傭兵少女のクロニクル

なう

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第24話 みなしご

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 太陽は沈んでしまったけど、まだうっすらと光が残り、ふわふわのわた雲をオレンジ色に染め上げていた。
 また、空は深く澄みわたり、地平の彼方がうっすらとしたみろり色に輝く……。
 とても綺麗な空……。
 私たちはそんな綺麗な空を見上げながら夕食をいただく。

「ねぇ、ハル……?」

 私は焼き魚の小骨を取りながら和泉に声をかける。

「うん、なに、ナビー?」

 彼も同じようにフォークとナイフを使って小骨を取り除いていたけど、その手を止めて私のほうを見る。

「あの仔馬、ウェルロット……、本当はどうしたの……?」

 シウスたちの時からだけど、やっぱり三回連続で同じシチュエーションっていうのもおかしな話だ。

「うん、取り残されていた、っていうのは本当だよ、ナビー」

 と、彼は少し笑顔を作ってまた小骨を取り除く作業に戻る。
 ああ……、なるほどね……、大体察した……。

「孤児か……」
「どうだろうね……」

 シウスたちもか……。

「ありがとね、ハル……」

 みんなを助けてくれて。

「うん……」

 うん……。
 それにしても小骨が多い! 
 私はお皿をカチャカチャとさせる。

「こら、ナビー、お行儀が悪いわよ」

 と、夏目に叱られた。

「だってぇ」

 私は頬を膨らませる。
 もう、こんなのいらなぁい。
 私は隣の野菜たっぷりのポトフにスプーンをつける。
 ちなみに、あの旅客機に残されていたレトルト食品はもうない。
 全部食べてしまった。
 なので、今食べている物はすべてここで調達した物になる。
 この野菜たっぷりのポトフもそう。
 ああ、でも、このポトフの味付けに使っている調味料や香辛料は別、あの旅客機に残されていた物を使っている。
 たぶん、あと二、三ヶ月は持つんじゃないのかな。
 問題はそのあとだよねぇ……、お塩とかなくなったら、どうするんだろう……。

「うん、おいしい」

 ほくほくのジャガイモを頬張る。
 待てよ、自然の旨みだけでも十分いけるんじゃないのか……? 
 このにんじんはすごく甘いし。
 うん、いける、いける……。
 私はスープをすする。
 うま、うま……。

「それにしても、牧舎も手狭になってきたよね……」

 と、笹雪が話題を振ってくる。
 確かに、今はウェルロットがひよこたちを踏んでしまわないように、ピップたちには籠に入ってもらっている。
 なので、ウェルロットには別の牧舎が欲しいところ……。

「うん、それにウェルロットはシウスやチャフたちと違って、いっぱい食べそうなんだよね、身体大きいし……」

 それにたいして、雨宮が答える。
 確かに、今でも毎日草刈して、彼らのごはんを確保している、それにウェルロットの分も加わるとなると相当な負担が予想される。

「ヒンデブルク広場をウェルロットの放牧地に出来ないかな?」
「ああ、いいね、それ、ついでにシウスとチャフも連れていけばエサの手間も省けるね」

 おお、いいアイデア! それだったら、ピップたちも連れていくよ! 

「どう、和泉? 班長としてこの案はどう思う?」

 笹雪が意見を求める。

「うん、いいんじゃないのかな、班長会議で提案してみるよ、えーっと、牧舎の拡張とヒンデンブルク広場を放牧地にする案ね……」

 と、和泉がポケットから小さなノートを取り出してメモを取る。

「あ! できれば、ウェルロット専用の牧舎を作ってほしい! ピップたちが危ないから!」

 私は身を乗り出して言う。

「うん、わかった、そっちの方向で話しておくよ」
「やったぁ!」

 と、私は飛び上がって喜ぶ。

「全員、お疲れ、そのまま聞いてくれ」

 喜んでいると、そんな東園寺の声が聞こえてきた。
 なんだろう、と思い椅子に座りながら彼を見る。

「諸君らの頑張りにより、今日も一日無事に終えることができた、ありがとう、礼を言う。だが、まだまだ油断は出来ん、いつ現地人の襲撃があるかわらん、それに備えなければならない……」

 一呼吸を置き、

「そこで、これより、夜間戦闘訓練をとりおこなう事にした」

 そう宣言する。

「え?」
「戦闘訓練……?」
「今から? なんで?」

 女子たちの間からそんな疑問の声があがる。

「ちょ、ちょっと待って、東園寺くん、今日はお風呂の日だよ、女子たちの? みんな楽しみにしてたんだから、日にちをずらす事はできないの?」

 女性班の班長、徳永美衣子が全女性を代表して抗議する。
 そう、今日は待ちに待った露天風呂の日、一週間ぶりのお風呂! 

