傭兵少女のクロニクル

なう

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第12話 シウスとチャフ

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「この子たちって何食べるんだろう?」
「まだ小さいから母乳?」
「母乳かぁ……、誰か母乳出る人いませんかぁ?」
「いるわけないでしょ、ナビー……」

 などと話し合いながら仔ヤギたちがよちよち歩くのを眺める。
 たまにコロンと転がって四本足を空に向けるのが非常にかわいらしい……。

「あ、草食べてる」
「ホントだ、もう食べれるんだ?」

 と、仔ヤギたちが広場の草をはむ。

「よかったぁ、これでエサの心配はしなくていいね」
「でも、この子たちって生後どのくらいなんだろ?」
「三ヶ月くらい?」

 口々に言い合う。

「なら、管理班、切れ味の確認だ」

 と、東園寺がロングソードを手にやってきた……。

「な、何をする気なの、公彦、や、やめてよ……」

 私は驚いて、仔ヤギたちを抱く。

「勘違いするな、こいつらのために柵を作ってやるんだ」

 と、管理班の6人はそれぞれ手にロングソードを持って森の中に入っていく。

「び、びっくりした……、てっきり殺されちゃうものかと……」
「そんなわけないだろ、ナビー。それより、名前を付けてやりなよ、キミが、ね?」

 和泉が笑って言う。

「な、名前か……」

 私は仔ヤギたちをじっと見つめる。
 草をはんではコロンと転がって空に足を向ける。
 そんな事を延々と繰り返している……。
 空を見てるのかな? 

「空かぁ……」

 私も空を見上げる。
 青い空とまばらな積雲……。
 今はないけど、この空には飛行機雲、ベイパーがよく似合いそう……。
 よし。

「えっとね、こっちの片方の耳の先が黒いほうがシウス、で、両耳が白いほうがチャフ、ってのはどうかな?」
「シウスとチャフか、いい名前だ、よかったな、おまえら」

 と、和泉がシウスとチャフの頭をなでる。

「めぇ……」
「めぇえ……」

 なんか、シウスとチャフの鳴き声が違うね。
 私はクスリと笑う。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 それから二日かかったけど、シウスとチャフのお家は無事に完成させる事ができた。
 とりあえず、牧柵と小屋を仔ヤギたちと一緒に見てまわろうかな。
 シウスとチャフは私のうしろをちょこちょこと一生懸命着いてくる。
 なんて、かわいいんだろう、自然と笑みがこぼれてしまう……。
 ゲートをキーっと押して入ってみる。
 牧柵は簡単なもの、一辺が10メートルくらいと、かなりコンパクトなもの。
 柵自体の高さは1メートルくらい、手で押してもびくともしない、しっかりと地面に打ち込まれている。
 小屋も簡素なもの。
 でも、屋根はちゃんと付いている。
 小屋の中にはわらのような枯れ草が敷き詰められていて、ご飯兼寝床って感じになっていた。

「ふかふかだね……」

 枯れ草の山を手で触ってみる。
 小屋自体の木の匂いと枯れ草の匂いが鼻をくすぐる……。

「めぇ!」
「めぇえ!」

 と、シウスもチャフも大喜びで枯れ草の上を転がりまわる。

「たった二日で造ったわりには、ちゃんとしてるよね」

 仔ヤギたちを見ながら感心してつぶやく。

「それぇ」

 と、私も一緒に枯れ草の山に飛び込む。
 すると、シウスとチャフが私のお腹の上に飛び乗ってくる。

「あ、やめて、くすぐったい!」

 なんか、じゃれてくる、かわいい。

「だ、だめ、そんなとこ舐めないで、汚いから!」

 もう、超楽しい、なんだ、これ。

「このぉ!」

 と、シウスとチャフに枯れ草をかけてやる。

「あ、反撃してきた!」

 仔ヤギがぶるぶるとして枯れ草を巻き散らかす。

「あははっ」

 なんか、枯れ草の匂いも心地いいし、すごく気分がいい……。

「ナビーフィユリナ」

 と、大の字に寝転がっていたら、東園寺が大きな箱を抱えて入ってきた。

「うん?」

 私は身体を起こして彼を見る。

「すまんが、そいつらにも仕事をしてもらうぞ」

 と、東園寺は大きな箱を下ろしながら言う。

「仕事?」
「そうだ、仕事だ」

 大きな箱の中身を指さす。
 見ると、沢山の野菜や山菜みたいな物が入っている。
 ああ、そうか……。

「毒見をしてもらう」

 まぁ、そうだよね、ちょうどいいよね……。

「もちろん、なんでも食わせる気は毛頭ない、明らかに毒だというものは入っていない、おそらく大丈夫だろう、だが、最後に念の為に毒見をしてもらう、そういう物だけだ」

 私の表情が翳ったのを見て彼が付け加える。

「うん、それは信用するよ……」
「すまんな」
「でも、ひとつ条件を出していい?」
「なんだ?」
「この子たちに食べさせるのは私、私から見て毒かどうかわからない物だけ食べさせる、他の人には勝手にやらせない。それが条件よ」
「もちろんだ、最初からそのつもりで持ってきた」
「ありがと、公彦」

