傭兵少女のクロニクル

なう

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第42話 清明の花風

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 お星様を見ながら、あーんして、指ぺろぺろ……。

「あーん……」

 ぺろぺろ……。
 そういえば、今日は7月10日、七夕ってもう終りだよね……。
 おしいなぁ、こんなにお星様が綺麗なのに……。
 お願い事したかったなぁ……。

「あーん……」

 ぺろぺろ……。
 うーん……、お願い事かぁ……、みんなが幸せになりますように、だよね、やっぱり、うん、それしかない。

「あーん……」

 ぺろぺろ……。

「ナビー、はしたないよ、はい、お箸」

 と、夏目がお箸を持ってきてくれる。

「ありがとう、翼」

 私はそれを受け取る。

「星が綺麗ね……」

 と、夏目も私と同じようにお星様を眺めながらBBQを食べる。

「うん、七夕とかしたかった」
「七夕? 七夕は来月でしょ、来月の7日だよ?」
「うん?」

 来月なの? 

「そうだ、お祭りをやりましょう、飾り着けとかいっぱいして、みんなで短冊書いて、ね? 今度和泉くんに言って、班長会議で提案してもらうね」
「おお!? それは楽しみ!」

 そっかぁ、七夕って8月7日だったのかぁ、知らなかったなぁ。

「あーん……」

 と、星空に夢を馳せる。

「お? 準備が整ったようですね」

 と、司会の南条がなにやら話し出す。

「さっ、ナビー、こっちに」

 彼が中央広場の東側から私を呼ぶ。
 なんだろう、と思って、手にしたお皿をテーブルに置いてそちらに向かう。
 ちなみに、ラグナロク広場の位置関係は、中央に大きな焚き火のある直径50メートルくらいの石畳の広場があり、そこから道が四方に伸びている。
 西に向かうとロッジが立ち並ぶ居住エリア、さらに、その先がトイレとか。
 中央から北に向かうと広場の正面に建つように割りと普通なナビーフィユリナ記念会館があり、そのすぐうしろに墜落した旅客機、その横を通っていくと工房とか倉庫があるエリアになって、そして、そこを過ぎるとヒンデンブルク広場に向かう道へと続く。
 戻って、中央から南に行くと、割と普通なナビーフィユリナ記念タワーがあり、その先はルビコン川に向かう道となる。
 そして、こっち側、今、私やみんなが集まる東側、この道を進むと、まず牧舎があり、さらに進むと露天風呂になる、また、こちら側の森の木を集中的に伐採している事もあり、かなり広大な草原地帯が広がるエリアとなっている。
 あとは、ルビコン川から水を引いて作った貯水池、金の斧の池は南東方向、露天風呂の近く、森側のほうにある。
 まぁ、簡単に説明するとこんな感じかな。

「お、来ました、来ました!」
「なぁにぃ?」

 と、みんなが見ている東側の道の先を覗き込む。

「ほぉら、ナビー」

 夏目が私のうしろから両肩に手を置いて前に押すように連れ出していく。

「うーん……?」

 今日は道沿いの街灯が消えていて真っ暗……。
 何も見えない……。
 カラン、コロン、カラン、コロン……。
 なんか聞えてきた……。
 カラン、コロン、カラン、コロン……、チリン、チリン……。
 そして、その音が50メートルくらい先、広場の明かり届く距離までくると、その姿が見えるようになってくる……。

「ウェルロット……?」

 そう、純白の仔馬、ウェルロットだった。
 首にはなにやら大きな金色の鈴、鐘のような物を着け、さらに頭には大きな赤いリボン……。
 ウェルロットの両側には、和泉や秋葉など、数人の男子たちが随行していた。
 そして、そのうしろが見えてくる……。

「ば、馬車……?」

 なんか、ウェルロットがピンク色の馬車を引いている……。
 それも、もの凄くちっちゃいやつ……。
 形は……、どう見ても桃……。
 やがて、ウェルロットと馬車が私の目の前までやってくる。
 うん、桃の形のちっちゃい馬車だね。
 いやぁ、ちっちゃいなぁ……。
 ウェルロット自体が小さいからそんなに大きな馬車は引けないにしても、それにしてもちっちゃい……。
 高さは1メートルもない、幅も同じくらい。
 奥行きは車輪も入れて2メートルくらい。
 桃のてっぺんにはこれまた可愛らしい、ちっちゃいランタンを着けられている。

「ぷるるぅ!」
「おお、よし、よし、ウェルロット……」

 と、私は歩み寄り、ウェルロットの頭を優しくなでる。

「どうだい、ナビー? これが、男子全員からのキミへの誕生日プレゼント、割と普通なナビーフィユリナ記念ピーチ号だ!」

 和泉が嬉しそうに両手を広げて言う。
 こ、これが男子たちの誕生日プレゼント……。
 まぁ、すんごいかわいいんだけど、それにしても、ちっちゃいなぁ。
 あ、そっか、模型かなんかで、どっかに飾るんだ、で、たまに、ウェルロットに引かせて楽しむと、そういう物なんだね。

「見てくれ、ナビー、この車輪を……、これは、我々参謀班による渾身の力作だ、これには秘密があってだな……」

 と、人見が車輪の前にしゃがんで説明を始める。
 私も同じように彼の隣にしゃがんでその説明を聞く事にする。

「この前後の車輪を繋ぐ鉄の棒はサスペンションだ」

 ああ、板バネね……。
 原始的なサスペンションだ。
 薄い長い鉄の板を長さ違いで何枚も重ねてバネのような効果を持たせるやつ。

「このサスペンションがあれば、振動や揺れが小さくなり、乗り心地が格段に向上するはずだ」

 うん? 
 乗り心地? 
 まさか、これに私が乗るの? 
 こんなに、ちっちゃいのに? 
 うーん? 

