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第71話 逡巡夏雲
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笹に見立てた広葉樹の若枝、それに飾り付けられた色とりどりの短冊が風になびいている。
「うん、綺麗」
私は青空の下、気持ち良さそうに風に泳ぐ短冊を見上げながらそうつぶやく。
「ナビー、そんなに口あけてたら虫が入っちゃうよ」
隣で私と同じように短冊を見上げていた夏目翼に笑われる。
「だってぇ」
と、少し頬を膨らませる。
だって、今日は七夕なんだからね。
「よし! もう一本行こう!」
と、立てたばかりの飾りとは別の、倒れている広葉樹の若枝のところに駆け足で向かう。
「じゃぁ、私、広場のほう見てくるね」
「はぁい!」
ここは中央広場のすみっこ、居住区へと伸びる道の入り口。
本当は広場の真ん中に飾り付けをしたかったけど、みんなが道の両脇に飾ったほうが綺麗だと言うので、ここに設置する事にした。
「まずは……」
若枝を少し斜めにして、私の目線の位置まで持ってきて固定する。
「次は……」
飾り付け。
色紙で作った吹流しをつけて……。
あとはみんなが折ってくれた色んな形の折り紙をつけて……。
「最後に……」
お願い事が書かれた短冊をつけていく。
「うん?」
短冊を飾りつける手を止める。
「うーん?」
そして、その短冊に書かれた内容に目をやる。
「おじいちゃんが早く死にますように?」
短冊にはそう書かれている……。
「うーん……」
私はその短冊を丸めてぽいっとその辺に捨てる。
「見なかったことにしよ」
よし、次、次……、新しい短冊を手に取る。
「うん?」
またぴたりと手が止まる……。
「木星が落ちてきますように」
あーん?
また丸めてぽいっと捨てる。
「よ、よし、次、次……」
箱の中にまとめられた短冊を取ろうとする……。
もうひと目でわかる、変は事が書かれている……。
「止まったら死ぬ、俺たちはマグロです」
願い事じゃないじゃない……。
「くっ……」
まるめてぽい。
「誘惑、それが地獄に転がり落ちる第一歩」
なんだ、これ、なんかの格言?
まぁ、さっきのよりはいいけど、願い事じゃない、まるめてぽい。
「ナビーならやってくれる、ナビーなら必ずオチを用意しているはずだ」
こ、これは願い事ね……、採用……。
その短冊を飾りつける。
「よし、調子出てきた、次!」
うっく……、これはやばい……。
「ナビーのおっぱいがもう少し大きくなりますように……」
秋葉か? 秋葉だろ、これ絶対……。
セクハラはやめろって、いつも言ってるだろ、あの野郎……。
「ふざけやがって……」
私はその短冊を念入りに破いて捨てる。
「まぁ、確かに頼んだのは私だよ、一人一枚だと寂しいからね……」
一人十枚くらい願い事を書いてもらったよ。
「でもね、誰もふざけて書いていいなんてひとことも言ってねぇんだよ……」
ギリ、と歯をくいしばる。
「もう、あったまきた、あったまきちゃったよ」
私は箱から何も書かれていない短冊とボールぺンを取り出す。
「ふふん……」
そして、石畳に寝転がり、短冊に願い事を書きはじめる。
まずは……。
「福井麻美さんが好きです。もしこの願い事に気付いたら金の斧の池まで来てください。佐々木智一」
しめしめ、いい出来。
「南条大河さま、大事なお話があります。金の斧の池でお待ちしております。海老名唯」
うーん、ワンパターンか?
まっ、これはこれでいっか……。
「人見彰吾くん、あなたの落とし眼鏡は金の眼鏡ですか? それともこちらの銀の眼鏡ですか? 金の斧の池で待つ。綾原雫」
おお、綾原らしい……。
楽しくなってきた!
と、こんな感じで短冊に願い事を書いていく。
最後はやっぱり秋葉だよね。
「くくく……」
どうやって誘い出すか……。
私の名前を使うか? いや、笹雪めぐみのほうがいいか……、迷うな……。
「あっ、でも、これって、みんなも見るよね? 本人に確認されたら厄介だなぁ……」
よし、差出人の名前は全部消しておこう。
と、私はさっき書いた短冊の差出人の名前をボールペンで消していく。
気を取り直してと……。
秋葉蒼用の短冊作成に取り掛かる。
「うーん……」
どんな文章だと釣れるかなぁ……。
よし。
「秋葉蒼さま、以前おっしゃっていたこと、覚悟が出来ました、金の斧の池でお見せします」
しめしめ、あいつ、絶対なんか心当たりあるだろう。
「あ、そうだ、時間指定も入れておいたほうがいいかな?」
うーん……。
屋台の焼きソバとか食べたあとだから、20時くらいでいいかな?
