推しの悪役令息があまりにも不憫すぎるので、現代日本で俺が幸せにします!

愛錵 芽久郎

文字の大きさ
上 下
20 / 26

第18話:「桃源郷」

しおりを挟む



 (ここは…どこだろう)


 ぼんやりとした視界の中、意識を浮上させる。

 オレ、何してたんだっけ。
 仕事をする為に仕事現場になるところへ向かってて…

 それで…あ、そうそう。麗さんとルメアーノさんと三人でふざけ合ったりしてて、お茶した後に打ち合わせして。

 あれ?それでどうしたんだっけ…?
 よく、思い出せないな。

 物思いに耽っていると、靄がかかっていた視界が急に晴れた。


「は、え…?ここ、どこだ?」


 目の前には草原が広がっていた。
 ところどころに見たことがない花が咲いている。


「こんな色の花、見たことない!すげえな…!」


 品種改良が進んでいる日本でも見たことがない、虹色や金色、この世のものとは思えない色の花が咲いていた。


「はは、なんか察しちゃったかも…」


 オレは察しのいい子なんでね。
 段々と記憶を思い出してきたし、総合すると…


「オレ、死んじゃったんじゃね?」


 その結論に辿り着いた。

 ちゃんと受け身取れてたと思うんだけどな~
 観客も多かったし、無理な体制ではあったから酷く頭をぶつけたのかも。


「23歳の人生か~短過ぎんだろぉ…」


 何もかもがどうでも良くなって、草原に寝転がる。


「天国ってだけあって、気持ちがいいな…」


 燦々と降り注ぐ太陽。
 そよいでいる爽やかな風。


「ここで美女とか出てきたら、もっと最高なんだけどな~!」


 なんて、冗談を言っていた時だった。


【ルメアーノ!ルメアーノ!!どこにいるのですか?人を呼び出しておいて、酷いですよ】


 心を惹かれる美しい声。
 オレは、この人を知っている───?


