推しの悪役令息があまりにも不憫すぎるので、現代日本で俺が幸せにします!

愛錵 芽久郎

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第17話:「時がきたら」

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※残酷なシーンがあります。本当に少しですが、人が死ぬ描写があります。苦手な方はご注意くださいませ。

この作品を書き始めた当初はこういったシーンは出てくる予定がなかったのですが、話の流れで当初の物語の予定に添った中で追加で、今回のようにこうして出てくる形となりました。申し訳ございません。

現在は第10話のレイヴンの過去回より内容紹介を変更致しましたが、そういった描写がないという当初の内容紹介より読み始められた方へ改めまして、深くお詫び申し上げます。ご心労をおかけすることになり、本当に申し訳ございませんでした。

特にどなたから、ご意見が寄せられたとかではないのですが、自分の性分的にもそしてもしかしたら気にされていらっしゃる方もいるかもしれないので念の為、ここにてお伝えさせていただきます。

前書きにて失礼致しましたm(__)m

加えて、小説家になろう様では予約投稿できていたのに、こちらはなってませんでした…!すみません!!

お待たせ致しましたが、少しでも楽しんでいただけたら幸いですm(_ _)m



+++



 子供の声がする。
 それは、どこか懐かしくて愛おしい気持ちにさせてくれるもので。


「こっちだよ!ペルシカ」

「待ってよー!!」


 待ってよと相手の名前を呼んでいるはずなのに、その名前はガサガサとノイズ音のようなもので、かき消されて聞こえない。

 なんだか、大切なものだったはずなのに。
 守らなければいけないものだったはずなのに。

 靄がかかったように、何もわからないでいた。
 すると、映像は切り替わって自分たちは大人になっていた。


「ペルシカ。僕…結婚が決まったよ」

「…ッ!そう、なのですね。それはッ!おめでとうございます!」


 なんとか声量を上げなければ、声が出なくなってしまいそうだった。

 それくらい、ショックだったのだ。
 話によれば、家同士が決めたものらしい。

 守らなければいけない相手。

 自分は、あなたに一生を捧げるから。
─────だから。

 自分の分も、どうか幸せになって。

 場面が切り替わり、鐘の音が聞こえた。
 集まった人々たちは歓声を上げ、主役たちの門出を祝っている。

 嗚呼、おめでとう。
 どうか、どうか。幸せに───。

 その時だった。
 陰からナイフが投げ込まれたのは。


「────!!!」


 相変わらず、名前を呼んでいるのに聞き取れない。

 名前を呼んだ相手の白いタキシードが赤く染まっていく。

 自分の部下たちが、ナイフを投げた犯人を取り押さえている。それがわかっていたからこそ、護衛対象である彼に駆け寄ったのだ。


「ペル、シカ…」

「声を出しちゃ駄目だ!!肺に負担がかかる!今、医師が来る!だから、気をしっかり持ってくれ!!」

「ペルシカ…なら、耳を貸して…くれないか……っ」


 花嫁は突然のことに呆然と立ち尽くしていた。
 周りに気を遣う余裕もなく彼へ全てを優先した。

 彼の願いを叶えようと顔を近づけた。


「こんなことを、言って…ゔ、ごめん……ペルシカ…」


────愛してる。


 その言葉を最後に彼は息を引き取った。

 守ると誓っていたのに。
 何も出来ずに、彼を見殺しにしてしまった。

 こんな役立たずに、お前はそんな言葉をくれて。
 言葉を返すこともできなかった。

────オレだって、お前を愛しているのに。




+++



「んっ…」


 夢、見ていた気がする。
 どんな夢だったか、覚えてないけど。

 幼い頃から、たまにこういった夢を見る。
 内容は覚えていないけれど多分、同じな気がするんだ。


「ヤバっ!こんな時間じゃん!!麗さんにシバかれる!!!」


 俺は慌てて起き上がると仕事へ行く準備を始めた。


「もう、十三時か~夜中の一時前には閉まる店とはいえ、やっぱ、夜型の仕事は寝ちゃうよな~」


 今日はバーの仕事とは別件で、麗さんの護衛の仕事を任されている。たまにオレには麗さんからボディーガードの仕事が舞い込むのだ。

 なんでも、今日はブランドの新作服のデザインの発表会。

 サングラスとか一応ある程度、顔を隠しているとはいえ、雰囲気も全て合わせて麗さんは美人だからな~ファンも多いし、オレみたいな?有能な護衛は必要ってことで!


