推しの悪役令息があまりにも不憫すぎるので、現代日本で俺が幸せにします!

愛錵 芽久郎

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第21話:「信じて」

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本日も遅刻してしまいました…(汗)
本当に申し訳ございませんm(__)m

大変お待たせ致しました!
少しでも楽しんでいただけますように、心を込めまして。




+++



「それ、本当に彼女なのかしら?」

「えっ…」


 響に恋人がいると思われること、自分は響の迷惑にならないために離れ、自立しようとしていることを麗に話した。

 すると、麗から放たれた言葉にヴェリキュスは頭が真っ白になる。


「えっと、でも…お二人の様子は本当に仲睦まじくてお似合いだったんです」

「そりゃあ、仲がいいでしょうね。一緒に喫茶店に行くくらいですもの。でも直接、響に聞いたわけではないのでしょう?二人の様子を見ただけで恋人と決めつけるだなんて、よくないことだわ」

「そ、それはそうですが…」


 ヴェリキュスは胸の痛みに思わず顔を顰め、顔を俯けた。


「私は殿下にも捨てられた身です。そんな私が響さんに振り向いてもらえるとも思えない。私は…これ以上、響さんに迷惑をかける存在にはなりたくないんです」


 絞り出すように口にした言葉を聞いた麗は、顎に指を当て瞼を閉じたかと思うと徐に、ゆっくりと目を開けた。


「アナタは自分のことばかりね」


 その言葉を重く、そして核心を突いていた。

 ヴェリキュスは勢いよく顔を上げると、麗の顔を見つめた。


「私は、響さんを思って…」

「いいえ。アナタは自分のことしか考えていないわ」


 再度、麗は厳しくヴェリキュスに言い放った。


「ヴェリキュス。アナタは響の為と銘打って、本当は恐れているだけなのよ」


 厳しい口調でありながらも、瞳に讃える光はヴェリキュスを案じるものがあった。


「アナタは恐がっているだけなの。気持ちを伝えて響に拒絶されることが。そして、以前の世界の婚約者であった王子同様に響にもしも裏切られることがあったらと…」


 ヴェリキュスは呆然としていた。

 強く胸に響くものがあったから。


「目を背けてはいけないわ、ヴェリキュス。本当に欲しいものを…やりたいことを。それらから逃げてしまえば確実に後悔することになる。そして、響に対しても、それらの思考は失礼極まりないことだわ。だって、アナタがしていることは以前の婚約者である人格破綻者と響を同じに見ていることになるんですもの。そうでしょう?」

「そんな、一緒にしているつもりは…」

「自覚がなかったとしても同じことよ」


 麗の言う通りだ。

 過去のトラウマを恐れるがあまり、完全に失念していた。

 自らが行う行為は響に対して失礼極まりないことに全く気がついていなかった。


「私は、なんて酷いことを…」


 再び涙がこぼれ落ちて、ヴェリキュスの膝を濡らした。

 その様子を見る麗は、ソファから立ち上がりヴェリキュスの隣に座ると肩を抱く。


「ヴェリキュス。アナタは充分に魅力的だわ。もっと自信を持ちなさい。王子がアナタを裏切ったのは、ソイツ自身に見る目がなくて、ソイツ自身に問題があっただけのこと。アナタのせいではないわ」


 肩を撫で、労わるように優しく叩かれる。


「響をもっと信じてあげて。自分自身が愛する相手なんだもの。自分にとって良い人間に決まっているんだから。好きだと思うのなら、傾倒しすぎない程度に彼を信じてあげなさい」


 親身に優しく、優しく紡がれていく言葉。

 ヴェリキュスは嗚咽を漏らしながら、その言葉たちを只々、聴いていた。


「まあ、そういうワタクシも自信がなくって一度、ルメアーノから逃げようとしたのだけれどね」

「片喰さんがですか…!?」


 ヴェリキュスは驚きのあまり、潤む瞳を大きく見開いた。


「ええ。この世界はやってくる前の天界で過ごすうちにルメアーノに惹かれていったのだけど、ワタクシは彼からすればただのしがない人間なんだもの。彼の隣にいるのは相応しくないとか、今まで人を殺めてきた罪深い自分が彼を幸せにできるわけがないと身を引こうとしたの」


