こら、こら……」

 秋葉がそんな否定をしながらも、私のぺたぺた攻撃に顔をそらして対抗する。

「おい、秋葉、山本になんか恨みでもあるのかよ、本当に怒るぞ!?」
「そうよ、お化けとか幽霊なんかより、本気でそういうの信じてる人のほうが怖いんだから!!」

 みんなが口々に秋葉を非難する。

「俺は何もしてないって、誤解だから、ははは……、だから、やめろって、こら、こら……」

 今度は両手で顔をぺたぺたしてやる。

「うわ、みえない、みえない、やめ、やめ!」
「ほら、ほらぁ」
「はは、ははは……」

 楽しくなってきた。

「秋葉ぁ……、いい加減にしろよ……」
「信じられない、悪ふざけしすぎよ……」
「もう許せない、秋葉くん、本当に性格悪い……」

 と、秋葉がみんなから非難される中、真っ暗な空に火球が舞い上がった。
 それは、空高く舞い上がり、そして、火花を散らして弾け飛ぶ。

「おお、花火だ……」

 そう、それはまるで花火のようだった。
 次々と火球が舞い上がり、上昇の最高到達点に達すると勢いよく弾けて、大空に大輪の花を咲かせる。

「すごい、どうやってやってるの、蒼?」

 と、秋葉に尋ねる。

「すごいだろ、ナビー、あれはな、さっき言った回転草、ダンブルウィードに火を点けて、それを佐野がハンマー投げの要領で空高く放り投げる、そして、空に上がった火の点いた回転草にハルが矢を射る、それも、ただの矢じゃない、矢尻を丸い石に代えた代物だ、それで射抜くことによって、勢いよく弾けて花火みたいになる」
「へぇ……」

 と、秋葉の説明を聞きながら綺麗な花火を見上げる。

「まぁ、あれは、佐野とハルの力技だからな、俺には真似出来ない」

 火球が舞い上がり、それが弾けて、火の粉が飛び散り降り注ぐ……。

「綺麗だね」
「だろ? 実は俺のアイデアなんだぜ」

 音がないのは物足りないけどね。

「落ち着けよ、山本、大丈夫だからさ、花火でも見ようぜ」
「うん、うん、みんなで一緒に見よ」
「あ、あたし、何か飲み物とってくるね!」

 と、みんなが山本をなだめて池の縁に座らせる。

「こっちはこれだけ? よく見えると思ったんだけどなぁ、花火」
「東園寺くんたちは割と普通なナビーフィユリナ記念タワーで見るって」
「みぃちゃんや綾原さんたちはロッジのほうだって」
「そうなんだぁ……」

 みんなが思い思いの場所に腰掛け花火を見上げる。

「くしゅん」

 花火は綺麗だけど、とにかく寒い。

「大丈夫か、ナビー? 風邪引かないか?」

 と、秋葉が小声で話しかけてくる。

「くしゅん」

 駄目だ、寒い。
 少しぷるぷると震える。
 そういえば、エシュリンはどうしたんだろう? 服を持って来てって、手信号でお願いしたのに……。
 私は振り返り、金の斧の池の向こうの森の中を見る。
 広場に面した木々は枝打ちされており、そのおかげで焚き火の光も差し込み、かなり奥のほうまで視認することが出来た。

「いないなぁ」

 でも、エシュリンはどこにもいない。
 困った。
 彼女に浴衣とか下駄とかお面を持たせていたから。

「くしゅん」

 寒い。
 エシュリンを探しに行こう、このままじゃ本当に風邪を引いてしまう。

「よし、蒼、撤収よ、森の奥に向かうのよ」

 と、私は秋葉の頭、びんの辺りを両手で掴んで森の方角に顔を向ける。

「うん? 花火はもういいの?」
「寒いから着替えたい、たぶん、あっちにエシュリンいるから」
「ああ、そっか、わかった、行こう」

 秋葉が森の方向に歩きだす。

「秋葉くん、どうしたの?」
「どこ行くの?」

 すると、みんなに声をかけられる。

「い、いや、ちょっと、ははは……」
「ナビーは置いて行きなよ」
「そうよ、なんで、ナビーをおんぶしてるの? しかもシャツの中に?」
「怪しいよね、ナビーに何かしたの?」

 と、みんなが立ち上がり、私たちに向かって歩いてくる。

「ねぇ、秋葉くん……?」
「最初は悪ふざけだと思ってたけど、何か隠してるの?」
「うん、おかしい」
「ほら、こっちに渡しなよ」

 福井や瀬戸内、伊藤といった生活班の女子たちが近づいてくる。
 そして、福井が手を伸ばし、秋葉の脇腹、私の腰あたりを触ろうとする。

「に、逃げるのよ、蒼!」
「わ、わかった!」

 私の指示で秋葉が森に向かって駆け出す。

「ああ!?」
「みんなぁ! 秋葉くんがナビーをさらって逃げたよ!!」
「追って、追って、秋葉くんを捕まえて!!」

 みんなも私たちを追って走り出す。

「飛んで!!」
「おう!!」

 下草を飛び越えて勢いよく森の中に駆け込む。

「秋葉のやろう!!」
「おい、東園寺たちも呼んでこい、絶対捕まえるぞ!!」
「私、みぃちゃんたち呼んでくるね!!」
「俺の言った通りだろ、あいつ、何かに取り憑かれているんだよ!!」
「お祓いしなきゃ!!」

 そんな怒号も聞えてくるけど、私たちは構わず森の中を駆け抜ける。
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