「孤児院の頃に比べたら、オレも逞しくなったよな~」


 洗面台の前で髪をいじりながら、ふと思った。

 オレは、今住んでいる県の孤児院で育った。
 なんでも、孤児院の前でオレは柔らかで清潔な毛布に包まれてカゴに入れられ、置かれていたらしい。名前を書いた紙はなかったらしいが、捨て方がいつの時代だよって話だよね。

 人からしたら、かなり寂しい幼少期を育った愛に飢えた子、と思われそうだけどオレは特にそういったものはない。

 育てられた期間があるわけじゃないので、オレにとっては親がいないことが当たり前だし今も会いたいと特別思う気持ちもない。もしも、オレに会いたいと来たら普通に会えるくらいのフラットな気持ちだ。

 両親がいなかったからと言って、何か辛い思いをしたこともない。持ち前のコミュニケーション能力で学校で肩身の狭い思いをすることもなかったし。

 オレとしては、無理に育てられない環境で育てられて虐待や育児放棄で粗末に扱われるよりは断然いいと思うのだ。

 それはもちろん、オレのことを育ててくれた孤児院の方々が親切で愛のある場所だったからこそ、そう思える部分もあるのだと思う。だからこそ、オレの故郷である孤児院には感謝しているし、今では収入の一部を寄付していたりする。

 苦労が全くなかったわけじゃないけれど、オレは恵まれていると思う。今の生活も楽しいしね!


「さてと、セットもバッチリ!桃田陽介。今日も元気に頑張りますか!」


 オレは意気揚々と仕事場へと向かった。




+++



「モモってば、ちゃんと時間通りね。遅刻してくるんじゃないかと疑っていたわよ」

「ちょっとちょっと!麗さんってば、酷いっすよ~昔の話を引っ張り出してくるなんて、大手ブランドの創立者にしては器が小さいんじゃないっすかぁ~?」

「ちょっと、言ったわねぇ~!」


 腕を掴まれて、手のひらのツボをグリグリと押される。


「わ、でた!麗さんの地味に痛いツボ押し~!!」

「アラ、ワタクシは痛いと思ったことないわよ?胃の調子でも悪いのではなくて?」

「うわ~横暴だぁー!」


 ふざけ合っていると、隣室からルメアーノさんが現れる。


「おや、楽しそうだね?こちらも混ぜてもらおうかな」

「いいところに来たわね。もう片方の手のツボも押してあげてちょうだいな。モモが健康になるわよ」

「はは!両手ともツボ押されるとか、どういう状況っすか!」


 ルメアーノさんは結局、参加しなかった。
 ルメアーノさんが戻ってきたタイミングでツボ押しをやめ、三人でソファに座り本日の話し合いをする。


「警備の方は、この位置とこの位置にいらっしゃるわ」

「さすが、毎度のことながら抜かりないっすね~これなら、オレも守りやすいです」

「でしょ?滅多なことはないと思うのだけど、この間きていたレターがなかなかハードでね。ワタクシは相手を気にしてはいないのだけど世の中、物騒だから。念には念を入れておくことにしたのよ」

「え、そんなことがあったんですか?」

「そうなのよ。全く困ったものよね。純粋に慕ってくれるのは有難いのだけど、そうではなくワタクシを私有したいと思われたり、難癖をつけられるのは困るわ。ファンレターがラブレターになっている人たちは顔も出していないのに、どこを見て好きになったんだか」