 当時を思い出すように目を彷徨わせ、麗は続けた。


「でも、いろいろ考えていくうちに気がついたの。この思考回路はワタクシ自身が傷つかないようにルメアーノから逃げようとしているだけだって。それに思い至った時に酷く馬鹿げていると自分で思ったわ。まだこの気持ちを伝えてもいないのに彼から離れようとするなんてって。前の世界で周りの影響から自分を縛り付けて自分のやりたいように生きてこられなかった人生なのに、ワタクシは自らまた縛り付けようとしていたのよ」


 ヴェリキュスは心から共感した。

 以前の生活から解放されたはずなのに、染みついた思考や生活が再び己を縛り付けようとする様に強く心当たりがあったから。


「ねえ、ヴェリキュス。ワタクシたちはもう、あの頃とは違うわ。ワタクシはレイヴン・バラスタシアではなく片喰麗だし、アナタは貴族でもなんでもない只のヴェリキュス・ロ・ラベリッタでしょう?人を傷つけるようなことをしない限りは自分のやりたいようにやっていいのよ」


 そう言って、明るく笑う麗は本当に美しかった。

 様々なしがらみから己自身の手で抜け出した彼は、人間として本当に立派な人だったからだ。


「ありがとうございます、片喰さん。なんだか目が覚ました。私は私のやりたいように、後悔のないように行動していきます」


 ヴェリキュスは、もう泣いていなかった。

 強い光を目に讃え、真っ直ぐに決意する様はヴェリキュスの真の美しさを表すように凛としていた。


「それでこそアナタよ、ヴェリキュス」


 麗は満足そうに笑うと嬉しそうにヴェリキュスの頭を乱暴に撫でた。




+++



 泣きすぎてしまったあまりに、腫れてしまった目を治癒魔法で治したヴェリキュスは職場へと戻ろうとしていた。

 指先も魔法で治すべきなのかもしれないが、指を怪我している姿は多くの人に目撃されているので治してしまうと不審に思われる可能性がある。

 ちょっとしたことでも気をつけることに越したことはない。


「申し訳ありません、モモさん。只今、戻りました」


 声をかけて店内に入ると、そこには予想していなかった人物がカウンター席に座っていた。


「響さん…!」

「指、切ったんだって?ヴェリきゅん大丈夫?」


 心配そうな顔でヴェリキュスの様子を伺う響。
 仕事帰りなのかスーツ姿でやって来ていた。


「ヴェリきゅん、最近ちょっと様子が変だったから心配してたんだ。もし、何か悩んでることがあったら些細なことでもいいから俺に言ってね?」


 響の気遣いを感じる言葉にヴェリキュスは言いようのない温かな感情が胸に湧き上がるのを感じていた。

 (嗚呼、私はどうしてこんな優しいひとに対して不安に思っていたのだろう)

 ヴェリキュスは改めて響に対し、反省すると共に麗から言われた言葉を思い出していた。

 欲しいものをやりたいことを、自分の気持ちが赴くままに行動しなければ後悔する。

 本当にその通りだと思った。
 今まで、親の敷いたレールを強制的に歩かされてきた人生。

 でも、今は違うのだ。

 もう一度、いただいた人生。
 私は私の意思で生きている。

 片喰さんの仰る通り、後悔のないようにしなくては。

 ヴェリキュスは、決意を新たにすると、響に返した。


「ご心配をおかけしてしまって、すみませんでした。少し、己の未熟さに思うところがあって…でも、片喰さんに思いがけず相談させていただく機会をいただいて、気持ちが楽になって…自分の考えを改めたんです」

「ううん、気にしないで。そっか。ヴェリきゅんの気持ちが晴れたんだったら、本当によかった」


 そう言って笑う響にヴェリキュスは、やっぱりこの人が好きだなぁと強く思った。

 唇が震えそうになるのを自覚しつつ、ヴェリキュスは意を決すると響に尋ねた。


「あの、この間…夕ご飯の買い物帰りに喫茶店で女性といらっしゃるところをお見かけしたのですが…その、あの方は恋人ですか?」


 響は突然なされたヴェリキュスの質問に目を丸くすると次の瞬間、口にしていた飲み物を大きく吐き出していた。



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