と、私はすべての短冊に20時に、って書き加えていく。
ちょっと窮屈な感じになっちゃったけど、まぁ、大丈夫でしょう。
「よし、飾りつけ!」
元気よく立ち上がって、今書いた短冊の飾りつけをはじめる。
「ふん、ふん、ふふん」
超ご機嫌!
「あとは、これをポールに挿して……」
飾りつけの終わった若枝を道脇のポールに入れて立てる。
「おお、両脇にあるとトンネル見たいになって綺麗……」
と、私は垂れ下がった吹流しのトンネルを何度も潜り抜ける。
「風が吹くともっと綺麗」
両手を広げて、真ん中でくるくるまわる。
「あはっ」
いい!
「お、もう終わったのか、ナビー、なんか手伝おう思ったのに」
「うまく飾りつけできたようだね」
と、秋葉蒼と和泉春月がやってきた。
「ハル! 蒼! みて、みて、綺麗でしょ!?」
私は大喜びで二人に駆け寄る。
「うん、うん、綺麗だね」
「わかった、わかった、ちょっと待て」
二人の手を取り、それぞれ名前の書かれた短冊の前に誘導してやる。
「へぇ、みんな結構まじめに願い事書いてんじゃん」
「蒼はふざけすぎだ」
と、二人が目の前の短冊を見ながら談笑する。
「あっ」
「どうした、蒼?」
「あ、いや、なんでも……」
秋葉があの短冊を発見したみたい。
「こ、これ、間違い? 何も書いてないな……」
と、秋葉が短冊をむしりとり、それをポケットに入れる。
くくく……、しらじらしいなぁ、秋葉ぁ……。
「あ、こっちもだな……」
今度は和泉が短冊をむしりとり、それをポケットに入れる。
「ナビー、ちゃんと確認しろよ、白紙だったぞ」
とか、秋葉が言っている。
「あ、そうだった? ごめんね……」
ちょっと、首を傾げて、申し訳なさそうな表情で言ってやる。
「いや、謝らなくていい、怒ってないから」
と、秋葉がバツが悪そうに視線をそらす。
「じゃぁ、蒼、屋台の準備もあるし戻ろうか」
「お、おう、ハル」
二人が中央広場のほうに帰っていく。
くくく……。
「ナビー、一人で大丈夫?」
「やっほー、ナビー」
と、今度は生活班の女子たちがやってきた。
「麻美! 千香! みて、みて、綺麗でしょ!?」
また大喜びで彼女たちのもとに駆け寄る。
「角度もいいね」
「うん、ちょうどトンネルみたいになってるね」
「いいから、いいから、こっち、こっち!」
二人の手を取り、それぞれ名前の書かれた短冊の前に誘導してやる。
「あは、誰これ、ナビーが割りと普通になりますように、だって」
「なんか、ナビーネタ多いね、ホント、大人気だね、ナビーは」
とか、短冊を見ながら笑っている。
「えっ?」
「なっ?」
二人が変な声をあげる。
「何これ、悪戯はやめてよね……」
「こっちも……」
二人が短冊をむしりとって、それをポケットに入れる。
くくく……。
「じゃ、じゃぁ、私たちは戻るね」
「ひ、陽射しが強いから、無理しちゃ駄目よ、ナビー」
と、二人がよそよそしく去っていく。
「はぁい!」
と、二人に大きく手を振る。
「おーい、ナビー、調子はどうだい?」
「相変わらずかわいいな、ナビー、結婚しよう」
今度は参謀班の二人、南条大河と青山悠生が姿を見せる。
「大河! 悠生! これ、綺麗でしょ!?」
くくく……。
次から次へとカモがやってくるぜ……。
「なっ、どうした、ナビー、なんか、悪党面になってるぞ!?」
おっと。
「なんでもないよ! ほら、ほら、はやく、はやく、こっち、こっち、みて、みて!」
と、表情を見られないように、彼らのうしろにまわって、その背を押して、二人の名前の書かれた短冊の前に誘導する。
「ちょっと待て、なんだ、これ……」
「あ、あれ……、う、うそだろ……」
お、さっそく発見したみたい。
と、こんな感じでやってきた人たちを自分の名前の書かれた短冊の前に次々と誘導していく。
「くくく……」
大体みんな確認したかな……。
でも、みんなを金の斧の池に呼び出して何をすればいいんだろう?
「うーん……」
「ナビー、そろそろ着替えちゃいましょう」
と、考え込んでいると、そう夏目翼に声をかけられる。
「そうだった! 浴衣に着替えるんだった!」
髪も綺麗に結ってもらうの!