「まあ、サングラスとか帽子を深めに被ってても顔が整ってるのは、わかりますからね…恋に落ちちゃったんですかね」


 珍しく、片喰さんの顔には翳りが見えた。
 ルメアーノさんも真剣な顔で寄り添っている。

 大手ブランドの創設者だ。多額の資産を持っているのは明白だし、そういったカリスマ性にも惹かれたのだろうか。

 夢見るのは自由だけど、好きな本人を困らせるのは違うよな。


「オレが、ちゃんと守りますよ!だから安心してください」

「フフ、頼りにしているわ」


 不安が残る中、始まった新作服の発表会。

 美しいモデルさんたちが、麗さんがデザインした煌びやかな服を着てランウェイを歩いている。

 その光景に見惚れつつ、身辺の警戒をした。

 かなり観客がいる。
 会場は熱気に包まれていて、高揚したように舞台を見つめている。

 懸念していたことも起こらず、無事に発表会は幕を閉じようとしている。
 麗さんが、最後の挨拶に舞台を立ち嬉しそうに会場を見回していた。


「本日は、弊社の新作発表会にお集まりいただき、誠にありがとうございました。こうして、今回の発表会が成功いたしましたのも───」


 その時だった。
 前列にいた男が徐に舞台に立ち上がる。

 周りからは突然のことに、ざわめきが広がっていた。


「麗さん……ッ!!!」

「オレのデザインを盗みやがって…よくも!!」


 手には、ナイフが握られていた。
 小さいナイフだから、バレずに持ち込めたのだろう。

 オレはすかさず、相手の腕を掴み足を払う。
 不審者は転倒して、ナイフを取り落とした。

 相手の手を後ろで捻り上げ、抵抗力を弱めると携帯していた拘束具で不審者を拘束した。

 拘束したことで、油断していたのだろう。
 不審者を立たせ、連行する時だった。

 相手が後ろにいるオレに対して蹴り上げてきた足を躱し損ねた。


「しまっ────」


 舞台の観客席側の方にいたことが悔やまれる。

 転倒していく身体。

 その下には、不審者が出たことで避難誘導をし始めていたとはいえ、まだ人が残っていた。

 その観客たちに被害が出ないように、身体の方向を変える。

 しかし、咄嗟の判断だった為、受け身を取り切れなかった。

 走馬灯のように、様々な光景が過ぎていく。
 その中には笑顔で笑う子供の姿があった。

 嗚呼、そうか。お前は─────。

 オレは激しく頭を打ち、意識を失った。




+++



「モモ…!モモ……ッ!!」

「麗。今回のことはキミのせいではないよ」

「それでも…!ワタクシにできることは、きっともっとあったはずだわ。せめて、モモにも手紙の内容を話していたら結末は違っていたかもしれない」

「友人として悍ましい手紙のことは心配をさせるから言わなかったのだろう?手紙の件は警察にも相談していたのだし、言っても言わなくても、事件が起こったこととキミの行動とは関係ないよ」

「いいえ。違うわ、ルメアーノ。ワタクシが無駄な気遣いをしたばかりに、こんなことになってしまったのよ。モモに伝えていたらモモの行動の仕方は違っていたかもしれない。ワタクシの、せいだわ……」

「麗…」


 麗の元に悍ましい手紙がきたのは、一週間前のこと。
 内容は自分のデザインを盗んだ罪でお前を訴えてやるとの内容だった。
 こちらに盗んだ事実はないし、麗のことを恨むといった内容に、あの気高い麗も少しばかり滅入っていた。