 私は無理して笑顔をつくる。

「じゃぁ、置いていくぞ、おまえの好きなタイミングで食わせてやってくれ」

 と、東園寺が出て行く。
 残される私たち……。

「めぇ……」
「めぇえ……」

 シウスとチャフが私の手に鼻先をこすりつけてくる。

「大丈夫だよ、心配いらないよ、毒なんて入ってないからね」

 と、私は仔ヤギたちの頭を抱く。
 そして、立ち上がり、箱の前まで行き、しゃがんで中を覗き込む。
 うーん、普通の野菜だねぇ……。
 と、ひとつずつ手に取って眺める。
 でも、草、特にネギっぽいのは駄目だよね。
 ぽいっと投げ捨てる。
 あとは根菜だよね、じゃがいもっぽいのとかにんじんっぽいのがある……。

「というか、どう見てもにんじんとじゃがいもだよ、これ……」

 窓から差し込む光にかざして見る。

「めぇえ」
「うん?」

 と、見ると、チャフがさっき捨てたネギっぽい野菜をむしゃむしゃと食べていた……。

「ああ! それは駄目だよ、チャフ!」

 私は大慌てでじゃがいもとにんじんを放り投げて、チャフからネギっぽい野菜を取り上げる。

「だ、大丈夫!? 毒じゃないよね!?」
「めぇえ……」
「めぇ」

 シウスまで返事をした。
 見ると、シウスがさっき放り投げたにんじんをばりぼりと食べていた……。

「ああ!? だ、駄目だってば!!」

 私は大慌てでネギっぽい野菜を放り投げて、シウスからにんじを取り上げる。

「めぇ……」
「めぇえ」
「ああ!? チャフが箱に入って手当たり次第食べてる!!」

 ああああ!? どうしたらいいの!? 
 チャフが箱の中で食い散らかして、シウスが外に落ちてる物を食べてるし、私の手にはにんじんがあるし……。
 うん? 
 くんくん……。
 これ、やっぱりにんじんだよね? 
 シウスが食べた反対側を袖でごしごしと拭く。
 そして、食べてみる……。
 むしゃむしゃ……。

「うーん?」

 ばりぼり……。

「うーん……」

 ごくり。

「おいしい!」

 甘いにんじんって感じ、味はいちごに近いかもしれない! 

「めぇ!」
「めぇえ!」
「こらぁ! シウス、チャフ! そんなに食べないで!」

 こうして、にんじんの争奪戦がはじまった。

「がるるる!」

 私は四つんばいになって、頭でシウスとチャフを押しのける。

「めぇえ!」
「めぇ!」

 でも、シウスとチャフも抵抗してくる。

「あ、このネギっぽいのも食べれるよね?」

 チャフも食べてたし。
 袖でごしごしてからガリっと噛んでみる。

「うん、ネギだ……」
「めぇえ」

 と、チャフが私の反対側からネギを食べだした……。

「ああ! これは私の!」

 うん? こっちのじゃがいもっぽいのは、やっぱりじゃがいも? 
 くんくん。
 でも、なんか、泥だらけで食べる気にならない。

「ぽいっと」

 私はじゃがいもっぽいのを投げ捨てる。

「ナビー……」

 誰かの声がした。
 入り口のほうを見ると、そこには和泉と夏目が立っていた。
 そして、和泉が私の投げ捨てたじゃがいもを拾い上げる……。

「ナビーって、本当にかわいいらしい性格してるよね……」
「うん、無邪気って言っていいのか、天然って言っていいのかわからないけど……」

 なんか、二人が笑うのを我慢しているような複雑な表情をしている……。
 や、やばい、もしかして、見られていたの? 

「い、いつからそこに……?」

 自分でも顔が熱くなっていくのがわかる、もう耳まで熱い。

「結構前から……」
「うん、声をかけ辛くて……」

 ああ!? ち、違うの、そうじゃないから!! 
 私はただ、ナビーフィユリナと云う少女を演じていただけで、本当は最強の傭兵、パーフェクトソルジャー武地京哉なのよ!! 
 敵兵からは、発すれば雷神の如く、動けば風神の如く、戦う様は鬼神の如し、って、恐れられるほどのクールな男なのよ!! 
 戦場の魔神なんだから!! あら、かわいい戦場の魔神さんね、なんて、言わないでよ!! 
 勘違いしないでよね、超強いんだから!! 
 そう叫びそうになるのをぐっと堪える……。
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