傭兵少女のクロニクル

なう

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第37話 交易

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 姫巫女か……。
 いや、それより、エシュリンって、ここに来てまだ一週間ちょっとだったよね、なんで、こんなに日本語達者なの……。
 私なんて、現地の言葉はさっぱりなのに……。
 うん? 

「ナギ様方って誰?」

 疑問を口にする。

「ナビー、ぷーん! それと皆様方です!」

 と、エシュリンは私と東園寺たちを手で指し示しながら言う。

「天から舞い降りた、世界を滅ぼす人々、ぷーん! 100年前にもあった!」

 天から舞い降りた……、まぁ、確かに旅客機が墜落したんだけどさ……。

「エシュリンは、ナギ様方に世界を滅ぼさないように、お願いしに来た、ぷーん!」

 うーん……。
 だから、お供え物を持ってきて、怒りを鎮めようとしているのか……。

「それは完全な誤解で、私たちには世界を滅ぼす力も、その意思もない……、でも……、どうする、東園寺くん? 誤解させたまま、お供え物だけいただいちゃう?」

 と、徳永がお供え物を吟味しながら東園寺に尋ねる。

「彼女の言葉をそのまま鵜呑みにすれば、それでもいいのかもしれないが……」

 東園寺もお供え物に近づき、そして、しゃがみ、手頃な果物を手に取る。

「東園寺くん、どういう意味?」

 彼がその果物の匂いを嗅ぐ。
 そして、おもむろに、あの現地人の年配の人にその果物を差し出し、

「おい、食ってみろ」

 と、睨みつけながら言う。

「あぇい、わ、ぱーす、ぷーん?」

 その年配の人が困惑した表情を見せる。

「エシュリン、通訳しろ」
「は、はい、ぷーん。わ、ぷーるす」
「るって、ぷーん」

 と、年配の人が東園寺から果実を受け取り、ひと口かじる。

「わっぱ、ぷーん!」

 うまい、といった感じで笑顔をつくる。

「もっとだ」

 と、東園寺はジェスチャーを交えて指図する。
 すると、年配の人はまたたくまに果実をたいらげる。

「ふむ……、今度はこっちだ」

 ニンジンを差し出す。

「わっぱ、ぷーん!」

 同じようにたいらげる。

「次がこれだ」

 キャベツのような野菜を差し出す。

「わっぱ、ぷーん!」

 またたいらげる……。

「と、東園寺くん……?」
「黙って見ていろ、徳永……、次はこれだ」

 今度は大きな干し肉を差し出す。

「わ、げふっ、わ、わっぱ、ぷーん」

 なんとかたいらげる。

「これはどうだ?」

 パンのようなものを差し出す。

「わ、わ、わっぱ、うぷ、ぷーん……」

 苦しそうにたいらげる。

「なるほど……、次はこれだ」

 チーズのようなものを差し出す。

「わ、わ、わ、っぱ……、ぷーん……」

 それでもたいらげる。

「ほう……、なら、これはさすがに無理だろ……?」

 鳥の手羽先のようなものを差し出す。

「わ、わ、わ、うおうふ、はっ、げほっ……」

 ついに食べ切れずに吐き出してしまった……。

「やはりな……」

 それを見て、東園寺が立ち上がる。
 そして、苦しむ年配の人を見下ろしながら、

「貴様、毒を盛ったな?」

 と、勝ち誇った顔で言いやがった。
 い、いや、いや……。

「どう見ても、ただの食いすぎだろ!!」

 と、思わずツッコミを入れてしまう。
 ひどいものを見た……。

「おじいさん、大丈夫……?」

 と、しょうがないので、苦しそうにしているおじいさんの背中をさする。

「きゅー、ぷーん……、きゅー、ぷーん……」

 とか言っている……。
 きゅー、ぷーん……。
 きゅー、ぷーん? 

「ああ!?」

 きゅー、ぷーん、したら、わっぱ、ぷーん、しなきゃ! 

「獏人!」

 と、狩猟班の佐野の名前を叫ぶけど、彼はいない……。

「くっ……、公彦! おじいさんの腕を持って、両腕よ!」
「あ? ああ……」

 と、東園寺がおじいさんを仰向けに寝かせてその両腕を掴む。

「よし! えっと、じゃぁ……、彰吾! おじいさんの足を持って、両足よ!」
「えっ?」
「はやく、彰吾、わっぱ、ぷーん、よ!」
「わ、わかった……」

 と、人見もおじいさんの足を持つ。

「さぁ、二人とも、おじいさんを持ち上げて!」
「お、おう……」
「あ、ああ……」

 と、彼らがおじいさんを持ち上げる。

「よし! じゃぁ、そのまま振り回して、ジャイアントスイング! わっぱ、ぷーん、わっぱ、ぷーん」
「無理だろ」
「ど、どうやってだ!?」
「え? あ、こうやって、わっぱ、ぷーん、よ……、ああ? どうやって!? あ、だから、こうやって、わっぱ、ぷーん……」

 と、私は一生懸命彼らを誘導してジャイアントスイングみたいにやるけど、どうやってもうまくいかない……。
 二人では無理だったみたい。
 しょうがないので、おじいさんを地面に降ろしてもらう。

「るって、でっど、ろーす、ぷーん……」

 と、おじいさんはお腹をさすりながら立ち上がる。

「わっぱ、ぷーん」

 そして、笑顔を作る。
 なんか、大丈夫だったみたい、よかった。

「それで、どうするの、これ?」

 と、徳永が私たちが遊んでいると思ったのか、少し怒った口調で尋ねてくる。

「持ち帰ってもらう、我々は人からめぐんでもらうほど落ちぶれてはいない」

 東園寺が毅然とした口調で言う。

「持ち帰ってもらう? せっかく、持って来てくれたのに?」
「そうだ」
「食料もそうだけど、衣類は欲しい、積荷にあった洋服を仕立て直して着るのにも限度がある、それはあなたも知っている事でしょ?」
「ああ、だが、無償で貰うわけにはいかない」
「どうして?」
「あいつら現地人は、俺たちを何か超常の存在、神のように思っている。そう思っているからには、必ず何らかの見返りを求めてくる。俺たちに出来る事ならばいいが、出来ない事、例えば、雨を降らせてくれ、豊作にしてくれ、などの要求だ。まぁ、これはいい、出来ないものは出来ないで済ませられるからな。だが、問題はこの先、村、集落で不幸があった場合、疫病が蔓延した場合、やつらはこう考えるだろう、良い事は何もしないくせに、不幸だけが襲ってくる、お供え物だけむさぼり食って見て見ぬ振り……、あいつらは神ではなく悪魔だ、討ち滅ぼさなければならない存在なのだ、と……、いずれ必ずそうなる、断言してもいい」

 うん、長い……。
 聞いてられないから、私は木彫りの彫刻を見てる。

「じゃぁ、どうすれば……、関わりはもたないと……?」
「いや、俺たちに超常の力がない事を証明し、対等の関係で売買、交易するのならば関わりをもってもいいだろう」
「交易……、私たちも何かを差し出すのね……、でも、いったい、何を……」

 徳永が腕を組んで考え込む。
 実際、こっちから売れる物って少ないのよね、結構ギリギリの生活をしているから。

「ありがたく貰っておけばいいのに……」

 そう、小さくつぶやく。

「そういう事なら、ここは俺におごらせてもらおうか」

 と、人見がポケットから何かを取り出しながら言う。

「エシュリン、すまんが通訳を頼む」
「はい、ぷーん!」

 二人があのおじいさんのところに歩いていく。
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