私は大喜びで夏目のもとに走っていく。
「浴衣かぁ……、うん……?」
これは使える……。
「うん、綺麗」
私は青空の下、気持ち良さそうに風に泳ぐ短冊を見上げながらそうつぶやく。
「ナビー、そんなに口あけてたら虫が入っちゃうよ」
隣で私と同じように短冊を見上げていた夏目翼に笑われる。
「だってぇ」
と、少し頬を膨らませる。
だって、今日は七夕なんだからね。
「よし! もう一本行こう!」
と、立てたばかりの飾りとは別の、倒れている広葉樹の若枝のところに駆け足で向かう。
「じゃぁ、私、広場のほう見てくるね」
「はぁい!」
ここは中央広場のすみっこ、居住区へと伸びる道の入り口。
本当は広場の真ん中に飾り付けをしたかったけど、みんなが道の両脇に飾ったほうが綺麗だと言うので、ここに設置する事にした。
「まずは……」
若枝を少し斜めにして、私の目線の位置まで持ってきて固定する。
「次は……」
飾り付け。
色紙で作った吹流しをつけて……。
あとはみんなが折ってくれた色んな形の折り紙をつけて……。
「最後に……」
お願い事が書かれた短冊をつけていく。
「うん?」
短冊を飾りつける手を止める。
「うーん?」
そして、その短冊に書かれた内容に目をやる。
「おじいちゃんが早く死にますように?」
短冊にはそう書かれている……。
「うーん……」
私はその短冊を丸めてぽいっとその辺に捨てる。
「見なかったことにしよ」
よし、次、次……、新しい短冊を手に取る。
「うん?」
またぴたりと手が止まる……。
「木星が落ちてきますように」
あーん?
また丸めてぽいっと捨てる。
「よ、よし、次、次……」
箱の中にまとめられた短冊を取ろうとする……。
もうひと目でわかる、変は事が書かれている……。
「止まったら死ぬ、俺たちはマグロです」
願い事じゃないじゃない……。
「くっ……」
まるめてぽい。
「誘惑、それが地獄に転がり落ちる第一歩」
なんだ、これ、なんかの格言?
まぁ、さっきのよりはいいけど、願い事じゃない、まるめてぽい。
「ナビーならやってくれる、ナビーなら必ずオチを用意しているはずだ」
こ、これは願い事ね……、採用……。
その短冊を飾りつける。
「よし、調子出てきた、次!」
うっく……、これはやばい……。
「ナビーのおっぱいがもう少し大きくなりますように……」
秋葉か? 秋葉だろ、これ絶対……。
セクハラはやめろって、いつも言ってるだろ、あの野郎……。
「ふざけやがって……」
私はその短冊を念入りに破いて捨てる。
「まぁ、確かに頼んだのは私だよ、一人一枚だと寂しいからね……」
一人十枚くらい願い事を書いてもらったよ。
「でもね、誰もふざけて書いていいなんてひとことも言ってねぇんだよ……」
ギリ、と歯をくいしばる。
「もう、あったまきた、あったまきちゃったよ」
私は箱から何も書かれていない短冊とボールぺンを取り出す。
「ふふん……」
そして、石畳に寝転がり、短冊に願い事を書きはじめる。
まずは……。
「福井麻美さんが好きです。もしこの願い事に気付いたら金の斧の池まで来てください。佐々木智一」
しめしめ、いい出来。
「南条大河さま、大事なお話があります。金の斧の池でお待ちしております。海老名唯」
うーん、ワンパターンか?
まっ、これはこれでいっか……。
「人見彰吾くん、あなたの落とし眼鏡は金の眼鏡ですか? それともこちらの銀の眼鏡ですか? 金の斧の池で待つ。綾原雫」
おお、綾原らしい……。
楽しくなってきた!
と、こんな感じで短冊に願い事を書いていく。
最後はやっぱり秋葉だよね。
「くくく……」
どうやって誘い出すか……。
私の名前を使うか? いや、笹雪めぐみのほうがいいか……、迷うな……。
「あっ、でも、これって、みんなも見るよね? 本人に確認されたら厄介だなぁ……」
よし、差出人の名前は全部消しておこう。
と、私はさっき書いた短冊の差出人の名前をボールペンで消していく。
気を取り直してと……。
秋葉蒼用の短冊作成に取り掛かる。
「うーん……」
どんな文章だと釣れるかなぁ……。
よし。
「秋葉蒼さま、以前おっしゃっていたこと、覚悟が出来ました、金の斧の池でお見せします」
しめしめ、あいつ、絶対なんか心当たりあるだろう。
「あ、そうだ、時間指定も入れておいたほうがいいかな?」
うーん……。
屋台の焼きソバとか食べたあとだから、20時くらいでいいかな?
