傭兵少女のクロニクル

なう

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第57話 恋ひわたる

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「ピッピ、ピッピ、ピッピ」

 今日も天気がいい。

「ピッピ、ピッピ、ピッピ」

 口にくわえた黄色のホイッスルも私の機嫌にあわせて軽快な音色を響かせる。

「ピッピ、ピッピ、ピッピ、ピー、よーし、全体止まれ!」
「ぷるるぅ!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
「くるぅ!」
「ぷーん!」

 と、みんなも返事をしてくれる。

「うん、ひよこたちも、ちゃんと付いてきてるね」

 そう、今日はひよこたち、ピップ、スカーク、アルフレッドも一緒。
 それもそれのはず、ここはラグナロク広場の牧柵の中。
 ひよこたち……、うーん、もう、ひよことは呼べないね……。
 私は大きくなった彼らを見る。
 真っ白な羽毛、トサカのないニワトリって感じの姿……、あ、でも、まだ黄色産毛はところどころに残っている。

「やっぱり、まだ、ひよこだね……」

 私はクスリと笑う。

「ああ、機嫌がいい……」

 さらに、青空を見上げて笑みをこぼす。
 機嫌がいいのはもちろん、昨日の事をうけてだ。
 そう、あのヒンデンブルク広場の飛行船での出来事。

「ふふ……」

 いい采配だったと思う。
 日本に帰らない、帰らせない、と云うのは当然として、それをみんなに周知徹底させるのには抵抗があった。
 だって、もう二度とお家には帰れないとわかったら、絶対気落ちするよ、落ち込んで元気がなくなるよ。
 ここでの生活にも支障がでるよ。
 そこで、日本に帰れるかもしれないと希望を持たせつつ、のらりくらりとここでの生活を長引かせる作戦にでる。
 すると、あら、不思議、日本に帰りたいと云う想いも次第に薄まり、ここでの生活も悪くないと思いはじめてしまう。
 そして、やがては、日本? 何それ? って、なる事請け合い。
 うん、なんて、いい作戦なんだろ……。
 何よりも、昨日、好材料を発見した。
 それは、人見と綾原だ。
 あの二人はたぶん日本には帰りたくないんだと思う。
 だから、あんなに抵抗したんだと思う。
 あとは、和泉、あいつも、どっちかといったら、ここでの生活を第一に考えているんだと思う。
 でも、心配事がひとつあるとすれば、それは、東園寺……。
 あいつ、前は和泉みたいに、ここでの生活基盤作りが最優先で日本に帰る事は二の次だって言ってたはずなのに、昨日は日本への帰還が最優先とか言い出しやがった……。
 うーん……、何か心境の変化があったのだろうか……。
 いや、徳永と福井に言いくるめられたって印象だったかな……。
 女にうつつをぬかしやがってぇ、許せん。
 そんなのどうでもいいか……。
 と、まぁ、状況はこんな感じだけど……。

「そこで、私のとる行動は……」

 ちらりとシウスたちの頭をなでているエシュリンを見る。
 ウェーブかがった亜麻色の髪の少女、エメラルドグリーンの瞳と明るい表情が好印象の美少女だ……。

「ぷーん?」

 と、彼女が私の視線に気付いて、不思議そうな顔でこちらを見る。

「エシュリンって、狩猟班で面倒見てるけど……」

 寝泊りも狩猟班女子のロッジでしている。

「ぷーん?」

 でも、私と同じで正式には狩猟班のメンバーではないんだよね……。
 よし、これだ。

「エシュリン、あなたは今日からマスコット班よ」

 ピタッっとエシュリンを指差して宣言する。

「マスコット班、ぷーん?」
「そうよ、みんなを元気づけるマスコット班、そして、そのマスコット班の班長はこの私よ」

 そう、私がマスコット班の班長! 

「へへん」

 腰に手をあてて大威張り。

「マスコット班、ぷーん! エシュリンもマスコット班、ナビーと一緒、ぷーん!」

 エシュリンも飛び上がって喜ぶ。
 これからは班長として班長会議にも出席する。
 そして、また、日本に帰るのが最優先、いや、こっちの生活が最優先とかいう議題で揉めたら私の登場。
 喧嘩は駄目、めっ! とか言って仲裁する。
 そして、どちらの言い分も正しい、どちらの案も最優先とか言って、どっちつかずで、のらりくらりと煙に巻いてやる。

「ぷるるぅ!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
「くるぅ!」

 みんながじゃれてくる……。
 ああ!? 
 また、みんなが私の服を脱がそうとしている! 

「あ、あ……、やめ、やめ!」
「ぷるるぅ!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
「くるぅ!」

 私は必死に抵抗するけど、彼らはおかまいなしに服を引っ張ってくる。

「みんなでひどい!」

 ああ、みんなに包囲された……。
 いっぱいいる……。
 いっぱい? 

「ピー!」

 と、思いっきりホイッスルを鳴らす。
 いい事思いついた。

「いい、みんな……」

 急にホイッスルを鳴らされてみんながキョトンとしている。

「今日からみんなもマスコット班よ!」

 ウェルロット、シウス、チャフ、ピップ、スカーク、アルフレッド、クルビット、これに、エシュリンと私をたして9人! 
 最大派閥の生活班に並ぶ! 
 これで影のリーダー、福井麻美にも対抗出来るよ! 

「ぷるるぅ!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
「くるぅ!」

 おお……、みんなも、よろこんで……、ない! 
 また、私の服を脱がそうとしてくる! 