「ナビー、こっちも見てくれよ、この車体、ボディは管理班によるものなんだぜ!」

 と、声がしたので立ち上がる。

「見てくれよ、このなめらかなボディ、毎日、毎日やすりがけしたからな!」

 そう話すのは管理班の久保田洋平、ちょっと不良っぽいやつ。

「このボディもそうだけど、この葉っぱのディテールもいけるよな!」

 こっちは鷹丸大樹。
 彼らの言う通り、馬車本体は、みろり色の葉っぱにつやつやな桃が乗っているデザインになっている。

「じゃ、乗ってみようか、ね、ナビー?」

 そう言うのは、御者役、ウェルロットの手綱を引いていた和泉だ。

「内装は俺ら、狩猟班によるものだ」
「いやぁ、大変だったよ、ナビー」

 秋葉と佐野も近寄ってきて言う。
 う……、やっぱり私が乗るのか……。

「さ、乗って、乗って、ナビー」

 秋葉が馬車の扉を開ける……。
 すると、バサー、と、大量の紙切れが崩れ落ちてきた……。

「ああ!? さ、佐野、戻して、戻して!」
「う、うい」

 と、秋葉と佐野が外に落ちた紙切れを急いで馬車の中に入れる。
 その紙切れはなんだろうな、細切れになった新聞紙に見える……。
 それが、馬車の中に大量に入れてある、もう、ぎゅうぎゅう詰めって感じで。
 う、うーん……。

「さ、乗って、乗って、ナビー!」

 こ、これって、どういう反応すればいいのかな……? 
 もの凄くちっちゃな馬車、そして、その中にある大量の新聞紙……。

「はやく、はやく!」
「ナビー、早く乗って、ドライブに行こう」

 くっ……。
 しょうがないので、私は前かがみ、ほとんど四つん這いの状態で馬車に乗り込む。
 前が見えない! 
 私は細切れの新聞紙をかき分けながら、トンネルを掘るように中に入っていく。
 コンコン、と、扉とは反対側から音がする。
 音のするほうに進む。
 すると、そこに小窓があった! 

「ぷはぁ!」

 と、小窓から顔を出す。

「「「おお」」」

 顔を出したらそこにはみんながいた。

「ナビー、ここに手を乗せて、両手をちょこんと」
「うん」

 と、窓枠にちょこんと両手を乗せる。

「か、かわいい!」
「て、天使だ、天使が舞い降りたぞ!」
「ハムスターみたい!」
「衝撃的なほど、かわいい!」

 と、みんなが大盛り上がり。

「じゃぁ、進むよ」

 と、和泉が言うと、馬車はゆっくりと動き出す。
 カラン、コロン、カラン、コロン……。
 小気味良い鐘の音を奏でながら馬車は進む……。
 あ、でも、乗り心地は悪くないかな? 

「かわいすぎるでしょ!」
「信じられない、もうだめ、かわいいよ、ナビー!」
「ナビー、手を振ってぇ!」

 と、そんな事を言いながらみんながうしろからついてくる。
 しょうがないのでみんなに手を振る。

「笑顔、笑顔!」

 笑顔を作る。

「かわいい!」
「しびれた!」
「もっと、もっと!」

 あ、なんか、楽しくなってきた。

「よーし」

 私は小窓に肩まで入れて両手を出す。

「みんなぁ!」

 と、満面の笑みで、両手を大きく振る。

「かわいい!」
「天使すぎる!」
「反則だろ、その笑顔!」
「頭にいっぱい紙乗せてるのもかわいい!」

 みんなも手を振りながら追い駆けてくる。

「みんなぁ!」

 何度も何度もみんなに手を振る。
 なにこれ、楽しすぎるでしょ。

「よーし」

 次はこれだ。
 馬車の中から細切れの新聞紙を掴んでみんなに投げる。

「おお!?」
「紙ふぶき!」
「綺麗!」

 なんか、夜のせいもあって、細切れの新聞紙が白っぽい綺麗な紙ふぶきに見えた。

「もっと、もっと!」
「もっと、紙ふぶきちょうだい!」
「よーし!」

 私は大喜びで、新聞紙を掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返す。
 紙ふぶきが風に舞い上がる。
 それをみんなで見上げる。
 ああ、なんて、楽しいお誕生会なんだろう。
 そう、心の中でつぶやく。
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