「だからだ、だからこそ、今日なんだ、徳永……、女性陣は予定通り風呂に入っていていいぞ、いや、むしろそうしていてくれ……」

 東園寺がにやりと笑う。

「え? どういう意味……? 女子は戦闘訓練に参加しなくてもいいって事?」

 徳永が首を傾げる。

「いや、参加してもらう、女性陣は防衛訓練だ、風呂場を防衛していてくれ……」
「はぁ?」
「そして、男性諸君には攻城訓練をしてもらう。今夜、俺たちは女風呂を覗きに行く!!」

 さすがに吹くわ……。

「う、うそでしょ……?」
「み、見損なったわ、東園寺くん……」
「有り得ない、本当に有り得ない……」

 予想通り、女子たちの非難の声が飛び交う。

「みんな誤解しているようだが……」

 参謀班の班長、人見彰吾が銀縁メガネを人差し指で直しながら東園寺の隣に歩いていく。

「別に俺たちは女風呂を覗きたいわけではない……。だが、戦闘訓練ともなると、何か張り合いが必要になる、つまり目的だ、女子諸君も覗かれたくはない、その一心で本気で防衛するはずだ、男子諸君はその本気の防衛ラインにチャレンジする、力と力のぶつかり合い、いい戦闘訓練になるだろう、ああ、重ねて言うが、俺たちは別に女風呂を覗きたいわけではないからな、そのあたりは誤解しないでくれ」

 女子たちが顔を見合わせる。

「こ、これって、人見くんの提案?」
「まぁ、覗かれたくないから、そりゃ、本気で防衛するけどさ……」
「でも、相手は男子だよ、無理だよ、そんなの……」

 と、みんなで話し合う。

「人見くんの言う通り、いい戦闘訓練になるかもね……」
「うん、覗くのが目的じゃなかったら……」
「そうだね……、えっ、人見くん、鼻血出てるよ!?」

 見ると、人見の鼻の下に赤い物が見える……。

「えっ!?」

 人見が手の甲で鼻を押さえて、それを少し離してまじまじと見つめる。

「信じられない、一番覗きたかったのって人見くんなんでしょ……」
「彼もまた男だったっていうわけね……」
「これ、やっぱり人見くんの差し金だよね……?」
「なんか、本当に見損なった、っていうか、すんごい幻滅した……」

 ひそひそと話し合う。

「ち、違う、俺の提案じゃない、あ、秋葉だ、秋葉が言い出したんだ! 俺は別に覗きたくなんかなかったんだ!」

 と、人見が秋葉を指差しながら叫ぶ。
 秋葉ぁ? 私は彼の顔を見る。

「ふっ、ナビー、昼間のリベンジだ、覚悟しておけ、絶対覗いてやるからな」

 と、不敵に笑いながら言いやがった……。
 秋葉が言い出したのか、秋葉ならしょうがないか……。
 でも、なんか、ふつふつと怒りが込み上げてくる……。
 こいつら男子ってふざけすぎだよね。
 私たち女がどんな気持ちで生きているかわかっているの? 
 あの自決用の地下室知っているでしょ、それだけ覚悟して生きているのよ。
 それだけ、あんたたち男子に命を託しているのよ……。
 それがお風呂を覗きたいだって? 
 ふざけやがって……。
 もう、あったまきた! 

「上等じゃないの! その挑戦受けてたつわ!!」

 私はテーブルを両手でおもいっきりバンってやって立ち上がる。

「公彦! 彰吾! そして、蒼! 好きなだけかかってこい! ぼっこぼこにしてやるからぁ!!」

 と、ひとりひとり指差しながら叫ぶ。

「な、ナビーがキレた、な、なんで……?」
「ど、どうしちゃったの、ナビー……?」
「な、ナビー、お、落ち着いて……」

 みんなが私をなだめてくれるけど、怒りがおさまらない。

「みんなも悔しくないの!? あいつら女をなめてんのよ! あんなにやけた顔してぇ! もう許せない、ぼっこぼこにしてやるよ、みんな!!」

 私の魔力拳、ゴッドハンドでぼっこぼこにしてやる! 

「そ、そうよ、ナビーの言う通りよ」
「私の言いたかった事を全部言ってくれたよ、ナビーは……」
「うん、ここは怒るところだよ」
「やろう! 戦おう!」

 お、みんながやる気になってくれた、もう一押し! 

「男どもに目にもの見せてやるよ! 私たちは強いんだから!!」

 と、拳を突き上げて叫ぶ。

「「「おお!!」」」

 女子のみんなも同じように拳を突き上げて叫び返してくれる。
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