「よーし、こうなったら!」

 と、私はかぶっていた麦わら帽子を脱いで、それをブーメランのように空高く放り投げる。
 麦わら帽子は青空の下をくるくると回転しながら飛んで行く。
 みんながそれを目で追う……。

「チャンス!」

 と、私は走りだす。

「ぷるるぅ!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
「くるぅ!」
「ぷーん!」

 みんながそれに気付いて、私のあとを追い駆けてくる。

「よーし! ランニングだ、ついてこい!」

 と、両手を広げてさらに加速。

「あははっ」

 風を受けて前髪がふわりと広がる。
 ワンピースの中を風が駆け抜けていく。

「そぉれ! もう一周!」

 柵沿いに全力疾走。

「ぷるるぅ!」
「めぇ!」
「めぇえ!」
「ぴよ、ぴよ!」
「ぴよっぴぃ!」
「ぴよぉ!」
「くるぅ!」
「ぷーん!」

 みんなも元気よくついてくる。

「あはははっ」

 もう、超ご機嫌! 
 と、機嫌よく走り回っていると、牧柵の外に夏目翼の姿が見えた。
 彼女はいつもの紺色のジャージではなく、エシュリンみたいな民族衣装を着ていた。

「珍しい……、スカートだなんて……」

 丈の長い黒いスカート、それに白いエプロンみたいなのをしている……。

「よーし!」

 と、私は少し助走をつけて、そのまま牧柵目掛けて走っていく。

「とおう!」

 そして、柵に片手をついて、そのまま飛び越える。

「エシュリン、あとはまかせた!」
「わかった、ぷーん、エシュリン、見てる、ぷーん!」

 エシュリンにそう声をかけながら夏目のところに走っていく。

「くるぅ!」

 むむ……。
 クルビットも牧柵を飛び越えてついてきちゃった。
 まっ、いっか! 

「つばさぁ!」

 と、首からホイッスルを外して、その紐をもってぐるぐる回しながら彼女のもとに走って行く。

「つーばーさー! ねぇ、つーばーさーってばぁ!!」

 もう、おおはしゃぎ! 

「つばさぁ!!」
「な、ナビー!?」

 と、私は思いっきり彼女に飛びつく。

「おう……」

 痛い……。
 に、鈍い痛みが……。
 私はその場にうずくまる。
 な、なんか、お腹を強く打った感じ……。

「な、ナビー、大丈夫!?」
「う、うう……、なんで……?」

 と、少し顔を上げて夏目を見る。
 すると、彼女は白いエプロンみたいなものの両裾を掴んで持ち上げていて、そのエプロンの上には大量のジャガイモが乗せてあった。
 あ、あれにお腹をぶつけたのね……。

「くるぅ……、くるぅ……」

 クルビットが心配して私の頬をなめてくれる。

「だだ、大丈夫よ、クルビット……」

 彼の頭をなでて、お腹を押さえながら立ち上がる。

「ナビー、本当に? 怪我はなかった?」

 と、夏目も心配そうに私の顔を覗き込む。

「う、うん、大丈夫、ちょっと、びっくりしただけ……、あ、ごめんなさい、ジャガイモ落としちゃったね……」

 ころころと何個か落ちている。
 私はジャガイモを拾って彼女のエプロンに戻す。

「ありがと、ナビー」

 彼女は笑顔でお礼を言ってくれる。

「これで、最後っと!」

 と、最後のジャガイモをバスケットボールのシュートの要領で投げる。

「よっと……」

 夏目がそれをエプロンでキャッチしてくれる。

「ナイスシュート、えへ」

 と、彼女は笑顔を見せる。

「じゃぁ、倉庫に置いてくるね、ナビーもくる?」
「うん、いく!」

 と、二人で食料品倉庫に向かう事になった。

「ナビー、帽子はどうしたの?」
「うん?」

 そういえば、ない……。
 頭をぺたぺたと触る……。
 麦わら帽子がない……、あ、あれ……? 

「陽射しが強いから熱中症になるわよ」
「うー……」

 夏目もちゃんと麦わら帽子をかぶっている……。

「うー……」

 陽射しか……、陽射しを遮るものか……。
 彼女の黒いスカートをちらりと見る。

「えい!」

 と、彼女のスカートをめくって、そのまま頭にかぶせる。

「えっ、きゃっ、ちょ、ちょっと待って、ナビー!?」

 彼女はそんな声を出すけど、それ以上の抵抗は出来ない、なにしろエプロンの上に大量のジャガイモを乗せているからね。
 もぞもぞ……。
 と、スカートの中を進む。

「な、ナビー、どこを!?」

 そして、彼女の腰をがっちりキャッチ。
 そのまま、ほおずり。

「ああ、ひんやり冷たい……」

 すりすり、肌とこのシルクのような布の肌触りが気持ちいい……。

「な、ナビー、出て、出て!」

 と、言うけど、お断り。
 この場所気に入った。

「ほら、翼、足がお留守だよ、歩いて、歩いて」
「な、ナビー……」

 と、彼女は仕方なく歩きだす。
 私も夏目の腰に抱きついたまま、同じ調子で歩く。

「うーん……」

 歩き辛い……。
 こう、後ろにまわって、腕を前にまわして……。
 顔はこのくぼみかな……。
 おお……、ちょうどお鼻が挟まって収まりがいい……。

「ひっ、えっ、ナビー!?」
「なぁに? まっくらで何も見えないよぉ……」

 そう、黒いスカートが太陽光を完全に遮って何も見えない。
 腕の場所がなぁ……。
 こう、太ももの内側かなぁ……、ああ、駄目だ、足が動いて掴み辛い、もっと上だな……。

「こ、こら、ナビー、本当に待って、お、怒るわよ!?」
「なぁに? なんにも見えないんだよぉ、どこがどう待ってほしいのか、ちゃんと言ってもらわないとわからないよぉ……」
「な、ナビー!?」

 と、こんな遊びをしながら食料品倉庫に向かうのであった。
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