【おや。ルメアーノ、こんなところに───】


 その人の姿が見えた。目にした瞬間、オレは言葉を失った。
 この世のものとは思えない美しい人が立っていたからだ。


【貴方は…】


 透明でいて、光の変化で虹色に見える瞳が目の前の存在を人ではないと示している気がした。

 暫し、オレたちは見つめ合った。

 時間が止まったように。オレたちだけしか、この世界にいないかのように。

 今までずっと、物心がついた時からずっと、心残りのようなものがあった。
 靄がかかって、わからなかったものが一気に理解できてくる。

 そうか、オレは───。


【ペル、シカ…?】


 美しい瞳から、涙がこぼれ落ちる。
 恵みの雨のように、きらきらと地面へ落ちていった。


【ペルシカ…!ペルシカ!!】


 オレたちは、吸い寄せられるようにお互いに駆け寄った。


【ずっと…会いたかった。ペルシカ。会いたかったのに、君ってば、どこにもいなくて。そうか…辛くて、我は君を忘れていたのか】


 抱きしめられた身体から、柔らかな感情が伝わってくる。
 そうか、オレは…この人に会う為に生まれてきたんだ。


【ペルシカ…君に会えて全て理解した。君が、君が。我の───】


 涙に濡れる顔が愛おしくて。
 オレは彼の涙を指で優しく拭った。


「遅くなってごめん。ただいま、ベルギア」


 謝りながら名前を呼んだ。
 オレが前世で愛した愛おしい男の名前を。

 暫く泣いていたベルギアは深呼吸をして涙を落ち着かせると、意を決したように顔を上げた。


【ねえ、ペルシカ。君に一つ確認したい。いいかな?】

「もちろん、いいよ」

【ありがとう、ペルシカ。早速だが、今の君の名前は、なんというの?】

「オレの名前は、桃田陽介だよ」

【桃田…陽介。そうか、君はルメアーノの世界で生まれたんだね】

「ルメアーノって、もしかしてあの、ルメアーノさん!?ルメアーノの世界って、どういうこと!??」

【そうか。ペルシカは普通の人間だから、我々種族のことは知らないんだね。ペルシカ。驚かせるかもしれないけど、どうか落ち着いて聞いてほしい】


 それからオレは、この世の摂理とでもいうような、世界に関するような壮大な話を聞かされることになった。

 ベルギアが生まれ変わり、ルメアーノさん同様の天上を管理する種族に生まれ変わったこと。オレからすれば、ベルギアが神に近しい存在になったのかと思うと驚きである。

 その種族には生まれつき名前がなく、名前を得るには番の存在が不可欠だ。

 人生に、たったひとつ。その種族には番という運命とも呼べる特別な存在を得ることができる。
 番になる存在は本能的にわかるそうで、その存在に番になってもらうことを合意のもとで名前をもらうと、そこから種族として一人前になれるそうだ。それに加え、番として、ずっと一緒にいられる契約も自動的になるのだとか。


【そ、それでね…ペルシカ。その、君が我の番…だと我の本能は感じているんだ。番だからだけじゃない、我は君と離れていた分も、これからはずっと一緒にいたい。我と番に…なってくれないか?強制するつもりはない。もしも、君が嫌なら諦めるよ。でも…我は前世も今も。ペルシカを、桃田陽介を…愛している。突然、再開してこんなこと言われても信じられないかもしれないけど……!】


 前世の時とは、髪の色も目の色も変わってしまったが、ベルギアの中身は変わらない。いつだって、可愛くて愛おしいベルギアのままだ。

 白い頬を赤く染めて、ベルギアは愛の告白をしてくれた。

 お前の死に際に聞いた告白に返事をすることは叶わなかったけれど。ようやく、お前にこの気持ちを言える。


「ベルギア。オレも、ずっとずっと。お前を愛している。生まれ変わっても、何度も夢に見て、お前を忘れられないくらいには。やっと、お前に伝えることができる。お前に名前をあげるよ。"ベルギア"、オレとずっと一緒にいて。今度こそ、ベルギアを守らせて」


 告げた瞬間、ベルギアの身体が光に包まれた。


【我の名前は、今からベルギアと相成った。これからは、ずっと一緒だよ。ペルシカ】


 その後は言葉なんていらなかった。

 顔を寄せ合い、口付けを交わす。
 前世では願っても叶わなかった触れ合い。

 口付けがこんなにも、胸を震わせるものだなんて。
 オレは知らなかった。




+++



「モモさん……ッ!!」


 モモが意識不明と知ったヴェリキュスが響と共に駆けつけて来た。

 モモの意識は未だに戻らない。
 時間からは数時間経っていて、医師は頭を打ちつけたものの命に別状はなく、目が覚めない原因はわからないという。

 原因がわからないことも仕方がないはずだ。
 モモはここではない別の場所に意識があるのだから。

 ヴェリキュスは心配そうに涙を浮かべてモモを見ている。
 寄り添う響もヴェリキュスの肩を抱いて、苦しげな表情をしていた。

…アナタたち、それでよくお互いに自覚がないとか言えるわよね、呆れるわよ。

 そんな風に半ばヤケクソにならなければ、ワタクシ自身もモモのことが心配で堪らない部分もあった。

 ルメアーノは相変わらず慈悲深い顔でモモを見守っていて、訳知り顔だし…もう、事情を知ってるなら早く言いなさいよ!

 内心、八つ当たりしているとワタクシの心情を察したのかルメアーノがこちらを見て微笑んだ。

……その笑顔に絆されたらしないんだからね!