と、私はすべての短冊に20時に、って書き加えていく。
ちょっと窮屈な感じになっちゃったけど、まぁ、大丈夫でしょう。
「よし、飾りつけ!」
元気よく立ち上がって、今書いた短冊の飾りつけをはじめる。
「ふん、ふん、ふふん」
超ご機嫌!
「あとは、これをポールに挿して……」
飾りつけの終わった若枝を道脇のポールに入れて立てる。
「おお、両脇にあるとトンネル見たいになって綺麗……」
と、私は垂れ下がった吹流しのトンネルを何度も潜り抜ける。
「風が吹くともっと綺麗」
両手を広げて、真ん中でくるくるまわる。
「あはっ」
いい!
「お、もう終わったのか、ナビー、なんか手伝おう思ったのに」
「うまく飾りつけできたようだね」
と、秋葉蒼と和泉春月がやってきた。
「ハル! 蒼! みて、みて、綺麗でしょ!?」
私は大喜びで二人に駆け寄る。
「うん、うん、綺麗だね」
「わかった、わかった、ちょっと待て」
二人の手を取り、それぞれ名前の書かれた短冊の前に誘導してやる。
「へぇ、みんな結構まじめに願い事書いてんじゃん」
「蒼はふざけすぎだ」
と、二人が目の前の短冊を見ながら談笑する。
「あっ」
「どうした、蒼?」
「あ、いや、なんでも……」
秋葉があの短冊を発見したみたい。
「こ、これ、間違い? 何も書いてないな……」
と、秋葉が短冊をむしりとり、それをポケットに入れる。
くくく……、しらじらしいなぁ、秋葉ぁ……。
「あ、こっちもだな……」
今度は和泉が短冊をむしりとり、それをポケットに入れる。
「ナビー、ちゃんと確認しろよ、白紙だったぞ」
とか、秋葉が言っている。
「あ、そうだった? ごめんね……」
ちょっと、首を傾げて、申し訳なさそうな表情で言ってやる。
「いや、謝らなくていい、怒ってないから」
と、秋葉がバツが悪そうに視線をそらす。
「じゃぁ、蒼、屋台の準備もあるし戻ろうか」
「お、おう、ハル」
二人が中央広場のほうに帰っていく。
くくく……。
「ナビー、一人で大丈夫?」
「やっほー、ナビー」
と、今度は生活班の女子たちがやってきた。
「麻美! 千香! みて、みて、綺麗でしょ!?」
また大喜びで彼女たちのもとに駆け寄る。
「角度もいいね」
「うん、ちょうどトンネルみたいになってるね」
「いいから、いいから、こっち、こっち!」
二人の手を取り、それぞれ名前の書かれた短冊の前に誘導してやる。
「あは、誰これ、ナビーが割りと普通になりますように、だって」
「なんか、ナビーネタ多いね、ホント、大人気だね、ナビーは」
とか、短冊を見ながら笑っている。
「えっ?」
「なっ?」
二人が変な声をあげる。
「何これ、悪戯はやめてよね……」
「こっちも……」
二人が短冊をむしりとって、それをポケットに入れる。
くくく……。
「じゃ、じゃぁ、私たちは戻るね」
「ひ、陽射しが強いから、無理しちゃ駄目よ、ナビー」
と、二人がよそよそしく去っていく。
「はぁい!」
と、二人に大きく手を振る。
「おーい、ナビー、調子はどうだい?」
「相変わらずかわいいな、ナビー、結婚しよう」
今度は参謀班の二人、南条大河と青山悠生が姿を見せる。
「大河! 悠生! これ、綺麗でしょ!?」
くくく……。
次から次へとカモがやってくるぜ……。
「なっ、どうした、ナビー、なんか、悪党面になってるぞ!?」
おっと。
「なんでもないよ! ほら、ほら、はやく、はやく、こっち、こっち、みて、みて!」
と、表情を見られないように、彼らのうしろにまわって、その背を押して、二人の名前の書かれた短冊の前に誘導する。
「ちょっと待て、なんだ、これ……」
「あ、あれ……、う、うそだろ……」
お、さっそく発見したみたい。
と、こんな感じでやってきた人たちを自分の名前の書かれた短冊の前に次々と誘導していく。
「くくく……」
大体みんな確認したかな……。
でも、みんなを金の斧の池に呼び出して何をすればいいんだろう?
「うーん……」
「ナビー、そろそろ着替えちゃいましょう」
と、考え込んでいると、そう夏目翼に声をかけられる。
「そうだった! 浴衣に着替えるんだった!」
髪も綺麗に結ってもらうの!
私は大喜びで夏目のもとに走っていく。
「浴衣かぁ……、うん……?」
これは使える……。
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