 我々種族は、基本的に地上の干渉をしてはならない。
 それは愛する番であったとしても。

 番の身に実際に何かあれば別だが、何か手を出すと手紙に書いてあるわけではなく、警察も動いている。

 だからこそ、手出しをすることはなかったが。


「このまま、モモが目を覚まさなかったら…ワタクシは……」

「その心配はないよ、麗。もし、モモくんがここから旅立とうとしても寿命でない限り連れ戻してくるよ」

「ルメアーノ…それは、励ましで言っているの?」

「いいや、本気だよ」

「アナタ。そういうところだけ、なんでもありね…」

「我々は愛する番の為なら、頑張る種族だからね」

「全く…」


 先ほどまでは取り乱していた麗が、頭が痛いとばかりにこめかみを押さえた。


「少し冷静になれたわ。そうよね、ワタクシたちとは違う。アナタたちは魂を司る天上の種族だものね。ねえ、難しければ言わなくてもいいわ。今、モモはどうしているの?」

「そうだね…なんといえば、いいだろうか」

「やっぱり、天上の方々には言ってはいけないとか規則があるの?」

「いや、そういったものはないんだけど…キミを混乱させてしまいそうでね」

「それって、どういう───」

「以前にした同胞の話を覚えているかな?」

「同胞って…ルメアーノが親しくしている、番の方が自分の管轄した世界とは違う世界にいるっていう、あの?」

「そうだよ。自分の番が自分の管轄する世界とは違う世界にいることは、時々あるんだ。よく考えて、麗。キミも実際に、ここではない同胞が管轄する世界にいただろう?」

「───っ!」

「普通はね。他所の世界は覗けないから、違う世界に番がいたら、わからないんだよ。それを同胞は善意で見つけてくれたんだ」

「そうだったのね…」

「そして、同胞と時間が合って話した際にはキミの様子を見させてもらっていたりしたよ。そうやって、管轄する本人に見せてもらうことはできるから」

「ちょっと待って、ワタクシも同胞の番の方と同様にルメアーノの管轄する世界じゃないところにいたのよね…?なら、どうしてワタクシたちは番になれたの?その同胞の方みたいに結ばれない運命だったのではなくて?」

「これぞ、愛の力!と言いたいところだけどね。、別の世界に番がいても我々は別に問題ないんだ」

「どういうこと?」

「その番が、その世界で生を全うすれば…番同士は必ず巡り会える。キミと出会えたようにね。魂は基本、自由だ。どこの世界へも渡ることができる」

「じゃあ。どうして、同胞の方は…」

「同胞の番はね、不運にもその世界の軸となる魂だったんだ」

「世界の軸──?」

「そう。たった一つの魂が…天上にいる種族の我々でさえ、知らないような世界の采配によって決められるんだ。それは、大きさ、質量、色、資質…何の条件かはわからないが、今まで選ばれた魂はバラバラで一貫性もなく決められる。世界の軸として選ばれた魂は、その世界から離れることはできない。その世界の中だけで輪廻転生をしていくんだよ」

「ということは…!」

「そう。番を自分の世界へ移動させることはできない。そんなことをしてしまえば、この世界は壊れてしまうだろう」

「そんなことって……」

「だから、我々は祈ったんだ。彼が番を…そして名前を得られない代わりに特別な力を授けてあげてください、と」

「それと、モモが目覚めないのに何の関係があるの…?」

「おや、キミは敏いから気がつくと思っていたのだがね」

「まあ、なんてこと…やっぱり、モモは……」

「そうだよ、彼が。モモくんが、同胞の番なんだ」


 麗は残酷な運命に耐えなれなかったのだろう。
 普段、泣かない彼が涙をこぼしていた。


「モモは死んでしまうの?もしかして、この世界は終わるの…?」

「何も終わらないよ、麗。我々はね、知らない方が幸せだと考えたんだ。番が存在するのに会えないなんて、あまりのことだろう?でも、会う度に感情を失ったように佇む同胞を見て、我々は考えを改めたんだ。時がきたら、我々がどんな力を使ってでも、彼らを引き合わせてあげようって」

「……ルメアーノ」

「麗、どうやらお互い似たもの同士のようだ。どうにも、傍迷惑なお節介焼きだね」


 上手く笑えていなかったのだろうか。
 麗は顔を歪めたかと思うと、こちらに強く抱きついた。



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