 己と格闘していると、ベッドから呻くような息遣いが聞こえた。


「モモ!」


 ワタクシが声を張り上げて名を呼ぶと、周りのヴェリキュスたちも叫ぶようにモモの名前を呼んだ。

 慌てて駆け寄ると、モモの瞼が徐々に開いていった。


「ここは…」

「モモ、ワタクシがわかる?どこか苦しいところはない?!」

「麗さん…」

「モモさん、大丈夫ですか!?」

「モモくん、大丈夫っ!!?」

「ヴェリくん、響くん……」


 モモは周りを見渡すと、慎重に起き上がった。


「体は問題ないみたいっすね…」

「モモ、ごめんなさい。アナタがこんなことになったのは、ワタクシの警戒が甘かったのよ。本当にごめんなさい」

「麗さんは警備の配置も、ちゃんと考えてたし犯人が全面的に悪いんで、麗さんは何も悪くないっすよ」

「モモ……」

「それに、今回のおかげでオレは大事な人と再開できんたんで。な?ベルギア」


 モモがそう言うと、モモのベッド付近に一点の小さな光が現れ、それが段々と大きなものになっていく。
 それは、まるでルメアーノがワタクシの元に来る時のような───。

 もしかして。


「杜若響くんは二回目ですかね?他の方々は、はじめまして。我の名前はベルギア。ヴェリキュスを救う為に行動を起こしたお節介モノ…といえば、わかりますかね?」


 自己紹介を終えると、にこりと美しく笑った。
 ルメアーノの種族は髪や瞳の色が似るのかしら。ルメアーノと兄弟みたいに、そっくりだわ。


「ヴェリきゅんを託してくださった神様!?」

「えっ!響さん、こ、この方が…!!?」


 ヴェリキュスと響の二人は、とんでもなく驚いている。
 それもそうだろう。事情を知らない二人からすれば、もう会えないはずの神様が突然に降臨されたのだから。


「まあまあ、落ち着いて二人ともっ。事情は後で詳しく説明するからさ!」

「これが、落ち着いてなんていられるか!その節は本当にお世話になりました」


 あくまでも軽いモモに響は珍しく動揺して、ツッコミを入れている。

 そこへヴェリキュスは、真剣な面持ちでルメアーノの同胞の方、ベルギア様の元へと歩んだ。


「神様…いえ、ベルギア様。私を救っていただき、本当にありがとうございました。私は…今、とても幸せです。それを、ずっと貴方様にお伝えしたかった。お会いできて、本当に本当に光栄です……」


 震えるように言葉にすると、ヴェリキュスは感極まり泣き出してしまった。

 その様子を愛おしげに見つめると、ベルギア様はヴェリキュスの頭へと手を伸ばし、優しく頭を撫でた。


「ヴェリキュス。幸せそうで、本当に良かった。幸せそうな姿を見られただけで、私は本当に嬉しいですよ」


 ワタクシはルメアーノの側へ寄ると、肘でこっそりとルメアーノを小突いたのだった。




+++ ↓以下、後書きですm(__)m



ここまで、お読みくださり、ありがとうございました!!
皆様、お世話になっております。
愛錵芽久郎です!

今月分の10話分が今回のお話で投稿し終わりました…!
途中、一日お休みをいただいたりですとか、投稿が17時の予定とお伝えしておきながら時間が間に合わず過ぎてしまったりと今月はいろいろとありましたが、無事に完走することができました。
皆様のおかげです。ありがとうございました!

毎話投稿する度に読んでくださる方々、そしてご感想やエール、お気に入り。しおりなどしてくださる方々、本当に本当にいつも励みになっております!ありがとうございます…!

来月更新分へ向けて、内容紹介にも連載当初からお伝えしております通り、お休み期間に入ります。

まだまだ愛錵自身、拙いところ多々あるかと存じますが
ヴェリきゅんたち共々、今後とも見守っていただけたら幸いです。
また来月の8日から投稿を再開致しますので、ぜひまたお会いできたら、とても嬉しいです!


今月分が今回で最後になりますので、改めまして。
活動報告にて、その話ごとに小話的なことを書いておりますので、近況ボードの方もぜひ。

愛錵自身、この物語を無事に完結させる目標と共に新たな目標ができたのですが、それがランキングへお邪魔することでございます。
その目標を応援してあげてもいいよ!という読者様がいらっしゃいましたら、こちらの作品にご感想やエール、お気に入り、しおり…などなど、どうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m


長くなってしまいましたが、最後まで後書きをお読みくださり、誠にありがとうございました!!!
2023年9月8日に連載を再開致しますのでその時に、また皆様にお会いできますように…!



しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

処理中です...